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二十三話 元気づけられたのは

 一華ちゃんと過ごす時間は、常に明るくて賑やかだった。

 話題はとりとめのない内容である。一華ちゃんの学校のことや、勉強のこと、それから趣味の話などばかりで、決して爆笑できるようなインパクトの強いものではない。


 しかし、彼女が心から楽しそうに話してくれるので、不思議とこちらの口角が上がるのだ。愚痴とか、不満とか、悪口とか、そういうことを一切言わないおかげもあるし、彼女の人格のおかげでもあるだろう。


 五味一華という人間は、とにかく明るくて無邪気だった。

 一緒に会話していると、心が洗われていくかのような清らかさを感じたくらいである。


「……あ! もうこんな時間だっ」


 そして気付けば、夜の十九時を過ぎていた。

 だいたい二時間くらいだろうか。リビングのソファでずっとオシャベリしていたので、もうこんなに時間が経っていることに驚いた。


「うぅ……本当はゲームも一緒にしたかったなぁ。あ、そういえばたくみにぃってゲーム機持ってる?」


「いや、持ってないよ」


「そうなの? じゃあ、明日は持ってくるねっ……何を一緒にやろっかな~」


 と、まだまだ会話は続きそうだったのだが、時間のことは頭に入っていたのだろう。ゲームの話題はすぐに終わった。


「そろそろ帰らないと……お母さんが心配しちゃう」


「そうだね。もうそろそろ夕ご飯もできてるんじゃない?」


「うん……でも、もっとたくみにぃとオシャベリしたかったなぁ」


 名残惜しそうにしてくれているということは、一華ちゃんもこの家にいる時間を楽しんでくれたということなのだろう。


(良かった……少しは、元気づけてあげられたかな?)


 武史たちのせいで、昨日の一華ちゃんはかなり動揺していた。

 でも、一夜明けた彼女を見てみると、大分元気になったように見えた。


 年上として、少しは彼女の役に立てたのかもしれない。

 ふぅ、良かった……と安堵して、一華ちゃんを家に帰してあげようとソファから立ちあがった。


 しかし、彼女はまだ立ち上がらずに、俺をジッと見つめていた。


「たくみにぃ……昨日より、なんだか明るくなったね」


「そうなの?」


 まぁ、確かに昨日より気分はすごくいい。

 花菜さんに癒してもらったおかげでもあるだろう。

 そしてもちろん……この子のおかげでもあった。


「昨日はわたしの前で無理して明るく振舞ってたでしょ? でも、辛そうだったから……うん。今日は、良かった!」


 ……どうやら見抜かれていたらしい。

 年上なので、一華ちゃんには無意識に強がってしまうし、心配させたくないという思いも強い。


 だけど、そうだ……一華ちゃんはもう、子供じゃない。

 俺の変化にも、敏感に気づく。その上で昨日は知らないふりをしてくれていたみたいだ。


「ありがとう……一華ちゃんに元気をもらえたおかげだよ」


 今日は俺が元気づけてあげようと思っていた。

 その目的通り、一華ちゃんも多少は元気になれたと思う。


 でも、元気をよりいっぱいもらったのは、むしろ俺の方だろう。

 それくらい、彼女とのオシャベリは賑やかで楽しかったのだ。


 花菜さんと一緒にいると、たくさん癒してくれて心地良い。

 そして一華ちゃんと一緒にいたら、赤るくて元気になれる。


 つまり俺は、それぞれ違う形で二人に救われていたのだ。


「じゃあ、また明日ね! バイバイ、たくみにぃっ」


「うん。また明日……待ってるよ、一華ちゃん」


 そして、手を振って彼女を見送った。

 明日もまた一華ちゃんはこの家に来てくれるらしい。そして彼女が帰ったら、入れ替わるように花菜さんも来てくれるのだ。


 ……もう、寂しさは感じない。

 俺のことを認めてくれる味方がいる。

 花菜さんと一華ちゃんが、そばにいてくれる。


 だから、もう寂しく思う必要なんてない。


「……よし!」


 自分に気合を入れるために、声を発した。

 もう、弱々しく震えてなんかない。


 この調子であれば、明日学校に行ってもきっと大丈夫だ。

 武史や香里と顔を合わせても、きっと平常心でいられる。


 そう信じて、とりあえずこの後は花菜さんの作り置きしてくれた夕食を食べた後、早めに眠ることにするのだった――。

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