33.三人寄れば文殊の知恵ならば
「イーディス、頼む」
「はい」
バッカスからバトンタッチしてもらい、イーディスは推察とこれからの計画を話すことにした。本当は本部に置いてあるホワイトボードに書かれた図を使った方が分かりやすいのだが、今あの場所は会議に使われている。だから魔道書から出したホワイトボードに自分で図を描くことにした。アンクレットほど上手くは描けないが、なんとか理解してくれることを祈るばかりである。きゅっきゅと音を立てて、簡易図を作成し、棒で指しながら説明をしていく。
「現在、大陸中の魔の多くはカルドレッドとギルバートの他に、二人の聖女と剣聖に集まっている状態です。慈愛の聖女であるマリア様はカルドレッドとギルバートが協力しながら負担を最低限に減らし、癒やしの聖女であるメリーズ様の負担はパートナーと分割している状態にあります。剣聖も二人いますが、ザイル様の隠居により、剣聖に向けられるもののほとんどがリガロ様一人で担っている形となっています。また癒やしの聖女は自らの力である程度回復が出来るのに対し、リガロ様は退魔核を使った一時的な取り除きのみ。多くの負担がのしかかっている形となっています」
魔の移動を矢印で、負担の大きさを魔と書かれた袋の増減で示すとローザはコクコクと頷いてくれる。ここまでは職員達もすぐに納得してくれた。元々その状況を理解していた者も多い。けれど問題はこの先だ。もう一つの世界で過ごしたイーディスだからこそ気付いた可能性であり、今の状況を変えるための手がかりでもある。
「また、私達が学園に入学する少し前から公共の娯楽になりつつあった剣術大会にも魔が集まっており、これが人々の身体から溜め込んだ魔を放出するために重要な役割を担っているのではないかと考えています」
「大会でリガロ様が吸い取っていると?」
「魔の本質が負の感情であり、彼がその感情を打ち消す、もしくは別の感情で上書きすることが出来ているのではないかと」
あちらの世界とこちらの世界。シンドレア全体で見た時の変化は主に三つ。
剣術大会の運営形態・乗馬ブーム、そしてカルバスだ。だがカルバスはマリアの体調に変化があると感じた魔王がこちらの世界にのみ投入したものであり、その前に何かしらの分岐が起きていたと考えられる。となれば残る二つが分岐に関わっていた可能性が高い。そしてそのどちらも娯楽であり、中心にいるのはリガロである。彼がなんらかの形で作用している可能性が高い。剣術大会と乗馬ブームを比較した時、どちらの影響力が高いかと言われれば剣術大会である。これは自国に留まらず、カルバスが流行った時点ですでに他国にまで浸透していた。おそらく、鍵を握るのは剣術大会。そこでこの数日、バッカスとアンクレットに剣術大会が始まる前と後のシンドレアの魔量の変化をグラフ化してもらった。するとシンドレアだけではなく、周辺国の数値も減少傾向にあることが判明した。カルドレッドではこれを剣聖の効果の一部として処理していたが、剣術大会との関連性を探っていくうちに会場建設のタイミングとリンクしていることが確認された。直接的ではないにしろ、やはり剣術大会も分岐の一つに関わっている可能性が濃厚である。
「私達の親の世代でしたらゲートの一件と魔物の怖さを知っていますから、剣聖という強者を目にすることで魔物への恐怖は薄らいでいくと思われます。ですが、それより下の世代は年齢が下がるごとに効果が低くなるかと」
「魔物への恐怖に限らず、楽しいこと考えている時間が長いと自然と悪いことを考えている時間って減っていきませんか?」
つまりはストレス発散をすることで気分が軽くなることを利用しようというのである。提示出来るデータはないが、ローザもマリアも思い当たる節があるのかコクコクと頷いている。
「確かに……」
「思えば私もイーディス様からもらった羽根を眺めている間は本当に幸せで、オススメの本を抱えて寝ると悪夢を見ることも少なかったように思います」
「剣術大会以外でもいいと思うんです。魔王さんが作り出したカルバスだって読書中に生まれる感情の変化を利用しているらしいですし。重要なのは新たな娯楽を作り、そこで効率的に魔を回収することであり」
「ちょっと待ってください! カルバスって魔王が作り出したのですか?」
「そうなんです! 私もびっくりで。あ、未発表原稿を貸して頂いたので、是非今度ローザ様もお読みになってください」
「話が脱線してるぞ。だがカルバスの作者の未発表作は使えそうだよな。今度は表紙に変化が出たりしないよう、何かしら手を加える必要があるが」
「あれは処分のタイミングを知らせるために意図的に出したものらしいですよ。高濃度の魔に触れると変化が発生し、噂になるようにって。詳しい原理はアンクレットさんに渡した資料に書かれていて、すでにアンクレットさんの指示で魔法道具開発班がカルバスと同様の性質を持つ魔道書の作成に入っています」
表紙が変わる本の噂が立てばほぼ確実にカルドレッドが動くことになる。魔法道具であることが判明すれば回収し、周りの魔量の測定に取りかかるだろうと踏んだのだ。だが所有権が魔王から聖母に移ったことで不具合が発生しーーという具合に予定とズレてしまった、と。そんなことをするなら初めからカルドレッドと協力すれば良かったと思うのだが、魔界側にも何かと制約があるらしい。領主不在の弊害でもあるのだろう。それは今になって文句を言っても仕方ない。不具合も含めて利用出来る物は全て利用するだけだ。
「本の内容による変化のデータも取らないとよね……。解析なら私が引き受けます」
「ありがとうございます! あと、魔道書の他にも、剣術大会の会場を中心に、観光地や娯楽施設、魔が多く溢れている地域に大きな退魔核を設置したいと考えておりまして」
「こちらは現在あるものの改良がメインだな。簡単なアクション、例えば核を軽く触れるとかで魔を吸い取ることが出来ればベストだろう」
「集めた魔をカルドレッドに移動させてエネルギー源として役立てることが出来る、なんてことが実現出来れば一石二鳥ですよね」
「それでしたら慈愛の聖女の研究データを使いましょう」
こうやって話しているとまるであの頃に戻ったようだ。
三人寄れば文殊の知恵。三人でも凄いなら、五人、六人、それ以上と揃えばどんな力を発揮するのだろうか。




