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三十六話 お節介の遺伝

 野菜に始まり、肉、調味料、それから飲み物と……更に一華ちゃんのためのお菓子も選んでいると、買い物かごはいっぱいになっていた。


「たくさん買いすぎちゃったかしら? 巧くんにはがんばってもらわないといけないわね」


「任せてください。でも、家に着いたらバテバテだと思うので、その後は全部お任せします」


「はいはい。美味しいごはんは任せてね?」


 そんな会話を交わしながら、買い物かごをレジへと持って行く。最近増えた、というか、もうほとんど主流になっている袋詰めがセルフになっているレジに買い物かごを置いて、ポケットから財布を取り出した。


「じゃあ、花菜さん。支払いはしておくので、その間に商品は詰めてもらっていいですか?」


「ええ……ええ!?」


「え!?」


 いきなり大声を出されて、そのリアクションに俺まで驚いてしまった。

 な、何事? 花菜さんはなんでびっくりしているんだろう?


「いや、巧くん? 私の家の買い物もしちゃってるし……というか、子供にお金を出させるつもりなんてないわ。気を遣ってないで、支払いは私に任せていいの」


 ……ああ、そういうことか!

 驚いている理由がようやく分かって、俺は首を横に振った。


「別に、気を遣っているわけじゃないです。ただ、俺の家の食事を作ってくれるわけですし……あと、花菜さんと一華ちゃんにはお世話になっていますから、気にしないでください」


 花菜さんはやっぱり、とてもしっかりとした大人なのだ。

 子供の俺に支払いをさせるつもりなんて当初から考えていなかったのだろう。俺の分まで買ってくれようとしていたのだ。


 その気持ちはとても嬉しい。

 とはいえ、金銭的に苦しい生活は送っていないので、買い物代くらい任せてほしい。


「でも……でもっ」


 大人としてのプライド、なのだろうか。

 なおも食い下がろうとしてくる花菜さん。


 だけど、本当に俺は無理もしてない上に、気を遣っているわけでもない。

 それを説明しても、花菜さんはやっぱり納得はしないと思ったので……少しずるいと思ったのだが、本音を打ち明けることにした。


「まぁ……おじいちゃんとおばあちゃんも、きっと花菜さんに支払いなんてさせるなって怒ると思います。そのために、俺に残してくれたものもありますから」


「おじいさまと、おばあさま……」


 数年前に亡くなった祖父母のことは、花菜さんもよく知っている。

 何せ、花菜さんのことを二人はとても可愛がっていたからだ。


「俺の好意ではなく、おじいちゃんとおばあちゃんの好意だと思って、支払いはさせてください」


 正直に言うと、俺は金銭的にまったく困っていない。

 生まれてすぐに両親が亡くなった時と、それから祖父母が亡くなった際に、これからの生活に困らない分の金銭を用意してくれた。


 まぁ、別にお金なんて要らないから、両親も祖父母も生きていてほしかった……というのは、さておき。


 とにかく、そういうわけなのだ。


「……じゃあ、甘えてもいい?」


 祖父母の話題を出したのが効果的だったのだろう。

 花菜さんは、どこか過去を懐かしむかのような遠い目で、俺を見ていた。


「やっぱり……巧くんは、あのお二人のお孫さんね」


「はい。自慢の祖父母でした……ちょっと、お節介すぎるところもありましたけど」


「うん。巧くんにも、その血がちゃんと流れているわ」


 人がいいとは、よく言われる。

 祖父母にも『いつか詐欺にあうんじゃないか』と心配されていた。


 でもそれは、人の良すぎるおじいちゃんとおばあちゃんに育てられたから、仕方ないことなのである。


 ともあれ……これならきっと、今度おじいちゃんとおばあちゃんに会った時でも、怒られずにすむだろう。


『花菜ちゃんを悲しませるなよ』


 って、二人はよく言っていたから――。

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