三十二話 無邪気な小悪魔
「たくみにぃって身長どれくらい?」
「身体測定の時は170くらいだったかな。一華ちゃんはどれくらい?」
「むぅ……男女の理想の身長差って15センチだったよね? わたしと30センチも差がある……たくみにぃ、身長小さくできない?」
「小さくするのは難しいかなぁ? ……それで、一華ちゃんは140センチなんだ」
「……違うっ。140.4センチだからね!」
「あんまり変わらなくない?」
「140センチの4ミリは大きいもん!」
と、いった感じでオシャベリをしながら、ゆっくりとマッサージは続いていた。
もうだいぶ、全身をもみほぐしてもらった気がする。さすがにそろそろ終わってもいい頃合いだと思うのだが。
「も、もう少しだけっ。えっと、ほら……たくみにぃは凝ってるから! ちゃんとマッサージしないとダメだよ!」
一華ちゃんの方が終わろうとしないのだ。
まぁ、俺としては心地良いので嬉しいけど……もう全身の筋肉がふにゃふにゃになっている気がする。
「そろそろ、全部マッサージしてくれたような」
「あー。うーん。むむむっ……あ、そうだ! 頭とか? うん、頭がまだだよ、たくみにぃっ。ほら、ソファに座って? 後ろからマッサージするから!」
そういうわけなので、仰向けから座位の姿勢に以降。
立ち上がった一華ちゃんは、後ろに回り込んで頭付近をマッサージしてくれた。
「おっ。気持ちいいかも……」
頭にはツボが集中していると聞いたことある。だからなのか、指圧されるとマッサージ特有の心地良さがあった。
「……うぅ、ちょっと背伸びしないと届かないっ」
ただ、俺が上体を起こしているせいで、一華ちゃんの体勢が悪いらしい。
背伸びしないと力が入らないようだ。ちょっと身をかがめてあげようかと、頭の位置を低くしてみる。
「――あ!」
すると、間が悪かったのか一華ちゃんの手が空振りした。
俺の頭を指圧しようと力の入った指が空を切って、彼女の体勢が崩れる。
そして、
『ぽよん♪』
……柔らかい感触が、頭に乗っていた。
頭上なので視認はできない。でも、確実にこの感触は……乗っているに違いない。
「たくみにぃ! いきなり姿勢を変えないでっ」
「ご、ごめん!」
「まったく……罰として、くすぐりの刑だよっ?」
「いや、それはまずい! ちょ、ちょっと離れてくれない?」
「……ふーん? そんなに拒絶するなんて、よっぽど苦手なんだぁ~?」
違うんだ、一華ちゃん。
君が俺にもたれかかっているせいで、胸が頭に乗ってるんだ!
しかも、その姿勢が楽なのか、一華ちゃんはまったく離れようとしてくれない。手を伸ばして脇腹をこしょこしょと触っていた。
まぁ、こそばゆくはある。
でも我慢できないほどではない。別にくすぐられるのが苦手というわけでもないのだが。
「ちょ、ちょっ……一華ちゃん!?」
俺は慌てていた。
だって、二つ年下とはいえ、年の近い女子にここまで密着されるのは、初めてである。花菜さんは年上なので包容力もあって、甘えられたけど……一華ちゃんは年が近いので、変な意識をしてしまうのだ。
「えへへ~♪ ここかなぁ? ここが弱いのかなぁっ?」
一方、一華ちゃんは純粋の楽しそうだ。
意外とからかうのも好きなのだろうか……イタズラっぽい笑い声をあげながら、勢いよく脇腹をくすぐっている。
中学生らしい無邪気な反応だ。
しかし、中学生らしからぬ感触に包まれているせいで、冷静さを取り戻せなかった。
もちろん、強引に振り払うことは可能である。力は俺の方が強いのだから当たり前だ。
でも、本能がそれを嫌がっている。一華ちゃんの柔らかい感触は、マッサージ以上の心地良さがあって、離れることはできなかった。
まぁ、うん。
なんだかんだ、悪くはなかったです――。
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