九十三話 事後処理
――俺の不安は当たった。
やっぱり、花菜さんと一華ちゃんは俺の負傷にものすごく責任を感じているみたいだ。
怪我をして、数日が経過した頃のこと。
薬のおかげか痛みもそこまで感じることなく、打撲の腫れ以外はいつも通りの状態に戻りつつあったわけだが。
「たくみにぃ? ほら、あーんして?」
まず、食事の時に箸を持つことが許されなくなった。
花菜さんか一華ちゃんのどちらかが絶対に食べさせてくれるのだ。
朝ごはんとお昼ごはんの時は花菜さんが。
それから今、夜ご飯の時は一華ちゃんがそばで俺にごはんを差し出している。
「一華ちゃん? 俺、手は怪我してないから自分で食べれるよ」
「ダメ!」
「いや、えっと……じ、自分で食べた方が食べやすいんだけどなぁ」
「怪我が悪化したらどうするのっ?」
こんな調子である。
二人とも、意地になっているというか……俺のお世話をしたがるのである。
まぁ、色々と思うところがあるのだろう。
新しい生活が始まって、不慣れなことも多く、精神も安定はしていないのかもしれない。そのせいで過剰な負い目を感じている可能性が高い。
俺としては、自分のことは自分でできるので、手伝いはそこまで必要ない。
しかし、どうしても断れない理由があった。
「たくみにぃ……もしかして、迷惑?」
これなのだ。
一華ちゃんが不安そうな顔をしていた。
この顔を見ると、拒絶することができなくなるわけで。
「いやいや! 迷惑なわけないからっ。お、お腹空いたな~。あーんさせてほしいなぁ~……?」
「良かった! 迷惑じゃないなら、いっぱい食べさせてあげるねっ。はい、あーん♪」
恥ずかしさを感じながらも口を開けて、一華ちゃんに甘える。
そうすると、彼女は不安そうな顔から一転、笑顔になって食事を手伝ってくれた。
こんな感じで、俺はいつも二人にお世話されている。
同じ顔を花菜さんもするので、なんだかんだ断れなかった。
まぁ、別に嫌がらせされているわけでもない。
あと、恥ずかしくはあるのだが、二人にお世話されるのが嬉しいか嬉しくないかで考えると、間違いなく嬉しい。
だったら、難しいことを考えずに二人に甘えてもいいのかもしれない。
――と、強引に自分を納得させていたのだが。
「花菜さん、一華ちゃん! 流石にお風呂は一人で大丈夫だよ!?」
この状況を受け入れるのは、どうしても無理がある。
だって、一人でお風呂に入っていたら、二人が当たり前のように入ってきたのである。
「でも、顔に水がかかって染みるって昨日言ってたでしょう?」
「ついでにわたしとお母さんも入っちゃえば、お水代の制約にもなるよねっ!」
しかも、既に洋服を脱いでいた。
今、二人はタオル一枚の状態である。局部こそ見えないものの、普段より肌色の面積が大きくて、目のやり場に困った。
で、でかい……!
体は小さいのに、一部だけでかすぎる!
男子高校生にはちょっと刺激が強すぎる光景に、せっかく止まった鼻血がまた出そうだった。
「お、俺、先に出てます!」
「待ちなさい。まだちゃんと洗えてないじゃない。湯舟にも入らないとダメよ? 100は数えなきゃ」
「たくみにぃ……体、やっぱり大きい~」
「そうね……うふふ♪ 大きくなったわね? あんなに小さかったのに」
どうして二人は平気そうなんだろう?
花菜さんはまだ大人だから分かるけど、一華ちゃんも何故かそこまで動揺してないように見える。
「こうしてお風呂に入るのは、小さいころ以来だね! 懐かしいなぁ~」
「ええ。小さい頃は、一緒にお風呂に入れてたわね……みんな、一緒に」
花菜さんと一華ちゃんが、そこまで動揺していない理由。
それは、昔……俺たちが幼い頃にもあった同じシチュエーションだから、なのだろうか。
言われて、思い出した。
そういえば、まだ幼稚園くらいのころ、花菜さんにお風呂に入れてもらったことがある。
俺と、一華ちゃんと、それから……武史も。
「「…………」」
きっと、二人も武史のことを思い出したのだろう。
途端に暗い顔になってしまった。口にこそ出さないものの、武史のことは色々と思い残しがあるのかもしれない。
(くそっ。あいつのせいで、また断れない……!)
ただでさえ落ち込んでいる二人に『出て行ってください』なんて、追い打ちをかけるようなことは言えない。
だから何もできずに、俺は二人と一緒にお風呂に入ることになった。
気持ち良い入浴タイムではあったけど……!
しかし、武史に受けた傷は今もなお残っている。
武史の事後処理は、まだまだ時間がかかりそうだ――。
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