十七話 初恋の後悔と解決方法
幼い頃の一華ちゃんは、かなりの負けず嫌いだった。
ゲームで負けた時なんか号泣して、勝つまでやめないような性格だったのである。
大きくなって、負けず嫌いの気持ちは少し落ち着いているように見えるけど……もしかしたら、心の奥底にまだ残っているのかもしれない。
「あんな女に、たくみにぃを譲った自分が許せない。正々堂々と勝負して、たくみにぃを勝ち取っていれば――きっと今頃、たくみにぃにこんな思いはさせなかったのに」
床に正座したまま、俺をまっすぐ見つめるその瞳は――落ち込んでいるというよりも、何かを決意したかのような輝きが宿っているように感じた。
「もちろん、勘違いしないでね? たくみにぃが振られたから、傷心につけこもうとしているわけじゃないよ。付き合いたいとか、そういうことじゃなくて……とにかく、許せないだけなの」
一華ちゃんは、曖昧な部分をハッキリと言ってくれた。
「たくみにぃのことはもう、異性として好きなわけじゃない。今はちゃんと気持ちに整理がついている……決して、たくみにぃの負担にはならない」
……正直なところ、恋愛からはしばらく距離を置きたい。誰かと付き合うとか、そういうことを今は考えられない。
だから、一華ちゃんがそのあたりをハッキリさせてくれて、気持ちがすごく楽になった。
「その上で、もし良かったら――わたしに、たくみにぃを元気にするお手伝いをさせて? そうしないと、わたしは悔しくて自分を許せないの」
負けず嫌いだから、過去の行動を悔やんで仕方ないのだろう。
少しでもその気持ちを払拭したいという気持ちが、ひしひしと伝わってきた。
「……一華ちゃんは、何をしてくれるの?」
「え、えっと……家事とかお料理は苦手だけど、その……ゲームとか? うん、ゲームとか、あとはアニメとか映画とか、そういうのを一緒に見ることならできるよっ」
それって、ただ一緒に遊んでくれるだけでは?
でも、まぁ……一華ちゃんの言葉を聞いて、なんだか気が抜けた。
別に、何か特別なことをする必要なんてない。
今は一人でいると悪いことばかり考えてしまうから……ただ、気の許せる誰かと、のんびり一緒に過ごす――それこそがあるいは、元気になるための最善の選択なのかもしれない。
そう考えると、一緒にいてくれる一華ちゃんみたいな存在は……なんだかすごく、ありがたいと思った。
「だ、ダメかなぁ? わたし、ゲームとか結構上手だよ? あと、えっと……そうだ! マッサージもできるのっ。お母さんに上手だねってよく褒められてるもん!」
一生懸命アピールしてくる一華ちゃん。
そんな彼女を見て、こらえきれずに笑ってしまった。
「あはは……それは、うん。ぜひ、お願いしようかな」
頷いて、一華ちゃんに手を差し伸べる。
もう、土下座なんてしなくていいと笑いかけると……彼女は嬉しそうに笑って俺の手を握った。
「うん! えへへ~……いっぱい元気にしてあげるね、たくみにぃっ」
その笑顔がまた、俺の心を明るくしてくれた。
花菜さんみたいに、癒して甘やかしてくれるわけじゃないけど……一華ちゃんと一緒にいると、不思議と心が明るく元気になるから、不思議なものである。
……って、そういえば。
明日も学校は休む予定なので、恐らく午前中に花菜さんは顔を出してくれるだろう。その際に、一華ちゃんのことを報告しておかないと。
彼女の存在はありがたいけれど。
母親の花菜さんに何も言ってないようなので、そのあたりが少し気がかりではあった。
この状況だと、一華ちゃんに花菜さんのことを言うわけにもいかないし……なんだか複雑だ。
でも、二人の存在はありがたいので、拒絶しようとは思わなかった――




