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六十一話 子供なら気付けよ

 二度目で、しかも連日となれば、動揺も小さくなるもので。


(焦るな。落ち着け……昨日みたいに、怒りに支配されるなよ)


 言葉を発するよりも先に、自分を戒めておく。

 昨日は失敗した。武史の言動に怒りを覚えて冷静さを失った結果――花菜さんが傷つくことになったのである。


(花菜さんは……ダメだ、固まってる。俺がしっかりしないと……っ)


 隣を見てみると、花菜さんは武史の方向を見て硬直していた。

 サングラスをしているので、表情は分かりにくい。しかし、雰囲気から怯えていることは、なんとなく分かる。


 なるべく、穏便にすませたい。昨日は失敗してしまったけれど……だからこそ今は、平常心を心がけて武史と向き合った。


「……昨日のことがあったのに、よく俺に話しかけられたな」


 呆れた演技をして、武史の方向に意識を向ける。

 そして見えたのは、制服姿の武史と……あと、大学生と思わしき女性もいた。誰だろう、この人は?


「別に俺だって話しかけたいわけじゃねーよ」


「なんだよそれ。じゃあ、もう行っていいか?」


「いや、ちょっと待て。その女、誰なのか教えろよ」


 ……ん?

 てっきり、もう気付かれていると思っていた。

 だから即座に武史から離れようと試みたのである……しかし、こいつは花菜さんの変装に騙されているようだ。


「こんなエロい女連れて学校サボるとはな……お前もやることやってるじゃねぇかw」


 おいおい、マジか。

 たしかに、花菜さんは変装している。普段とまるで違う雰囲気なのは認める。


 でも、お前は息子だぞ?

 ずっと同じ屋根の下で生活を共にしていたんだぞ?

 その母親に気付かない上に、胸元を見て鼻の下を伸ばしているその様は……不思議を通り越して、ちょっと怖かった。


 こいつ、普段は花菜さんの何を見ていたのだろう?

 呆れた……でも、まぁバレていないならこちらにとって好都合か。


「お前だって、学校をサボって女性と遊んでるだろ」


「別にいいだろ。ってか、お前は分かるだろ? 家に帰るのが気まずいんだよ……だからこの女の家に泊まってるんだ」


 まるで、昨日俺を殴ったことなんて忘れているかのように。

 武史はヘラヘラと笑いながら現状を説明していた。


 なるほど。女性にモテるのは知っていたが、家に転がり込めるほどとは……こいつを好きになる女性の気持ちはよく分からないなぁ。


「……ねぇ、武史? あーし、早く服見たいんだけど」


「あ? うるせぇな、ちょっとくらい話してもいいだろ。そんなに暇なら先に行ってろ」


「お、怒んないでよっ。じゃあ、先に行ってるから……」


 武史が俺……というか、隣の花菜さんにご執心なせいか、女性の方は機嫌が悪そうだ。それでも対応が雑な武史を見ていると、本当にこいつに惹かれる女性の気持ちが分からない。


 まぁ、他人の感性なんてそれぞれなので、どうでもいいか。

 武史と一緒にいることが楽しいのなら、それでいいと思うし。


 俺は楽しくないので、隣になんていたくないのだが。


 とはいえ、幼いころからの腐れ縁なので、満足のいく回答をするまではこいつから解放されないのは分かっている。


 変に抵抗するよりも、素直に対応した方が最善だろう。


「なぁ、俺にも紹介しろよっ。大学生か? もう少し年上な気もするが……お前程度の男が、こんないい女を連れているなんて驚きだ。香里程度では満足できなかったのかよw」


 ……相変わらず、不快なことばかり言う武史。

 その言葉を聞いて、俺は内心でうんざりとするのだった――。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんというかバカとかクズとか以前に気持ち悪いな。 殴った相手に平然と話しかけるのはまだわからんでもないが、なぜに母親に気付けない。 なんかマザコンとは違ったなにかおぞましい何かの気がしてき…
[一言] 殴った翌日、その殴った本人に紹介しろよという面の皮が厚いのか舐めてんのか、アホなのか理解出来ん ただ分かりやすい悪役で読んでて感情移入出来るし、先生は狙ってやってたら凄い。
[一言] 自分の母親に気付かないとは… 花菜さんは複雑な心境だろう。ただ、気付かれなかったことで、更に気持ちも吹っ切れたのではないだろうか。
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