二十二話 一緒にいるだけで明るくなれるような
――十七時くらいに、彼女はやってきた。
「やっほー。たくみにぃ、いる?」
「うわっ!?」
現れた場所は、昨日と同じくリビングの窓。
テレビを見ていた俺は、急に出てきた彼女に驚いてソファから転げ落ちそうになった。
「い、一華ちゃん……びっくりするから玄関から来てよ」
「えへへ~。たくみにぃをびっくりさせたかったもんっ」
驚いた俺の顔がおかしかったのだろうか。
一華ちゃんは楽しそうにニコニコと笑っていた。
「ちょっと遅くなったかな? 今日は委員会の仕事で居残りをしてたの……一応、学校から直行してきたんだよ?」
「別に急がなくてもいいのに。家、近所だし……着替えてきたら? 制服だと息苦しいんじゃない?」
俺としては、親切のつもりで伝えた言葉だ。
しかし一華ちゃんは、唇を尖らせてどこか不機嫌そうな表情を浮かべた。
「着替えるって……たくみにぃはすごく難しいことを言うね?」
「な、何か変なこと言った?」
「うん。だって――たくみにぃにお披露目するお洋服なんて、そう簡単に選べるわけないもんっ。一時間くらいは真剣に考えないと、たくみにぃの前に私服で現れるなんて絶対にムリ!」
これはまた……難しい論理だった。
年頃の女の子はなかなか大変みたいである。
「そういえば、昨日の夜も制服だったよね?」
「だって、お洋服が決まらなくてっ。たくみにぃに子供っぽいって言われるのもイヤだし、かと言って大人っぽい服はまだ似合うものが少ないし……」
結果、無難に制服を選んだのか。
「……一応、たくみにぃはわたしの初恋の人なんだよ? もうちょっと気を遣ってくれないと困るよっ」
あー……たしかに昨日、そういうことを言っていた。
それを踏まえて考えてみると、確かに俺の発言は配慮が足りなかった気がする。
「変なこと言ってごめんね?」
素直に謝ると、一華ちゃんはコロッと表情を変えて今度はまた笑ってくれた。
「いえいえ。お詫びに今度、一緒にお洋服を買いに行こうねっ。たくみにぃが好きなお洋服なら、着ることができるから」
「俺、あんまりファッションとかよく分からないけど、いいの? 一華ちゃんに似合う服とか選ぶ自信ないかも……」
「全然いいよ! たくみにぃが好きなお洋服が、わたしの好きなお洋服だもん」
これはまた……嬉しいことを言ってくれる。
相変わらず、懐いてくれているというか……一華ちゃんの無邪気な好意は、昔と全く変わらなかった。
「よーし! たくみにぃとお買い物だぁ♪ えへへ~……何を着ていこうかな?」
「制服でいいんじゃないの?」
「でも、せっかくの買い物なのに制服はもったいない……って、そういえば! たくみにぃ、聞いて!? 大変なことに気付いちゃった……わたし、お洋服を買いに行くためのお洋服がないっ」
と、今度は深刻そうな顔で顎に指をあてて、何やら考え込み始める一華ちゃん。
「ぐぬぬっ。どうしよう……制服が無難だけど、せっかくのお出かけだもんね。おめかしがしたいし、たくみにぃに『かわいい』って言われたいのにっ。うぅ、わたしはどうすればいいのかな、たくみにぃ?」
それから一華ちゃんは、なぜか泣きそうな顔で俺を見てきた。
現れてからずっと、表情がコロコロと変わっている。色んな顔を見せてくれる一華ちゃんと一緒にいると、不思議と気持ちが明るくなった。
やっぱこの子は、一緒にいて自然と笑顔になれるような女の子である。
花菜さんもそうだけど……根が善良な人だからなのか、言葉に悪意がなくて清らかなのである。
だから、変なことを考えずにすむ。
武史のことも、香里のことも……一華ちゃんと話している間は、ちゃんと忘れることができていた――。
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