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無防備都市  作者: 昼咲月見草
セレとウォーダン

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12/89

議長 アラゴン・リード

 アラゴン・リードの一族は、長くソーリャの議長席を守っている。


 神殿は議会が聖女に影響力を持つのを嫌い、議員が聖女と会うのを制限している。

 面会が許されているのは実質、議会では議長1人のみだ。


 議員たちはそれを、不公平だ神殿の横暴だと市民を煽動して聖女を表に出させようとするが、アラゴンからすればくだらない我儘に過ぎない。



 確かに、神殿は聖女を神殿の奥で隠すように育て、人々は年に一度、神殿が配布する短い立体映像(ホログラム)でしか聖女の情報を知ることができない。

 ごく稀に護衛付きで外出するさいは、話しかける事は決して許されず、それどころか追い払われて近くで見ることさえさせてもらえない。


 だがそれは、聖女を守るためには仕方のないことなのだ。


 大昔、ここまで神殿が傲慢でなかった頃、議員の中には立場を利用して聖女と2人きりになって関係を迫ったり、聖女が世間知らずなのをいい事に強引に口説き落として結婚、子どもを産ませたりなど卑劣な真似をする者もいた。


 家族とごく一部の聖女が心を許した人間だけが、冷凍睡眠(コールド・スリープ)装置の中に聖女が入ったあと、聖女の間への入室を許される。


 不思議と、そこで聖女に相談したことや頼んだことは、上手く解決することが多かった。

 聖女はわずかながら、夢うつつに似た状態でも意識があるのでは。

 そう言われるようになったのはそのためだ。



 愚かな平議員どもが、自分は特別なのだと勘違いして聖女を手に入れようとすれば、神殿も黙ってはいないだろう。

 実際、聖女と強引に関係を持とうとした議員は駆けつけた神官によって殺されたが、怒りの収まらなかった神殿は聖女の条件を過去のものに戻し、現在の議会は解散、今後数代はその地位を与えないと言い出したという。


 その頃、議長をしていたリード家の家長の日記が、今も残っている。


 聖女を手にしたいと考えるな。

 それにはそう書いてあった。

 家族だと思うように気にかけ、愛情をかけてやれ、と。


 秘密を守れる年になったら息子と孫にもその日記を読ませ、ソーリャの議長の座を継いでいくための教育をしている。


 神殿と上手くやる方法。

 議員たちを手懐ける方法。

 市民たちの支持を受ける方法。


 議長として長年その座を守り続けてきた彼らには、そのノウハウも、苦労も山のようにある。

 特に、市民たちや、流れ込んでくる難民・放浪者たちを爆発しないよう調整し、支配もコントロールもされていないと思わせるのは骨が折れる。


 それでも、彼らは愛する家族のため、愛するソーリャのため、日々問題を解決しているのだ。


 なのに、神殿の神官どもは呑気に、偽善の仮面を被って議会よりも自分たちが上だと考えている。

 腹立たしいことこの上ない。



 アラゴンは先ほど話した紫の神官の、世の中を舐めたような生意気な顔を思い出した。



 あの若造が。



 ああそうだ、返す返すも腹立たしい。


 議会が聖女の現状を話せば、苦しい立場に追い込まれるのは神殿のほうだ。

 神殿は、議会が今の状況になった出来事をばらされたくないはずだと考えているようだが、リード家の先祖が初代聖女の決めたことを変えたのは妊娠中の妻のためだった。

 何も恥じることではない。


 だが、どんどん聖女の寿命が尽きるのが早まっているのはそこに何か問題があるからだ。

 それは議会ではなく神殿のやり方が聖女を苦しめているからに違いないのだ。



 そろそろ、魔力の多さが全てを決めるという神官の選び方も変えてもいいかもしれないな。


 ものを知らない、礼儀も弁えない若造が魔力があるからというそれだけで神官となり、あげく最上位の衣を着る。

 それでは知識も経験も身に付かず、広い範囲を見て深く思慮を重ねることなく、一足飛びに物事を片付けようとする極端な人間になりかねない。


 神殿の外には多くの市民の様々な生活があり、生活階層がある。

 その全てを簡単に満足させることなど不可能であり、取引や調整、折衝を重ねて、それでも不満は出続けるものなのだ。

 政務を取り仕切る者から街の治安を守る兵士の1人に至るまで、彼らは皆、幼い頃から学び、努力し、小さな事を積み重ねて街に貢献する手段を得ている。

 それは並大抵のことではない。


 そういった全ての努力が、あの紫の神官に足蹴にされているようだとアラゴンは思う。


 学びを重ね、己を磨き、街の繁栄のためにと先々のことを考え、備え、他国との交流を重ねる、そういう日々の地道な努力をする者が報われない。

 

 やはり神殿は、いずれ大きく改革が為されるべきなのだ。



 そんな事を考えながらアラゴンは、そのときどうルールを定めれば、自分の息子や孫たちが神官となりそのトップに立てるかをあれこれ検討し始めたのだった。













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