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五十四話 そばにいて落ち着く人

 お金の問題は解決したので、もしかしたら花菜さんと一華ちゃんがこの家に住むという話はなくなるかもしれない――と、思ったのだが。


「引っ越し先を決めたいところだけど、武史ともまだ話し合いを終えていないから……色々と落ち着くまではここにいてもいいかしら?」


 仏壇に手を合わせた後のこと。

 どこかスッキリした表情の花菜さんと、今後のことを話していた。


「正直なところ、巧くんみたいに信頼できる男の子が一緒にいてくれると心強いわ」


 そんなことを言われて、嬉しくない訳がない。


「もちろん、いつまでもいてくれて構いません。俺としては、花菜さんの作り立ての手料理が食べられるので、すごく嬉しいですよ」


「うふふ♪ そう言ってくれると嬉しいわ……って、そうだ! 朝ごはん、まだよね? 今から作ってあげるから、ちょっと待っててね?」


 そういうわけで、花菜さんが朝ごはんを作ってくれた。


「――ごちそうさまでした。今日も美味しかったです」


「いえいえ。巧くんは美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるわ……それで、この後の事なんだけど」


 朝食を食べ終えた後のこと。


「ちょっとだけ、仮眠をとってもいいかしら?」


「あっ。そういえば昨日は寝てなかったんですよね……すみません、朝食まで作ってもらっちゃって」


「それはいいのよ。むしろ、作らないと気が済まないから」


 たしかに、花菜さんの顔つきはいつもよりも少し疲労がにじみ出ている。

 昨日は武史のせいで眠れなかったと言っていたので、それも無理はない。


「どうぞ、眠ってください……あ、でも、布団が押し入れにしかないのかっ」


 言われて、思い出した。

 布団の予備がない……後で買いに行かないといけないだろう。


「そうなの? じゃあ、ソファを借りようかしら」


「大丈夫ですか? 結構……体、痛くなりますよ?」


「あらあら……若い巧くんで痛いのなら、私にはちょっとダメそうね」


 花菜さんが困った表情で、何かを考えんでいた。

 うーん……快適に眠れる場所か。


 一応、一箇所だけ心当たりはある。


「俺の部屋なら、ベッドもありますよ。ただ……武史の部屋と向かい合わせです」


 しかしながら、ここしばらくは俺も使用していない。

 花菜さんが掃除してくれていたので清潔さは問題ないとはいえ、武史に怯える花菜さんにとって、そこが安眠に適した場所かと言われると……。


「……建物が違うから大丈夫だとは思うけど――ちょっとだけ、やっぱり怖いかもしれないわ」


 やっぱり、そうだよな。

 だったらベッドをリビングに持ってくるのはどうだろう? いや、でもマットレスがかなり大きい上に、俺の部屋は二階なので……移動も置く場所も悩みどころだ。


 なかなか、難しい問題かもしれない。


「布団、買いに行かないとダメですね……花菜さんはひとまずリビングで休んでもらって、俺が買って来ましょうか?」


「うーん。お布団は自分で選びたいかも……どうせなら一緒に買い物に行きたいし――だから、巧くん?」


 どうやら花菜さんは、解決法が思い浮かんでいたらしい。

 でもそれは、俺にとっては少し……いや、かなり恥ずかしい提案だった。


「一緒に寝てくれない? 巧くんがいてくれたら、安心して眠れそうだわ」


 い、いやいや!

 それは本当に、大丈夫なのだろうか。


 花菜さんが、ではない。


(俺の心臓が持つのか!?)


 ドキドキして、まったく眠れる気がしなかった――。


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