16.十年越しの写真撮影
「イーディス様、お身体は大丈夫ですか? カルドレッドの生活に不便はありませんか?」
「親切にして頂いておりますわ」
「食事や水が合わないとのことでしたら、いつでもシンドレア産のものをお贈り致しますので」
「美味しいご飯ばかりで、毎日つい食べ過ぎてしまってます。太らないか心配なくらい」
「少し痩せたように見えるが」
「本当ですか!?」
「毎日馬に乗ってるから引き締まったんだろう。イーディス嬢の体調管理はバッチリだ。異変があればすぐに俺が気付く」
「バッカス様ばかりずるいですわ。私もカルドレッドに残りたいのに……」
「マリア、ワガママを言ってもイーディス嬢を困らせるだけだ」
「それは……嫌、ですわ」
「来る頻度をもう少し増やすか」
「キース様!」
「私ももっと頻繁に足を運べればいいのですが、王子妃の役目もありまして……申し訳ありません」
「ローザ様が謝ることではありませんわ! シンドレアからは離れていますし、仕方ないです。だからどうか頭を上げてください」
「会えない代わりにオススメの本をいっぱい持ってきたんです!」
週末の朝一番に彼らはカルドレッドにやってきた。
久しぶりに友人と会える! とはしゃいだイーディスが早起きをして朝食を食べている時間帯だったのでかなり早い。ローザに至っては日が昇るよりも早く宿を出発したのではないだろうか。目元にうっすらとクマが出来ている。それでも会う日を楽しみにしていてくれたことが嬉しくて、頬は緩んでしまう。
「私はイーディス様の服を! あと、図書館で描いていた服も持ってきたんです」
マリアはそう告げると「着替えて写真撮影しましょう」とそれぞれの服を手渡していく。もちろんイーディスの手にも。袖口に幸せの模様を見つけ、涙が出た。
「イ、イーディス様!? お気に召しませんでしたか?」
「いえ。帰ってきたんだなって」
おろおろと焦り出すマリアが愛おしくて「生きていてくれてありがとう」と抱きしめた。彼女はイーディスの突然の行動に身を固めた。けれどそれも一瞬のこと。「感謝するのは私の方ですわ」と抱きしめ返してくれる。抱きしめ合う二人を見た友人達はゆっくりと身を重ね、小さな核を包み込んでいく。中心にいるイーディスは全身を温もりで囲まれ、ありがとうありがとうと何度も繰り返す。
しばらく抱きしめ合っていた五人だったが、やがて誰かが「写真を撮ろう」と声をあげた。ここに五人が全員揃っている証が欲しいと。図書館で集まるだけの五人に写真などなかったのだ。イーディスはバッグにいれていたカメラを掲げ、撮りましょうと賛同する。けれどこのカメラにタイマーなど付いていない。五人で映るなら他に撮影者が必要となる。ぐるりと見渡せば、聞き覚えのある車輪の音が耳に届く。
「すみません、少しお時間頂いてもいいですか?」
ブンブンと手を振ったイーディスを発見したアンクレットは馬を止め、こちらへと歩いてきてくれる。
「どうした?」
「引き留めちゃってすみません。写真撮ってもらいたくて」
「いいぞ。カメラ借りるぞ」
「お願いします。あの、できれば多めに撮ってもらえると……」
「俺のカメラもお願いします」
「分かった。ほら、全員こっち向け」
アンクレットはキースからもカメラを受け取る。てきぱきと位置調整をし、二台のカメラを交代させながら何度もシャッターを切った。放たれる強い光は魔道書が放つ光と似ている。けれど閉じた瞼を開いても、イーディスが立っている場所は変わらない。当たり前だ。ただのカメラと魔道書では持つ力が違うのだから。それでもフラッシュがたかれる度、この世界に繋ぎ止められているような気がするのだ。ホッとするような、それでいて寂しいような不思議な感覚だ。それでも左右と後ろから伸ばされる手が与えてくれる熱は一人では感じられないものだから。イーディスは四人の腕をぎゅっと両脇に抱えて、写真の向こう側に主張するようにニッと笑った。いつの間にこんなにさみしがり屋になったのだろう。分からない。けれど彼らだけは手から溢したくないと強く思うのだ。
「こんなもんか?」
「ありがとうございました」
「ところでお前ら、それ、大丈夫か?」
「あ……」
マリアが持ってきてくれた服を持ったまま、みんなで抱きしめ合っていたのだ。写真撮影中もどこかに置くことなくそのままで……。手の中の服はすっかりしわくちゃになっていた。それもイーディスだけではなく、五人ともがそうである。折角作ってくれたのに。マリアに申し訳なくて、ごめんなさいと頭を下げれば彼女は嬉しそうに声を漏らして笑った。
「このまま着て撮影しましょう。その方がずっと記憶に残りますから」
マリアの社交界デビュー用のドレスは十年越し、それも社交界とは関係のない場所で袖を通された。その上、しわくちゃにされるなんて作った人は予想もしていなかっただろう。けれど写真に映った全員が服の皺の分だけ幸せそうに笑うのだ。それぞれの服に刺繍された幸せの模様は写真にもしっかりと映り込んでいて、風に吹かれてひらひらと揺れていた。




