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五十七話 挟まってる

 ――ハッとして目を覚ますと、すでに十二時を過ぎていた。

 眠ったのが九時くらいだったので……三時間は経過している。


「んー……?」


 寝起きだからなのか、まだ頭がぼーっとしていた。

 一瞬、なんで俺は平日なのに寝ているんだろう……と分からなくなってから、ふと隣を見てみると――腕に花菜さんが抱き着いているのを見つけた。


「すぅ……すぅ……」


 静かに寝息を立てて、俺の腕を抱き枕のように抱きしめている花菜さん。

 とても気持ちよさそうに寝ているなぁ……って、そうだった!


(俺、花菜さんと一緒に眠ってたのかっ)


 ようやく思い出した。

 それから、腕がやけに重くて暑い原因も分かった。


(挟まってる……!)


 花菜さんが力強く腕を抱きしめているせいだろう。

 腕が、大きな胸の間にすっぽりと収まっている。この重量感も、暑さも、全て花菜さんのせいだった。


 というか、やけに柔らかすぎないか?

 布の感触が薄い気が……いや、これ以上考えるのはやめておこう。


 もしかしたら、下着をはいていないかもしれないとか、そういう思考をするのはやめておいた。


 本当に無防備な人だ……まぁ、それくらい信頼されている証でもあるのかもしれないけど。

 さて、とりあえずこれからどうしよう?


 動きたくても、花菜さんに抱き着かれて動けないので、天井のしみでも数えておこうかな――と、思っていたタイミングである。


「んゃ……?」


 花菜さんが、ゆっくりと目を開けた。

 こちらも熟睡していたのだろう。寝ぼけて半開きの目は、俺を見て不思議そうにキョトンとしている。


「おはようございます」


 目が合ったので、声をかけてみると……花菜さんは何故か顔を赤くして、慌てた様子で起き上がった。


「――っ!? ご、ごめんなさい。あらやだ、どうして巧くんと寝てるのかしら……も、もしかして、何かしちゃった? 可愛くてつい我慢できなくなっっちゃったのかしらっ」


 ……どうやらまだ寝ぼけているみたいだ。

 俺と一緒に寝ていた理由を間違えている。


「落ち着いてください。花菜さんと一緒に眠ってただけですから」


「……そ、そういえばそうだったわね。ごめんね、ちょっとだけ混乱してたわ」


 とはいえ、寝ぼけていたのは一瞬のこと。

 すぐに状況を思い出した花菜さんは、今度は違う意味で赤面しながらゆっくりとベッドから起き上がった。


「ふぅ……巧くんのおかげで気持ち良く眠ることができてたかも。ありがとうね」


「いえいえ。俺も熟睡していたので、こちらこそありがとうございます」


 お互い、良い休憩になった。

 眠る前よりも、気分がとても清々しい。花菜さんも疲労感が取れているような気がした。


「じゃあ、どうする? お腹が空いているならお昼を作るけど」


「うーん……眠る直前に食べたせいか、あまりお腹が空いてなくて。花菜さんさえ良ければ、お昼の前に買い物に行きませんか?」


 現在、この家には一人用の生活用品しかないわけで。

 花菜さんと一華ちゃんが寝泊まりすのであれば、色々と買い足さないといけないものがあるだろう。


「そういえば、お買い物もしないといけなかったわね……じゃあ、お昼は外で食べましょうか? たまには外食も悪くないわ」


 ……まぁ、俺は外食に飽きているので、花菜さんの手料理の方が嬉しかったりするのだが。

 とはいえ、別に嫌いというわけではないので問題はない。


 そういうわけで、今から花菜さんと買い物に行くことになった――。

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