行方不明
一方その頃。
月影宮は中務卿宮の元を訪れていた。
「いらっしゃい、月影宮、時雨君。」
二人の来訪に、中務卿宮は書簡を書くため持っていた筆を置いた。
「……仕事中なら呼び出さないほうがよかったんじゃない?」
月影宮はちらりとその書簡を見やって言う。
「いや、今終わったところだよ。お呼びだてしてしまってすまなかったね。」
「それは別に構わないけれど……。中務卿が私を呼び出すなんて珍しい。何かあったの?」
「ああ、まぁ、ね。」
中務卿宮は文机の前から立ち上がり、用意された席へと向かう。
月影宮もそれに続き、その半歩後ろに時雨も座る。
「今回、紫桜が計画した『肝試し』について、ちょっと、ね。」
「肝試しがどうかしたの?」
「宮。……最近、貴族たちの従者や童が行方不明になっている、という話は知っているかい?」
「え……。私、知らない……。それ、本当なの?」
月影宮はその翠玉の瞳を見開かせる。
「やはり、知らないか。多分紫桜が宮を心配させないようにと、宮の耳には入らないようにしているのだろうね。……私たちの間ではかなり有名なことだから。」
「むぅ……。私だけ蚊帳の外なんてひどいよ。」
「まあ、そこは紫桜の何時もの心配性なせいだろうさ。……とにかくね、今、そういう事件が起こっているのだよ。『禁中改』も動いているけれど……なにぶん、いなくなったのはそれほど身分の高くない者たちだからね。」
困ったように眉根を寄せ、中務卿宮は肩を竦めた。
( ちなみに、「禁中改」とは警察のようなものである)
「それで、中務卿宮は私に何を伝えたいの?」
「それについてはね……。」
そこで中務卿宮は時雨の方に視線を向けた。
「……まさか、時雨が狙われる可能性があるってこと?」
「……。そうとも、いえるね。」
「そんな……。:
「とはいえ、今はまだ調査段階なんだよ。いなくなった者たちが、誰かに連れ去られたのか、それとも自分からいなくなったのかすらもわかってはいない。」
「……。」
「……卿。その事件と肝試しが、どうつながるんですか?」
そこで、今まで沈黙を貫いていた時雨が口を挟む。
「……新しい呼び名だね。……実は、その行方不明者たちが最後に目撃されたのが、今回の肝試しが行われる場所……後雨宮なのだよ。」
「ええっ!?」
仮にも帝の妹姫とは思えないような奇声を挙げた月影宮に、
「宮、うるっさいです。」
後ろからどつき、冷ややかに言い捨てる時雨。」
「私が悪いの!?」
「…………………………………………。」
「……すいません。」
無言の圧力に屈服する月影宮であった。
「……兄上は、そのこと、知っているんだよね?」
「ああ、もちろん。でも勘違いしないようにね、宮。」
「???」
「別に紫桜は君たちを囮にしようとしているわけではないよ。……二人に関しては純粋に楽しんで欲しいのだろうね。警備も強化するようだから問題はないだろう。」
「それはわかっていました。」
月影宮が返答を返すよりも先に時雨が口を挟む。
「陛下は宮を溺愛していますから、そんなことはしないです。」
「うん。……でも、一応二人にも用心して欲しいから、伝えておこうと思ってね。」
「わかった……。」「わかりました。」
二人の返答に、満足げに頷く中務卿宮だったーーーーーーーーー。




