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秘め事だらけの宮中絵巻  作者: 日ノ宮九条
一つ、火のないところに煙はたたない
15/17

行方不明

一方その頃。


月影宮は中務卿宮の元を訪れていた。



「いらっしゃい、月影宮、時雨君。」


二人の来訪に、中務卿宮は書簡を書くため持っていた筆を置いた。


「……仕事中なら呼び出さないほうがよかったんじゃない?」


月影宮はちらりとその書簡を見やって言う。


「いや、今終わったところだよ。お呼びだてしてしまってすまなかったね。」

「それは別に構わないけれど……。中務卿が私を呼び出すなんて珍しい。何かあったの?」

「ああ、まぁ、ね。」


中務卿宮は文机の前から立ち上がり、用意された席へと向かう。

月影宮もそれに続き、その半歩後ろに時雨も座る。


「今回、紫桜が計画した『肝試し』について、ちょっと、ね。」

「肝試しがどうかしたの?」

「宮。……最近、貴族たちの従者や童が行方不明になっている、という話は知っているかい?」

「え……。私、知らない……。それ、本当なの?」


月影宮はその翠玉の瞳を見開かせる。


「やはり、知らないか。多分紫桜が宮を心配させないようにと、宮の耳には入らないようにしているのだろうね。……私たちの間ではかなり有名なことだから。」

「むぅ……。私だけ蚊帳の外なんてひどいよ。」

「まあ、そこは紫桜の何時もの心配性なせいだろうさ。……とにかくね、今、そういう事件が起こっているのだよ。『禁中改』も動いているけれど……なにぶん、いなくなったのはそれほど身分の高くない者たちだからね。」


困ったように眉根を寄せ、中務卿宮は肩を竦めた。


( ちなみに、「禁中改」とは警察のようなものである)


「それで、中務卿宮は私に何を伝えたいの?」

「それについてはね……。」


そこで中務卿宮は時雨の方に視線を向けた。


「……まさか、時雨が狙われる可能性があるってこと?」

「……。そうとも、いえるね。」

「そんな……。:

「とはいえ、今はまだ調査段階なんだよ。いなくなった者たちが、誰かに連れ去られたのか、それとも自分からいなくなったのかすらもわかってはいない。」

「……。」

「……卿。その事件と肝試しが、どうつながるんですか?」


そこで、今まで沈黙を貫いていた時雨が口を挟む。


「……新しい呼び名だね。……実は、その行方不明者たちが最後に目撃されたのが、今回の肝試しが行われる場所……後雨宮なのだよ。」

「ええっ!?」


仮にも帝の妹姫とは思えないような奇声を挙げた月影宮に、


「宮、うるっさいです。」


後ろからどつき、冷ややかに言い捨てる時雨。」

「私が悪いの!?」

「…………………………………………。」

「……すいません。」


無言の圧力に屈服する月影宮であった。


「……兄上は、そのこと、知っているんだよね?」

「ああ、もちろん。でも勘違いしないようにね、宮。」

「???」

「別に紫桜は君たちを囮にしようとしているわけではないよ。……二人に関しては純粋に楽しんで欲しいのだろうね。警備も強化するようだから問題はないだろう。」

「それはわかっていました。」


月影宮が返答を返すよりも先に時雨が口を挟む。


「陛下は宮を溺愛していますから、そんなことはしないです。」

「うん。……でも、一応二人にも用心して欲しいから、伝えておこうと思ってね。」

「わかった……。」「わかりました。」


二人の返答に、満足げに頷く中務卿宮だったーーーーーーーーー。

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