五十二話 残された愛情
と、いうことで花菜さんと一華ちゃんが俺の家に住むことになった。
それに際して更に色々と話し合ってみたところ、どうやらまだ一華ちゃんにこの話はしていないらしい。
ただ、一華ちゃんは絶対にこの家に住むことを嫌がらないと言ってくれたので、そのあたりは問題じゃないと考えていいだろう。
さしあたって、一番に気にするべきは――本当に、花菜さんと一華ちゃんをこの家に住まわせていいか、という点だ。
(一応、この家の持ち主は俺の名義になっているはずだけど……叔父さんにも、伝えるべきだよな)
叔父さんは現在、俺の身元引受人となってくれている人だ。
保護者の同意などが必要な書類がある場合は、叔父さんに協力してもらっている。
俺のことも色々と気にかけてくれている人なので、勝手な行為はできればやめておきたいところだ。
「私が言うのもちょっと変かもしれないけど……叔父さんにはお電話するべきよ」
即答だった。花菜さんに相談すると、俺の背中を強く押してくれたのだ。
「できれば、私にもお話させてほしいわ。ご挨拶もしたいし……お電話、お願いできる?」
「はい。じゃあ、まずは事情を説明してから色々と聞いてみるので……ちょっと、外で電話してきますね」
そう告げて、庭に出た。スマホで叔父さんに電話をかけると……すぐにつながった。
「あ、もしもし? 叔父さん、いきなりすみません。実は――」
それから、花菜さんと一華ちゃんのことを説明した。
だいたい十分くらいだろうか。仕事中にもかかわらず、俺の話を最後まで聞いてくれた叔父さんは、最後にこう言ってくれた。
「『巧の自由にしなさい』って……叔父さんはそう言ってました」
電話を終えて、花菜さんの元に戻る。
残念ながら、叔父さんはこれから会議があるとのことだったので、花菜さんに代わることはできなかった。挨拶はまた日を改めてで構わない、とのことである。
「意外とあっさり許可してくれたのね……巧くん、すごく信頼されているわっ」
「どうでしょう? もともとあまり干渉してこない人なので……あと、花菜さんなら問題ないだろう、とも言ってましたよ?」
「私のことも言ってたの? あら、巧くんの叔父さんとはお葬式で少しお話しただけなのに……?」
「叔父さん、祖父母から色々と話を聞いていたらしいですよ。『近所の花菜ちゃんのことだろ?』って、事情もちゃんと知っているみたいでした」
「……おじいさまと、おばあさまが」
叔父さんは、俺の母親の弟である。そして祖父母は母の両親で、叔父さんはその息子にあたるわけで………花菜さんの話もしていたようなのだ。
「あっ。それから……えっと、たしか――ちょっと来てくださいっ」
叔父さんとは電話で色々な話をした。
その中で、一つ……花菜さんの問題を解決するかもしれない話を聞いたので、その話が本当かどうか確かめるためにも、俺は祖父母の仏壇が置いていある部屋に向かった。
「巧くん? 急にどうしたの? お線香はもうあげたみたいだけど……」
「毎朝、必ずあげてますから……それで、うーん。どこだ……ここか!」
仏壇に設置されている小さな引き出し。普段は開けることが無いので中を確認したことがなかったのだが……叔父さんにとある物が入っているはずだと言われたので、開けてみた。
そして見つけたのは――通帳と印鑑だった。
「花菜さん、お葬式の日のことを覚えてますか? 祖父母が残してくれた遺言状に従って、叔父さんがこれを渡そうとしたみたいですけど」
これは、俺が知らなかった話なのだが。
祖父母は持っていた財産を俺と叔父さん、それから花菜さんにも用意していたらしいのだ
「……あっ」
通帳を見て、ようやく思い出したようだ。
花菜さんは目を丸くしていた。
「あの時は受け取ってくれなかったから、仕方なく仏壇の引き出しに入れておいたそうです……これ、ぜひ使ってください」
叔父さんからこの話を聞いて、すごくタイミングがいいと思った。
何せ、花菜さんはお金に困っているみたいなので、きっと助けになってくれることだろう。
それにしても……本当に、花菜さんはおじいちゃんとおばあちゃんに可愛がられていたんだなぁ。
もしかしたら、祖父母は花菜さんに亡くなった俺の母――祖父母にとっては娘を、重ねていたのかもしれない。
愛情深く、素敵な人柄の花菜さんだからこそ、祖父母に愛されていたのだろう。
だからこそ、花菜さんが受け取るべきものだと思う。
だってこれは、祖父母の残してくれた花菜さんへの『愛情』なのだから――。
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