エピローグ クズの幼馴染に彼女を寝取られたけど、あいつの溺愛している義理の妹と母親が償ってくれるので許してやることにした
――正直なところ、俺は武史と香里に恨みを抱いていた。
憎かったし、怒っていたし、悪意を持っていた。
『できることなら、復讐してやりたい』
俺が不幸になってもいいから、二人を不幸にしてやりたい――そんな思いがあったくらいだ。
でも、色々あって……花菜さんと一華ちゃんにあいつの罪を償ってもらった今なら、分かる。
『復讐なんてしたところで、俺が幸せになることなどない』
あいつらが不幸になって気を晴らすことはできるだろう。
でも、その手段はきっと乱暴で粗いものに決まっているわけで……下手したら警察沙汰か、少なくとも退学することになっていたかもしれない。
そもそも俺は、今まで他人に悪意を持った経験がない。
つまり、裏を返すと……人に悪意を向けて発散するのが下手くそなのだ。
普段怒らない人は、いざ怒ったら過剰にやりすぎる傾向がある。
なぜかと言うと、怒ることに慣れていないから、加減のいい怒り方が分からないからだ。
それと一緒だ。
暗い感情をあまり持たない俺にとって、復讐なんていう行為がうまくいくわけがない。
仮に復讐を果たしても、退学や逮捕などされていたら……あいつらのせいで俺の人生が歪んでいた可能性だってある。
そうなったら、一生の傷だ。
あいつらのせいで、俺の人生が捻じ曲げられるところだった。
あんな最低なクズどもに、これ以上苦しめられたくなんてしたくない。
だからこそ、復讐という道を選ばなかった自分に誇りを持てた。
(こうやって冷静になれたのは、花菜さんと一華ちゃんのおかげだ)
あの二人がそばにいてくれたからこそ、心が穏やかになった。
武史の罪を二人が償ってくれたからこそ、俺は人生を棒に振らずにすんだ。
だから――もう、恨みなんて捨てることにした。
(許してやろう……もう、気にしないで生きていこう)
勘違いしてほしくないのだが『赦す』わけではない。
あの二人の行為がなかったことになるわけじゃないし、許容したわけでもない。
だから『許す』ことにした。
あの一件はちゃんと記憶に刻んだうえで、二人には何もしないと決めた。
だって、結果的に見ると俺は幸せだ。
武史と香里に裏切られる前より、明らかに幸せなのだ。
ずっと憧れていた家族を、手に入れたのである。
それ以上の幸せなんて、ない。
だから、武史……お前には感謝してるよ。
俺に、優しい母親をくれて、ありがとう。
俺に、可愛い義妹をくれて、ありがとう。
お前には色々と苦い思いをさせられたけど、許してやるよ。
だって俺が一番ほしかったものを、くれたのだから。
こうして、俺は家族と一緒に生活することができるようになった。
花菜さんと一華ちゃんと過ごす時間は、何よりもかけがえのない、幸せなものだった――。
【終】
お読みくださりありがとうございます!
巧視点の物語は、これで終わりとなります。
ただ、武史のその後を書きたいので、もう少しだけお付き合いくださると嬉しいです。
巧だけの視点では語られなかったものが垣間見えると思います。




