表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/105

六十五話 円城香里

 一華ちゃんと買い物をした、その帰り道の事だった。

 俺たちの家は駅から距離のある郊外に位置している。その途中で、実は少し治安の悪い場所の近くを通る必要があった。


 そこは、柔らかく表現すると大人の街というか……風俗やキャバクラ、それからホテルなどがたくさんある場所である。


 子供のころ、夜になったらその付近には近づくなとよく祖父母に言われていた。なので、俺はこの近辺にあまり詳しくない。


 近くを通る際も早足で通り抜けるようにしていた。だからまだ夕方といえ、一華ちゃんと一緒にいる今も、そちらに意識は向けずに歩いていたのである。


 それに、ここは…武史と香里がいた場所でもある。この前、一華ちゃんが武史と香里を見かけたのが、このホテル街なのだ。


 だから俺は、気付かなかった。

 たぶん、無意識のうちに見ないようにしていた。


 でも、一華ちゃんは違った。ここで武史と香里を見かけたことが、頭にあったのかもしれない……視線がずっと、そちらを意識していたのである。


 そのせいで一華ちゃんは、見てしまったのだろう。


「……あれ? なんで――あの人が?」


 急に、一華ちゃんが足を止めた。


「ん? 一華ちゃん、どうかした?」


 つられて、俺も立ち止まった。気になって、彼女の見ている方向に視線を移す……そして見えたのは、とあるホテルの入り口。


 そこには、男性と女性がいて。


「あっ。たくみにぃ、ダメ!」


 慌てた様子で一華ちゃんが制止したが、もう遅い。

 俺も、気付いてしまったのである。


「――香里?」


 見慣れた顔があった。

 黒髪で、一見すると清楚そうな女子がいる。


 制服姿の彼女は、今……中年のおじさんと一緒にいた。


 スーツ姿で、四十代……いや、五十代にも見える男性だ。

 少なくとも、親と同じく制の世代であることは間違いないだろう。


 その男性と香里が、並んで立っていて……それからすぐに、歩き出した。


 向かう先は――ホテルの中。

 その時に、これが何か気付いた。


(……パパ活、か?)


 あるいは、援助交際と表現するべきだろうか。

 いずれにしても、まともな関係性じゃないことは明らかだろう。


 とはいえ、もちろん俺には関係がない。

 一応、まだ別れていないとはいえ……香里は俺を裏切って、武史と浮気している。関係性も良好というわけではない。


 もうほとんど他人だ。

 気にせず、無視して、一華ちゃんと帰宅しよう。


 そして、引っ越しの手伝いをして、花菜さんの作ってくれた夜ご飯を食べて……ゆっくりと平穏に過ごす。


 そういう一日を送った方が、幸せなのだ。


 ……そんなこと、分かっている。

 でも、体が勝手に動いていた。





「――香里、何してんだよ!」





 一華ちゃんを置いて、走った。

 無人のロビーで、機会を前に何やら手続きをしている香里と中年男性に駆け寄り、大声を発した。


「は? なんで、巧がここにいるわけ?」


 香里も驚いていた。

 俺を見て、不快そうに眉をひそめている。


 そんな彼女に、俺はなおも語りかけた。


「お前……なんで、ここにいるんだ?」


 勘違いであってほしかった。

 何か、事情があってここにいるだけで……パパ活とか、援助交際とか、そういうことに関係がないと、言ってほしかった。


 そうじゃないと、怖かった。

 香里は嫌いだ。人間性も良くはない。俺を裏切った最低の人間だ。


 でも、まさか……こんなことをしているとは、思いたくなかったのである。


 だって、香里は俺が初めて好きになった人なのだ。

 人としての道を踏み外しているとは、思いたくなかったのである――。

お読みくださりありがとうございます!

もし良ければ、ブックマーク、高評価、レビュー、いいね、感想などいただけますと、今後の更新のモチベーションになります!

これからもどうぞ、よろしくお願いいたしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ほっときゃいいのにやっぱこいつ自己満タイプの雑魚やな
[一言] 主人公はパパ活を人に外れた行為として憤ってるけど、幼馴染と浮気してると解ってんだから今更感がある。
[一言] 相変わらず、この主人公はヘタレと優柔不断と甘さを混ぜて煮詰めたような性格してるなぁ。早くスカッとしたい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ