「しすこん」も大概にしてください
場所は変わり、内裏の奥。
「桜が満開だね。」
そう、庭に咲く桜を見ながら言う。
年は20歳前後だろう。
光の加減では金にも見える亜麻色の肩ほどの髪。優しげに細められた琥珀色の瞳。
わずかに着崩された緑色の直衣からのぞく病的に白い肌がなんとも言えない色香を醸し出している。
どこか儚さを感じさせるほどに、その青年は中世的に整った容姿をしていた。
彼こそがこの部屋の主であり、また、この国の帝……紫桜帝である。
「春だからねぇ。」
帝の正面に腰を下ろしていた青年が艶っぽい笑みを浮かべ同じように満開の桜に目を向ける。
黒髪黒目の、こちらは繊細な美貌を持つ紫桜帝とは対照的に、ほりの深いはっきりとした顔立ちであり、目元の泣きぼくろといい、大人の色気に溢れる美青年であった。
「この国は桜は国花ですから。」
二人の半歩後ろに座っている青年が生真面目さを感じさせる口調で言った。
黒髪に深緑の瞳を持つ、青年、と言うよりもまだあどけなさが残る少年とも言える年頃であり、線の細い中世的な雰囲気は何処と無く紫桜帝に似ている。
それもそのはずであり、彼は帝の実弟、弾正尹宮であり、また、もう一人の青年は兄弟の叔父、中務卿宮であった。
「せっかくの桜だと言うのに、何が悲しくて男三人で愛でなくてはならないんだろうね。」
少し不満げに、美貌の帝が言う。
「私は全く構わないけれど?」
意味深な笑いを浮かべる中務卿宮。
「気持ちの悪いことを言わないでください。、中務卿。」
「つれないなあ、君は。……紫桜は彼女がいなくてさみしい?」
叔父の問いに、ムッとした表情を向ける。
「当たり前でしょ。せっかくの桜なんだから、宮とお花見したいじゃないか。もちろん僕は宮を愛でるつもりだよ。」
「……兄上。『しすこん』も大概にしてください。」
「『しすこん』?」
不思議そうに顔を首を傾げる紫桜帝。
「妹を異常に可愛がる人を『しすこん』と言うそうです。」
「それは時雨君情報かい、弾正?」
「ええ、そうです。」
紫桜帝も同意するように頷いた。
「彼はとても珍しい言葉を知っているよね。そういえば、この間は中務卿のこと、『ほも』って呼んでいたよ。なんて言う意味なんだろうね?」
「『ほも』、ですか?……さぁ……。」
「今度聞いてみようか?」
と、小首を傾げ、中務卿宮は甥宮に尋ねる。
「そうですね。……ところで中務卿、今日、姉上たちに菓子を送ったそうですね?」
「ああ、そうだよ。」
「……変なもの、入れてないでしょうね。特に媚薬とか。」
ふふっと笑い、首を横に振る。
「まさか。入れていないよ、弾正。いくらつれないからといって、愛しの時雨君に薬をもるなんてするわけないじゃないか。それにあの菓子は宮も食べるんだよ?そんなことしたら……。」
ちらりと「そちら」の方に視線をやる。
にっこりと笑みを浮かべている紫桜帝がいた。
「うん。そんなことしたら、いくらあなたでも、殺すよ?」
「……ほらね。私も命は惜しい。」
「……。」
ああ、やはりこの兄は「しすこん」だ、と思う弾正尹宮だった。
ここで登場人物たちのお互いの名前の呼び方について書いておきます。
紫桜帝は
中務卿宮→中務卿
弾正尹宮→弾正
月影宮→宮とか、あといろいろ
時雨→時雨
中務卿宮は
紫桜帝→紫桜
弾正尹宮→弾正
月影宮→宮
時雨→時雨君
弾正尹宮は
紫桜帝→兄上
中務卿宮→中務卿
月影宮→姉上
時雨→時雨
月影宮は
紫桜帝→兄上
中務卿宮→中務卿、その他いろいろ(変態とか)
弾正尹宮→弾正
時雨→時雨
時雨
紫桜帝→陛下
中務卿宮→その時々(変態とか)
弾正尹宮→宮様
月影宮→宮
といった感じです。
前回のお話で、「少女」=月影宮だとわかってもらえましたでしょうか?
わからなかった方はそう言うことだとご理解ください。
中務卿宮は男色だし時雨君狙いのショタコンな変態さんです(笑)




