第55話 諦めないから
「だから峻、これからはアンタを落とすために動くから覚悟してよね」
「私も本気を出すときが来たようですね。お覚悟を」
何かセリフだけ聞いてるとバトル漫画みたいな宣言だな。ていうか二人共、俺の事を諦める気は無いみたいだ。
「い、いや、二人共、もっと良い人を見つけた方が良いんじゃないのか?」
それこそ、学校には会社の社長やら医者とかの息子なんてたくさんいるし、カッコいいやつだって多い。
「何よ。迷惑だって言うわけ?」
溝口はぐいっと俺に詰めてくる。お互いの顔が至近距離にあるためドキドキする。
「そ、そうじゃないけどさ。俺じゃ不釣り合いだって」
「それを決めるのは私でしょ。アンタの自己評価なんて聞いてないから」
こいつ、無茶苦茶言ってるの分かっているのか?俺は溝口の勢いに押される。
「同感です。自分が心に決めた人は例え峻君でも変えられません。勿論、峻君が誰かとお付き合いをしたならば諦めなけばなりませんが」
「そう?奪っちゃえば良いだけじゃない?」
竹之内さんと違って溝口はとんでも無いこと言ってるからな。誰かと付き合ってるのを奪おうとするな。
「……、二人共変わった趣味だよな……」
「まあ、それは否定しない。良く分かってんじゃん」
俺は深くため息をつく。二人の目を見ると何処か楽しげに笑っているように見える。
「では今日の所はここまでにしておきましょうか」
「そうだね。もう閉園時間になるし」
もう他の客たちはゾロゾロと入場口へと歩いている。俺達もそれに付いていく形で外へ出ることにした。
「では車を待たせています。お二人共こちらへ」
「いやいや、毎回悪いよ。俺は電車で帰るからさ」
「私も〜、コイツと電車で帰るよ」
俺と溝口は他の客と同じ様に駅方面へ向かおうと提案する。しかし、竹之内さんは笑顔のまま、手でバッテンを作る。
「駄目です。今、二人きりにするのは危険だと判断しますので」
「ちっ」
え、今溝口舌打ちしたのか?折角のご厚意なのに。俺達は断ったが有無を言わせない竹之内さんが俺達をいつものリムジンに押し込んでいく。俺は二人から離れた席に座ろうとするが、前回の様に二人は俺の両隣を抑えてくる。
「逃がすわけ無いよね」
「はい」
俺は潔く諦めて外を眺める。ああ、夕焼けが綺麗だな。
「でも、今日楽しかったですね。また遊園地に行きたいです」
「ふっふっふ、千葉にある遊園地はもっと凄いよ」
おい、そこは大人の事情で行くこと出来ないから止めろ。ハハッって笑い声が聞こえてくる。
「他にも色々な場所に行きたいです。あなたと」
竹之内さんは俺の手を取って、俺の目を見つめてくる。俺はすぐ近くになる綺麗な瞳から目を逸らせない。
「いや、私もいるんだけど」
「ああ、すみません」
と思ったら二人がお互い火花を散らし始めた。この対決って俺のせいになるのか?そこで溝口が部活を辞める件を思い出す。
「……、もしかして溝口が部活辞めるのって俺のせいなのか」
「別に峻のせいじゃないよ。私が辞めてアンタと一緒にいる時間増やしたいなって思っただけだし」
溝口はあっさりと言いのけるが本当にそれで良いのだろうか。俺は御剣先輩の言葉を思い出す。溝口の才能は日本代表になるかもしれない程の物だと言う。
「……、でも部活を辞めるだなんてさ」
「別に競技を辞める訳じゃないもん。部活だけが強くなれる道じゃないし」
そりゃそうかもしれないけどさあ。フェンシングをやるためにスポーツ推薦で芦月学園に入ったんだし勿体無いだろうと思う。
「言ったでしょ。私負けず嫌いなの。竹之内さんに勝つためにはそうしなきゃ勝てないって思っただけ」
「ふふっ、そう言ってもらえて光栄です」
二人が火花を散らす中、俺は居心地悪く座る。何で俺なんかの為にそんなバチバチになるのかさっぱり分からない。
「まあ、私達に目をつけられたのが運の尽きだと思って諦めることだね」
「私達、負けず嫌いなので私達が諦めるのを諦めてください♡」
俺は目眩がする思いでスマホを開き、太田さんに助けを求める。
『太田さん、助けてください』
『……、何が合ったか分かりませんがお二人の事でしたら自分で何とかしてください』
太田さん、これ何が起きているか察してるだろ!!俺は続けて文字を打ち込もうとした瞬間に背後からの気配を感じた。
「峻、私達が話してる時に誰と連絡取ってるのよ」
「は〜い。私達とお話しましょうね」
俺は現実逃避の為に窓の外を一瞬見た後、諦めて二人に向き直った。俺達の話はまだこれからも続くみたいだ。
ひとまず第一章が終わりです。この後、全く考えていないので続けるかも考え中。ご意見など頂けると助かります。
もしよろしければブクマや☆、いいね、感想いただけると幸いです




