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その後2 復讐

 ――巧が、笑っていた。

 一瞬だけだが、確実に表情を変えていた。


 既にあいつは窓から見えないし、カーテンも閉じているので部屋の様子は見えない。

 だが、巧のムカつく笑みが脳裏に刻み込まれて、消えない。

 だからずっと、睨み続けていた。


(笑ってんじゃねぇよ……!)


 それも、よくお袋や一華が浮かべていたような、柔らかい表情ではない。


 まるで、勝ち誇っているかのような……ニタリとしている、気味の悪い笑顔だった。


(勝ったと、思ってんじゃねぇぞ!)


 幼馴染だから分かる。

 あいつは恐らく、お袋と一華の前で決してその笑顔を見せないだろう。


 だが、あいつは俺の前でだけ、時折ああいう意地汚い笑みを浮かべていた。

 俺よりもテストの点数が高い時や、俺よりも何かで上回ると、決まって……ああやって、笑うのだ。


 その笑顔が、嫌いだった。

 だから、あいつをねじ伏せるために、色々と工夫することが多くなった。


 おかげで要領は良くなって、あいつに笑われることも減ったのだが。

 しかし巧は今、俺を嘲笑っている。


 お袋と一華を手に入れて、勝ち誇っている。

 さぞかし、気持ち良いことだろう。




 俺が香里を寝取った時みたいに――な。




「俺はまだ負けてねぇ」


 届くことがないのは分かっている。

 だが、呟かずにはいられなかった。


「てめぇに、この俺が負けるわけねぇだろ!」


 ずっと、格下だった。

 いくら叩きのめしても、子分みたいに引っ付いてくる、下僕みたいな存在だった。


 見下していた。

 バカにしていた。

 そんな存在に、嘲笑われているこの状況を――許容できるわけがない。


「――今に見てろよ」


 後悔させてやる。

 お袋と一華が、俺を捨てたことを後悔するくらい、成功してやる。


 その時、二人が羨望して『許してください』と言うのなら、仕方なく許してやろう。


 だが、巧……てめぇは絶対に許さない。

 俺をバカにしたその罪を、償わせる。


 俺から家族を奪ったことを、後悔させてやる。

 お前の幸せを、奪ってやる。


 そう決意しても、まだ感情は抑えきれず……ずっと巧の部屋を睨み続けていた。

 もうとっくに、部屋の電気は消えている。

 今頃、巧は二人と一緒に寝ているのだろう。


 その姿を想像するだけで、虫唾が走った。

 お袋と一華のことは、思ったよりも平気だった。


 でも、巧の事だけはやっぱり、どうしても不快だ。


 だから俺は、外に出た。

 この家での寝泊まりは最低限にしておこう。成人したら土地ごと売り払って金にしてしまった方がいい。


 そうじゃないと、苛立ちが収まらない。


(――絶対に、後悔させてやるからな)


 巧を、お袋を、一華を、見返してやる。


 己に、刻んだ。

 人生を、復讐に捧げることを。


 必ず『勝者』になることを、俺は自分に誓ったのである――。

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