交番へ
拾った財布を持ち、公園から少し歩いたところにある交番へ向かいました。
頭の中ではスキップしていました。
交番には四十代くらいの穏やかそうなお巡りさんが座っていた。
「こんばんは。財布を拾ったので届けに来たんですが」
「ありがとうございます。書類を作成しますので、こちらへどうぞ」
勧められた椅子に座って拾った場所と時間を説明し、私の住所と名前、電話番号を書き終えると、いよいよ財布の中身の確認になった。
「中は確認されましたか?」
「いえ、開けないほうがいいかなと思って」
「バッチリです。開けると揉めることもありますからね」
安心していると、お巡りさんが財布のチャックを開けた。
中から出てきたのは──
透明な袋に詰められた、黄色っぽいフワフワしたもの。ずいぶん嵩張っている。
お巡りさんの表情が一瞬だけ固くなった。
これ、ニュースでたまに見る“ヤバい草”? 末端価格うん千万とかいうヤツ!?
「……ああ、蛇の抜け殻ですね」
「えっ、蛇?」
「金運アップのお守りだそうですよ」
「なるほど……ありがたいですね」
「そのありがたい財布、落としちゃってますけどね」
「「あっはっはっはっ」」
笑ったけれど、ちょっと切なくなった。
分厚かった財布の中に、お札は一枚も入っていなかった。
小銭の確認が始まり、硬貨の枚数が丁寧に記録されていく。
合計──777円。
「おお、ラッキーセブンだ」
「そのラッキー、落としちゃってますけどね」
二人して笑った。……でも、どこか笑いきれなかった。
夢が消えた。
いや、消えてはいないか。叶った夢が小さかっただけだ。
一割で77円。四捨五入して78円。缶コーヒーも買えない。
カード類の確認になって、最初に出てきたのは綺麗にパウチされた『四つ葉のクローバー』だった。
「すごい、これ手作り!? 幸せを願う気持ちがこもってそうですね」
「まあ、それも落としちゃってるんですけどね」
「・・・・・・」
もう不憫で笑えなかった。
これだけ幸運たっぷりの物も落とすことがある。お守りを過信しちゃいけないってことか。
次に出てきたのはキャッシュカード。
『キクチ サエコ』と表記されていて、恐らくこれが持ち主の名前だろう。
キクチさん。幸運ばっかりの財布を落として落ち込んでるかもしれないけど、交番に来ればあるからね。
……もしかしたら、財布自体にも思い入れがあるかもしれない。
──早く持ち主の元に戻れるといいね。
私は、お巡りさんが持つ黄色い長財布を見ながら思っていた。




