十八話 報われる優しさ
――翌日。
花菜さんは今日までパートが休みということで、午前中から俺の家に来てくれていた。まだ掃除したい場所があると、この日はわざわざ掃除用具まで持ってきていたけれど……その前に、早速、一華ちゃんが我が家を訪れたことを報告してみた。
「一華が? ……そうなのね。ホテルに入ったところを見た、と」
花菜さんは険しい顔をしていた。
やっぱり、この話には何か思うところあるのだろう。
とはいえその『何か』とは、もちろん一華ちゃんのことではなくて。
「一時の気の迷い、ではなかったのね……武史の育て方、どこで間違えていたのかしら」
武史のことに関して、花菜さんは憂いている。
一昨日、昨日と連日で香里と行為に至っているのだ……まぁ、花菜さんの言葉通り一時の過ちではなく、色々と理解している上で俺を裏切っていることは間違いないだろう。
「……もしかしたら、最初から間違えていたのかしら。私には手が負えない子、だったのかもしれないわね」
浮気相手に押し付けられた、血の繋がっていない義理の息子。
花菜さんには育てる義理も義務もない。でも、優しい花菜さんはそんな境遇の子供を見捨てられるわけがない。
だから、血なんて関係なく自分の子供として育てたのだろう。
しかしその愛も、花菜さんの優しさも、武史は学ぶことはなく、今に至った。
「重ねて、謝らせて。うちの息子が、ごめんなさい」
だから花菜さんは頭を下げるのだと思う。
あの時、武史を見捨てないという選択をしたせいで、俺が傷ついている……そうやって考えているからこそ、この人は心から申し訳なさそうにしているのだ。
「いえ……俺の事よりも、一華ちゃんの方が心配です。まだ中学生なのに、こんな生々しいことに巻き込んでしまって……年上として、不甲斐ないです」
ただ、今は俺の事よりも一華ちゃんの方が気がかりだ。
「俺の判断、どうでしたか? 間違ってないですか?」
昨日、一華ちゃんに『たくみにぃを不幸にした責任を取らせて』と言われて、それを了承した。
色々と考えたうえで判断だったが、正直なところ正解かどうかの自信がないので、大人の花菜さんの意見を聞いてみたかったのである。
その問いに対して、花菜さんはすぐにこう言ってくれた。
「素敵な判断だと思うわ。一華の母としても、お願いさせて? 巧くんには迷惑ばかりかけて申し訳ないけれど……一華に関しては、罪はないもの」
険しい顔を緩めて、今度は優しく微笑みかけてくれた。
しかも、俺に歩み寄ってきて……そっと抱きしめてきた。
「あと、ありがとう。一華の頼みを聞いてくれて……きっと、少なからず、ショックを受けていたはずだから。巧くんのおかげで、一華も救われているわ。優しいあなたの判断に、母として心から感謝しています」
……恥ずかしい気持ちが、ないわけじゃない。
ふくよかな胸に顔が埋まっているし、女性らしい匂いが気分を落ち着かなくさせるから、できるなら離れたい。
でも、その優しさが嬉しくて、何も言えなかった。
俺の行動を称えて、褒めてくれている。たったそれだけで、自分の行動がすべて報われた気がして、嬉しくなるのだ。
なんだかんだ……祖父母がいなくなってから、こういう温もりに俺は飢えていたのかもしれない。
久しぶりに感じる愛情が、とても心地良かった――。
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