六十話 貧乏だったので買い物を楽しんでいます
設定は、男子高校生と付き合っている年上の女性――ということらしい。
(それって法律的に大丈夫なのか???)
内心、疑問は抱いていたものの……隣で楽しそうに歩く花菜さんを見ると、断ることはできなかった。
「ふんふ~ん♪」
少し外れた鼻歌を口ずさみながら、俺と腕を組んで歩く花菜さん。
第三者が見るとカップルに見える……ことを信じよう。
恋人にしては、俺が子供すぎるかもしれないけど。
せめて堂々と振舞って、なるべく違和感をなくす努力をした。
(やっぱり……こんな人がいたら、見ちゃうよなぁ)
そして案の定、周囲の視線は花菜さんに釘付けだ。
特に男性からの視線がすごい。花菜さんの体を見て鼻の下を伸ばした後、俺を睨んでくるので厄介だ。羨む気持ちも分からなくはないけれども。
そんな視線を、気にしないようにして。
「花菜さん、お昼から食べちゃいますか?」
「そうね……荷物も多いだろうし、先に軽くすませちゃいましょうか」
そういうわけで、まずは昼食から。
ショッピングモールに到着してすぐにフードコートへと向かった。
駅前という好条件な立地ということもあってか、平日の昼間だというのに人は多い。俺たちが住む町は郊外だが都会からのアクセスもいいので、住民が多く、商業施設も規模が大きいので結構な賑わいだ。
そんな中で、花菜さんと一緒に歩く。
ジロジロと見られて居心地の悪さを覚えながらも、フードコートに到着。花菜さんたっての希望で、ラーメンを食べることにした。
「普段はまったく食べないし、女性一人だと気まずくて注文できなかったの。巧くんがいるおかげで助かったわ♪」
機嫌の良さそうな花菜さんと一緒にラーメンを食べる。外食の多い俺はよく食べていたので、今更新鮮味はなかったものの。
「わっ。巧くん、すごいわこれ……スープがドロドロじゃないっ」
花菜さんがすごくびっくりしていた。その反応が新鮮で、見ていて面白かった。
そして、食後は当初の目的通り布団を買いに家具販売店に行った。
「たくさんあるわね……どれがいいかしら?」
花菜さんはすごく目移りしていた。
色々な布団を触っては、目を輝かせている。
「いつも、せんべいみたいなお布団で眠ってたから……どれも魅力的ね。ふーん、下にマットレスを敷くと体に優しいの? なるほど……ちなみに高反発と低反発どっちがいい?」
「俺は高反発のを使ってます。でも、好きな方でいいと思いますよ」
「じゃあ、そっちにしようかしら。さっき、巧くんと一緒に寝た時、すごく気持ち良かったから」
そういうわけで、高反発のマットレスを購入。その上に敷く布団も購入した。
「巧くんは何か買う? もし何かあるなら、私が出すわ。巧くんから受け取ったお金だから、遠慮しないでね」
「じゃあ……枕を買ってもいいですか? 新しいのがほしくて」
「ええ! もちろんっ。他にもいろいろあるし、店内をゆっくり見てみましょうか」
そんなこんなで、しばらく買い物を楽しんだ後。
商品の支払いも済ませて、さすがにマットレスと布団は持って歩くのは大きすぎるので、配送を手配した。明日には到着するみたいなので、今日はどうしようか……と、悩むのは後にしておこう。
「うふふ♪ 買い物、楽しいわね……ずっと貧乏だったから、自分のためにお金を使うって、なんだか久しぶりだわ」
花菜さんは、とても満足そうだ。
その笑顔を見ていると、俺もすごく気分が充実した。
良かった。昨日はすごく怯えていたから……これからはずっと、こうして笑っていたほしいものである。
そう、願ってはいたのだが。
「ん? お前って――巧か?」
……まさか、こんなことってあるのだろうか。
既視感と同時に、昨日の記憶も蘇って……俺は、ため息をこぼしてしまった。
(また、お前かよ)
振り向くと、そこにはやっぱり……武史がいた。
昨日に続いて、二度目の遭遇だった――。




