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99/105

その後4 唯一

「あれ? 武史、全然飲んでないじゃんw 安酒は飲めないって感じ? 嫌らしい金持ちみたいでいいね~」


「そんなんじゃねぇよ……医者に止められててな」


「ふーん。あの武史がもうそういう年齢かぁw」


 ……つまらねぇ。

 香里との会話もそうだし、同窓会で久しぶりに昔の友人と多数会ったが……やっぱり、退屈なことに変わりはなかった。


 香里の話を聞いても、心が動くことはなく。

 もういいかげんに、帰ってしまおうかと思っていたのだが……。


「――ってか、武史! あんた、あたしのことブロックしてるでしょ!? お金を借りようとメッセージを入れたら無視されててショックだったんだからねっ」


 酒も入っているからだろう。

 香里がしつこく絡んできて、なかなか席を立てない。


 タイミングを見て帰りたいが、騒がれても面倒だ。もう少し付き合ってやるか。


「……お前みたいな女が一番嫌いなんだよ」


 金を目当てに寄ってくる女なんて、クズだ。

 そして世の中の女は、そのほとんどが金に目がくらむクズしかいない。


 俺がそういう人間しかいない世界にいるだけ、かもしれないが……それでも、女には少しうんざりしている。


 今まで、何人の女と付き合ってもうまくいかなかったのは、そのせいだ。


「ふーん。あたしみたいな女が嫌いなら、あたしみたいじゃない女とはどうなの? ねぇ、そういえば武史はもう結婚してんの?」


「結婚は……してねぇよ」


 男なら誰もがうらやむような絶世の美女を手籠めにしてきた。だが、誰一人として、結婚していいと思える人間はいなかった。


「まだ遊びたいお年頃ってやつ?」


「もう三十五だぞ……さすがに落ち着いてはいるが、そういう相手がいねぇんだよ」


「マジ? じゃあ、あたしはどう? 武史が結婚してくれるなら喜んであのクソジジイと離婚するっ。もう加齢臭のするおじいちゃんは嫌なのっ」


「……だから、お前みたいな女が一番嫌いって言ってるだろ」


 あと、尻の軽い女も嫌いだ。

 香里の見た目はそこまで悪くないが……まぁ、見た目を重視する年齢は、もうとっくに過ぎている。


 人間は、当たり前だが年を取る。

 いくら容姿が良くても、老いれば一緒だ。


 だから、中身のしっかりした女を探しているのだが……そんな女はもう、この世に存在しないのかもしれない。


 まぁ、俺の理想が高すぎるだけかもしれないが。


「そっかぁ。まぁ、仕方ないね~」


 ……何を言われても傷つかず平気そうなのは、こいつのいいところか。

 バカ女だが、一緒にいて気楽なのは認める。結婚は到底無理だがな。


 さて、そろそろ帰るか。

 結局、つまらない同窓会だった……と思って、立ち上がりかけた、そんな時だ。


「……そういえば、巧とはまだ付き合いがあるの?」


 初めて、香里が声のトーンを落とした。

 今までヘラヘラと笑っていたのに、表情も……どこか、落ち着いていた。


 様子の変化と、それからあいつの名前が出たので、俺は立ち上がることができなかった。


 やっぱり俺は巧のことを気にしているらしい。


「いや……学生のころ以来は、会ってねぇよ」


「そっか。浮気、バレてたみたいだし……あれ以降、武史も巧とは気まずくなっちゃったもんね」


 あの時期から、俺と香里は巧と会話することがなくなった。

 あいつは教室の隅で、一人で静かに過ごすようになって……友人も作らなかった。だから、同窓会に来ている誰も巧のことは分からない上に、覚えてない人間も多かった。


 でも、香里はちゃんと巧のことを覚えていたらしい。


「そっか。武史なら、知ってると思ったのになぁ」


「……なんだよ、気にしてんのか?」


「うん。だって……あたしのことを『好き』になってくれた、唯一の人だから」


 香里は普段、中身のないことしか言わない。

 真剣な話を嫌がり、本音の言葉を口にすることを怖がる、そういう臆病な人間だ。


 でも、年を重ねたからだろうか。

 少しだけ、こいつにも変化があるようだ――。

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