その後4 唯一
「あれ? 武史、全然飲んでないじゃんw 安酒は飲めないって感じ? 嫌らしい金持ちみたいでいいね~」
「そんなんじゃねぇよ……医者に止められててな」
「ふーん。あの武史がもうそういう年齢かぁw」
……つまらねぇ。
香里との会話もそうだし、同窓会で久しぶりに昔の友人と多数会ったが……やっぱり、退屈なことに変わりはなかった。
香里の話を聞いても、心が動くことはなく。
もういいかげんに、帰ってしまおうかと思っていたのだが……。
「――ってか、武史! あんた、あたしのことブロックしてるでしょ!? お金を借りようとメッセージを入れたら無視されててショックだったんだからねっ」
酒も入っているからだろう。
香里がしつこく絡んできて、なかなか席を立てない。
タイミングを見て帰りたいが、騒がれても面倒だ。もう少し付き合ってやるか。
「……お前みたいな女が一番嫌いなんだよ」
金を目当てに寄ってくる女なんて、クズだ。
そして世の中の女は、そのほとんどが金に目がくらむクズしかいない。
俺がそういう人間しかいない世界にいるだけ、かもしれないが……それでも、女には少しうんざりしている。
今まで、何人の女と付き合ってもうまくいかなかったのは、そのせいだ。
「ふーん。あたしみたいな女が嫌いなら、あたしみたいじゃない女とはどうなの? ねぇ、そういえば武史はもう結婚してんの?」
「結婚は……してねぇよ」
男なら誰もがうらやむような絶世の美女を手籠めにしてきた。だが、誰一人として、結婚していいと思える人間はいなかった。
「まだ遊びたいお年頃ってやつ?」
「もう三十五だぞ……さすがに落ち着いてはいるが、そういう相手がいねぇんだよ」
「マジ? じゃあ、あたしはどう? 武史が結婚してくれるなら喜んであのクソジジイと離婚するっ。もう加齢臭のするおじいちゃんは嫌なのっ」
「……だから、お前みたいな女が一番嫌いって言ってるだろ」
あと、尻の軽い女も嫌いだ。
香里の見た目はそこまで悪くないが……まぁ、見た目を重視する年齢は、もうとっくに過ぎている。
人間は、当たり前だが年を取る。
いくら容姿が良くても、老いれば一緒だ。
だから、中身のしっかりした女を探しているのだが……そんな女はもう、この世に存在しないのかもしれない。
まぁ、俺の理想が高すぎるだけかもしれないが。
「そっかぁ。まぁ、仕方ないね~」
……何を言われても傷つかず平気そうなのは、こいつのいいところか。
バカ女だが、一緒にいて気楽なのは認める。結婚は到底無理だがな。
さて、そろそろ帰るか。
結局、つまらない同窓会だった……と思って、立ち上がりかけた、そんな時だ。
「……そういえば、巧とはまだ付き合いがあるの?」
初めて、香里が声のトーンを落とした。
今までヘラヘラと笑っていたのに、表情も……どこか、落ち着いていた。
様子の変化と、それからあいつの名前が出たので、俺は立ち上がることができなかった。
やっぱり俺は巧のことを気にしているらしい。
「いや……学生のころ以来は、会ってねぇよ」
「そっか。浮気、バレてたみたいだし……あれ以降、武史も巧とは気まずくなっちゃったもんね」
あの時期から、俺と香里は巧と会話することがなくなった。
あいつは教室の隅で、一人で静かに過ごすようになって……友人も作らなかった。だから、同窓会に来ている誰も巧のことは分からない上に、覚えてない人間も多かった。
でも、香里はちゃんと巧のことを覚えていたらしい。
「そっか。武史なら、知ってると思ったのになぁ」
「……なんだよ、気にしてんのか?」
「うん。だって……あたしのことを『好き』になってくれた、唯一の人だから」
香里は普段、中身のないことしか言わない。
真剣な話を嫌がり、本音の言葉を口にすることを怖がる、そういう臆病な人間だ。
でも、年を重ねたからだろうか。
少しだけ、こいつにも変化があるようだ――。




