18.地味から派手に
「今度の出張、イーディスも連れて行ってやれ」
「は?」
三人がカルドレッドを去った後、アンクレットはバッカスの前にイーディスを連れて行った。そしてこれといった説明もなく唐突に話を切り出した。いきなり話を振られたバッカスは意味が分からないと眉間に皺を寄せる。けれどアンクレットは気にすることなくポケットから何やら小型の機械を取り出した。
「そろそろ外での仕事も教えてやらないとだし、ついでにこれ持って移動中の魔量のデータもとってきてくれ」
よろしく、とバッカスの手に握らせる。イーディスと話していた時のような選択肢はない。彼が拒む可能性など考えていないようだ。確かにイーディスはカルドレッドの外を見たい。けれどバッカスにもバッカスの事情というものがある。いささか強引すぎやしないか。
「さすがにイーディス嬢に外は早いでしょう!」
「もう検査も済んでるし、身体に魔も馴染んでる。問題ない」
「問題あります。彼女がこっちにきてからまだ一ヶ月ですよ? 魔道書の能力だってまだ把握しきれていない。この状況で職員のいない場所に行くことがどれほど危険か、あなたが分からないはずないでしょう」
「他の奴らだって完全に能力が把握しきれている訳じゃない。ここに来てから何十年後に分かることだってある。危険って言ってもたかだか移動に数刻、行き帰りに半日くらいしかかからない距離でお前も付いてるんだからいいだろ。まぁお前がイーディスと一緒に外行くのが嫌なら俺が連れて行くが?」
「嫌なんてひと言も言ってないでしょう!」
アンクレットの裾を引き「ちょっとアンクレットさん」と小声で指摘しても彼は涼しい表情のまま。
「あの、バッカス様。急にごめんなさい。アンクレットさん、私アンクレットさんと一緒に行きます」
「そうかそうか俺と行きたいか。よし、俺がとっておきの店を紹介してやろう」
アンクレットはなぜか煽るような言葉を並べる。だがバッカスに迷惑はかけたくない。ここは彼に合わせてお願いしますと頭を下げるべきなのだろう。けれどイーディスよりも早くバッカスが口を開く。
「俺が行く!」
「よし、決まりな。イーディスの分の外出申請はこっちで出しておくから」
アンクレットはバッカスの言葉に被せるように宣言すると、さっさとこの場を去る。後でやっぱりなしと撤回されないようにするためだろう。体よく押しつけられたような気がしなくもない。残されたイーディスは謝るだけだ。
「私のせいでご迷惑をおかけしました」
すみません、と深々と頭を下げる。
「気にしないでくれ。一緒に出かけたくない訳ではないんだ。ただ、心配なだけで……」
「私、ちゃんと大人しくしていますから!」
「何かおかしいなと思ったら無理せずちゃんと言ってくれよ? 仕事なんて放り出してすぐに帰るから!」
気を遣ってくれるのは嬉しいが、それはそれで問題があるのではなかろうか。イーディスは絶対バッカスに迷惑をかけないようにしようと心に決めた。
ーーこうしてバッカスと出かけることになったイーディスだったが、その二日後、アンクレットから呼び出された。
「どうしたんですか?」
「変装セット作ったからちょっと合わせてみてくれ」
「変装セット?」
「イーディスの顔を覚えている人と会うかもしれないし」
この一式な、と言って見せてくれた服は、ひと言で表せば『派手』に限る。可愛いが、イーディスなら絶対に身につけない色とデザインがずらりと並んでいる。それに何より一番目にとまるのはマネキンにセットされたウィッグである。薄めのグリーンとブルーのグラデーションなんてこちらの世界でもお目にかかったことがない。どこから用意したんだと引く反面、これを被ったら絶対にバレないという確信もある。
「当日は髪や服装に合わせてメイクもしてもらうけど、とりあえず今日はサイズ調整だけな」
イーディスはこれが外に出る代償と割り切ることにした。変装セット一式を手に取り、隣の部屋へと入る。鍵を締め、テキパキと着替えていく。見た目はイーディスの好みと正反対だが、この服、イーディスが一人で簡単に着替えられるようになっている。しかも注文せずとも前開きで、パッと見では分かりづらいところにしっかりと深めのポケットが付けられているのだ。本当にありがたい。ウィッグだけ上手く付けられなかったが、それ以外は問題なく着ることが出来た。サイズもぴったり。さすがアンクレットである。イーディスは脱いだ服をハンガーにかけ、ウィッグ片手に部屋を出た。




