三十四話 めっ
――結局、一華ちゃんは十九時くらいまで我が家にいた。
『ふぅ、今日はたくみにぃにいっぱい触れて大満足だよっ。じゃあ、また明日ね♪ ばいばーい!』
そんな、元気いっぱいな言葉を残して彼女は隣の家に帰って行った。
時間にして、二時間とちょっとくらいかな? ほとんどマッサージしてもらっていたおかげか、体がすごく軽い。
血行もかなり良くなっているせいだろうか。体が少し熱くて、火照っていた。
なんだかそわそわするので、近くのスーパーにでも行こうかな?
いや、でも……そろそろ時間なので、出かけるのは無理か。
『ピンポーン♪』
予想通り、インターホンが鳴った。
扉を開けると、そこにはやっぱり――花菜さんがいた。
「巧くん、こんばんは。ごめんね、遅くなって……一華の帰りが遅かったから、なかなか来れなかったわ」
一華ちゃんと入れ替わるようにやってきてくれた花菜さんは、少し慌てた様子である。
「いえ、遅いだなんて思ってないですよ。どうぞ、上がってください」
「失礼します。今からすぐに夕食を作るから、もうちょっとだけ待っててね?」
……なるほど。夕食を作る時間が遅いと思っているから、慌てているようだ。
「お腹、空いてるかしら? とりあえず残っている食材で簡単に……いえ、でも、昨日もそうしちゃたし、今日くらいはもうちょっと本格的に――」
母親としての使命感、なのかもしれない。
俺はまったく気にしていないのに、花菜さんは夕食が遅くなることをとても申し訳なく思っている様子だ。
俺の言葉も待たずに冷蔵庫に直行して、中身を確認している。
そして、何かを思い出したかのようにハッと息をのんで、動きを止めた。
「そ、そういえばっ……食材、昨日で使い切ったんだった」
「あー……すみません、買い物してなくて」
俺は普段、料理を全くしない。
花菜さんが来る前までは食事をコンビニや外食で済ませていた。だから、食材の有無をまったく考えていなかった。
「あれ? じゃあ、昨日のハンバーグの食材は花菜さんが家から持ってきてくれたんですか? ありがとうございます」
「いえいえ。余ってたから、気にしないでいいのよ。ただ……今日はお家の食材も使い切ってるのよね」
困った様子で頬に手を当てて、考え込む花菜さん。
申し訳なさそうな顔をしていたので、なんだか俺の方が申し訳なく思ってしまった。
「いつも夕食を食べるのは二十二時くらいだったりするので、大丈夫ですよ」
「え……そんなに遅いと補導されるでしょう?」
「いや、さすがにその時間帯になると外食じゃなくてコンビニで買ってました」
「なおさらダメじゃないっ。巧くんったら……成長期なんだから、ちゃんとしたごはんを食べないとダメよ? めっ」
それから、優しくコツンと頭を小突かれた。
全然痛くないし、むしろニヤけそうな怒り方だ……前にも言っていたけど、花菜さんって本当に怒るのが苦手なのだろう。
もちろん、怒ってくれるくらい俺のことを考えてくれるその気持ちは、嬉しいけど。
「じゃあ、買い物に行きませんか? 荷物持ちなら任せてください」
そう提案すると、花菜さんはゆっくりと頷いた。
「そうね……本当は今くらいには夕食を食べさせてあげたかったけど、食材がないから仕方ないわ。じゃあ、行きましょうか」
ちょうど、体が火照っていたので外に出たかった気分なのである。
そういうわけなので、花菜さんと買い物に行くことになった――。
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