そのミステリアスさが彼の魅力だよ
「ああ、そうだった。まだ本題を伝えていなかったね。」
クスッとイタズラっぽく笑い、紫桜帝は言った。
「本題ですか?」
「うん。……今夜、またいつものように集まれるかな?」
「僕は問題ありませんよ、兄上。」
「私も今宵は予定がないからね。承知した。」
二人の返答に満足げに頷き、紫桜帝はお付きの女官を呼び寄せ、あと二人の招待客への言伝を頼む。
「……上機嫌ですね、兄上。」
終始、嬉しさを隠しきれない様子で、いつもより少し興奮気味に女官と会話していた兄宮に、弾正尹宮は呆れた視線を向けた。
「うん。そうだね。だって今夜は宮に会えるんだもの。」
「私も楽しみだよ。時雨君に会えるからね。」
「……中務卿は毎回無下にされているでしょうに。」
「わかっていないね、弾正。恋というのは、壁があればあるほど燃えるものだよ。」
「まえから聞きたかったのだけれど、どうして中務卿はそうまで時雨に固執するの?僕にはわからないな。」
美貌の帝は異母妹に固執する自分を棚に上げ、不思議そうに首を傾げてみせた。
「中務卿の身分ならば、他にも見目麗しい童の一人や二人、捕まえられるだろうに。確かに時雨はとても綺麗な容姿をしているけれど。」
「わかっていないのは紫桜の方だよ。ああ、時雨の真の魅力がわかるのは私だけなのだろうね。」
「……さらりと気持ちの悪いことを言わないでください、中務卿。」
「弾正、中務卿が変態なのは今に始まったことじゃないよ。……それにしても、時雨って、一体どこから来たんだろうね?僕、あまりよく知らないんだよね。親もいないみたいだし。」
「そういえば僕も知りません。確か、姉上が『拾った』とか。……親がいないと言っても、立ち振る舞いや健康状態などから見ても彼は平民ではないでしょうね。……と言ってもその所作は上品ではありますが貴族のそれとは少し違う。異国人なのでしょうか?」
「でもそのミステリアスさが彼の魅力だよ、弾正?」
口元に閉じた扇をあて、中務卿宮は妖艶に微笑む。
「……。……時雨のことは、姉上も気に入っていますよね。」
中務卿宮の発言は一旦無視し、弾正尹宮は兄宮に視線を向け、言った。
「……うん。実は少し妬いているんだよね。」
「姉上を、彼に取られてしまうかもしれませんよ?」
弟宮の言葉に絶句して凍りつく紫桜帝。
クスクスと笑う、そのからかうような笑みは何処と無く、兄にそっくりな弾正尹宮であった。
「そ、そんなの……。」
泣きそうな表情を浮かべつつも、もしかしたらという疑念が消えない。
「宮……。」
琥珀色の瞳を潤ませ、伏せ目がちにつぶやく紫桜帝の様子は儚げで可憐だ。
「ダメだよ、弾正。兄君をからかっては。……さみしいのならば私が代わりに可愛がってあげるから。」
「結構です。触らないでください中務卿!」
「ううっ、宮……。」
……なんとも騒がしいお花見なのであった……。




