三十九話 見苦しい嫉妬
※ごめんなさい。予約投稿を間違えてしまい、39話と40話の更新が抜けておりました。
その修正として、39~42話までの掲載をやり直しております。
このたびは本当に申し訳ありませんでした。(2024/03/11/19:45修正済み)
まさか武史に遭遇するなんて思っていなかった。
俺の住む家と五味家の距離は徒歩数十秒程度。しかも今の時刻は22時を過ぎている。遭遇する可能性は低い……でも、冷静に考えてみると、ありえなくはない話ではあるだろう。
むしろ、警戒しても良かったと思う。
明らかに油断していた……あるいは、武史のことを必死に考えないようにしていた弊害とも言えるのかもしれない。
なんだかんだ、こいつに裏切られた傷はまだ完全に癒えていないわけで。
少しずつ回復してはいるものの、こいつと向き合うにはもう少し時間が必要だと思っている。
だからこそ、この遭遇はタイミングが悪かった。
「巧……お前、お袋と何してんだよ。随分と仲良さそうにしていたみたいだがよぉ」
武史の視線が鋭い。
表情も強張っており、威圧感を覚えるほどに怒気を発していた。
(最近、家では冷たくされているみたいだし……そんなタイミングで俺が花菜さんと談笑している場面を見たら、怒るに決まってるか)
反抗期みたいだが、武史はかなり母親に入れ込んでいる。
さっきも花菜さんと話したが、思春期になるまでは甘えん坊でずっと花菜さんにくっついていたくらいだ。
「なんで黙ってんだよ。おい……なんとか言えよ!」
明らかに嫉妬している。
見下している俺が、自分の大切な人と仲良くしていることが、許せないのだ。
こいつは、俺という存在に苛立ちを覚えている。だからこそ怒鳴り、睨んでいるのだろう。
(……落ち着け。焦っても意味はない)
たとえば、俺も応戦して怒り、浮気の事実をここで突き詰めたとしても……殴り合いになって、花菜さんを悲しませるような結果しか生まれないだろう。
それに、俺だけじゃなく、花菜さんだってまだ武史と向き合う準備はできていないと思う。何せ、子煩悩の花菜さんが、武史の弁当を作ることすらできないくらいには、思い詰めているみたいだから。
だったらここでやるべきことは――はぐらかすこと。
別に今は変な状況というわけでもない。
花菜さんと一緒に歩いて、談笑していただけなのだ。
だったら堂々としている方が自然だろう。
「いや、武史……? な、なんで怒ってるんだよ。いきなり怒鳴られても困るぞ」
あえてとぼけた。
この場を穏便にすませるには、それが一番と思ったのである。
しかし……もしかしたらそれは、逆効果だったのかもしれない。
「へらへらしてんじゃねぇよ!」
思いっきり胸ぐらをつかまれて、首元を締め付けられた。
まずいな……。
「いや、落ち着けって。たまたま近くで花菜さんが重い荷物を持っているところを見かけたから、手伝っただけだよ」
「巧……バカにしてんのか?」
説明の言葉を武史は受け取ろうとしない。
むしろ、怒りで表情がより歪んでいた。
「お前が嘘をつくときは絶対に目が合わないよな……幼いころからの癖だ。どうした? 下手くそな嘘をついてまで、何を隠そうとしてんだよ」
……くそっ。
幼馴染であることの弊害だ。知りたくもないことをお互いに知ってしまっている。
「ちょっと、武史……!」
今までは、どうしいいか分からないと言わんばかりにおろおろしていた花菜さんも、さすがにこの状況には黙っていられなかったらしい。
俺の胸倉をつかむ武史を制止しようと声をかけたが、
「お袋は黙ってろ。これは、俺と巧の問題だ」
武史はやっぱり、聞く耳を持たなかった――




