表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/105

二十八話 母の味と不義理な息子

 正直なところ、武史にはまだ花菜さんと俺の関係を知られたくない。

 いや、もちろん分かっている。武史を傷つけることが目的なら、花菜さんとの関係を知らせた方がいいだろう。


 武史は意外とマザコン気質なので、俺が花菜さんと親しくしていることに少なからずダメージを負うはずだ。


 そしてきっと、武史は花菜さんを責めるだろう。そうなったら親子喧嘩へと発展して、花菜さんは傷ついてしまうはずだ。


 しかし、それはまだ……できればもっと後にしたい。

 もう少しだけでいいから、花菜さんとの平穏な日々を楽しみたい。


 せめて、この傷が癒えてからがいい。

 俺にとっても、花菜さんにとっても、こいつらのことを数日で乗り越えるのは難しい。時間という薬がまだ足りていない。


 だから、バレたくなかった。

 しかし……武史は生まれた時からずっと、花菜さんの手作り料理を食べているわけで。


「……おい、巧。この弁当、どうした? いつもと違うじゃねぇか」


 美味いとも、不味いとも言わない。

 ただ、何かを思い出そうとしているように見えた。


 さすがに気付いたか?

 いや、しかしまだ核心には迫っていないので、可能な限りはぐらかそう。


「今日は弁当屋さんで買ったんだ。意外と美味しくて俺もびっくりしてるよ」


「弁当屋? お前が作ったんじゃないのか?」


「俺が? いやいや、弁当なんて作れるわけないだろ」


「それもそうか……でも、うーん。どっかで食ったことある味なんだが」


 明らかに疑われている。

 花菜さんの手作り弁当、とまでは流石に予想されてはいないだろうが……このまま言及されると、どこかでボロが出そうだ。


 武史は意外と頭がいい。こういうノリなのでバカに思われがちだが、要領が良くて機転が利くタイプなのである。


「おい、これどこで買ったのか言えよ。俺も買いに行くから……ちなみにいくらしたかも教えろ」


 やっぱり、痛いところを突いてきた。

 適当な場所を言うことは可能だが、容器やメニューなどの違いでウソがバレそうである。


 ここはもう、諦めるべきだろうか?

 どのみち、バレるのは時間の問題である……とりあえずウソの弁当屋さんの名前を出して、時間を稼ごう。そして花菜さんに今日のことを伝えて心の準備をしてもらって――と、後の算段を立てていた、そんな時だった。


「そんなに美味しいの? どれどれ、ふーん……そんなに美味しい? 別に普通でしょw 味が家庭的っていうか……弁当屋にしてはしょぼいじゃん」


 武史の食べかけのハンバーグを一口食べた香里が、薄ら笑いを浮かべながら感想を俺たちに伝えてきた。


「わざわざ買いに行く必要なくない? え、武史君ってこういう家庭的な味が好きなん? なんか意外でウケるーw」


 俺にとっては温かい家庭の味。

 武史にとっては母の味。


 しかし、香里にとっては他人の家庭料理にすぎないわけで。

 こっちの方が感想としては客観的なのだろうか……色眼鏡のない感想を聞いて、武史はハッとしたように目を見開いた。


「――た、たしかにな。こんなの買う必要ねぇか……どっかで食ったことあるだけで、別に美味しくはねぇし。普通すぎるから、これならコンビニでいいか」


 ……よくもまぁ、母親の料理をこうやって言えるものだ。

 知らないとはいえ、不義理だと思う。いつも作ってくれることに感謝は伝えられないにしても、ありがたくは思っていてもいいはずなのに。


 香里の手前だからなのか、強がりも含めてなかなか酷いことを言っていた。

 女性の前でかっこつけたがる武史らしいな。変なプライドが邪魔をして、素直に『美味しい』とも言えないらしい。


(それにしても、香里って本当に……怖いな)


 無意識ではあるのだろう。

 しかし、だからこそ怖い。男のプライドをくすぐるような発言が恐ろしい。


 そのせいで、武史が冷静な判断をできなくなっている。香里さえいなければ俺のウソを見破れただろうが……彼女に煽られたことによって、思考が遮られてしまっている。


 でも、まぁ……バレずには済んだようなので、良かった。


「コンビニの弁当……少し、味が濃いな」


「それが美味しいんでしょw」


「まぁな。俺にとってはちょうどいいけどな!」


 そんな会話をしながら武史と香里は食事を再開した。


 二人はまだ知らないのだろう。

 コンビニの味も、外食の味も、すぐに飽きてしまうことなんて。


 そして、何よりも食べたい家庭料理こそ、実は食べるのが難しいことなんて……知っているわけ、ないか。


 と、そんなことを考えながら、俺もゆっくりと箸を進める。


(うん……やっぱり、美味しい)


 一つしか残っていないハンバーグを、少しずつ味わうのだった――。

お読みくださりありがとうございます!

もし良ければ、ブックマーク、高評価、レビュー、いいね、感想などいただけますと、今後の更新のモチベーションになります!

これからもどうぞ、よろしくお願いいたしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 益々主人公がヘタレすぎ&アホに見える。 不自然な理由を取ってつけた様に自分語りに入れても逆効果。
[一言] 主人公ヘタレすぎるだろ、幼馴染みと親友が悪くないと感じるほとヘタレ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ