第43話 理由を問いかける。
「は〜、顧問に部活辞めるっていうの憂鬱」
放課後、隣の席で溝口がため息を付いて独り言を呟いている。まあ、俺はその事実を知っているから聞かれても構わないのだろう。
「今日、顧問に伝えるのか?」
「部活終わりにね。練習前に伝えたら迷惑になると思うし」
意思は固いようだ。これ、俺が聞く前に話が終わってしまうかもしれない。聞くなら今か。
「溝口、もう部活行くのか?」
「そうだね。練習三十分後とかに始まっちゃうしストレッチだけでもしてるよ」
あかんやん。流石に部活の時間に溝口を留めておくわけにもいかないし。だが練習が始まるまで時間はあるみたいだしストレッチの時間を削ってもらうしかないか。
「五分だけ良いか?」
「どうせ、部活の事でしょ。もう話す事なんてないよ」
溝口からすればもう決めた事のようだし俺がどうこうできる訳じゃないのだろうか。
「お前の話が聞きたいだけなんだよ」
「……、ちょっとだけね……」
え、今の一瞬で心変わりしてくれたみたいだ。何故かは分からんがチャンス!!
「辞める理由は顧問や部長には話すんだよな」
「そりゃあね、ただ本当の事を言うつもりはない。絶対そんな理由でって馬鹿にされるから」
「いやいや、そこは本当の理由を聞かなきゃ皆納得できないだろ」
それはあまりに不誠実じゃないのか。一回所属したんだから辞めるにしても筋は通すべきだろう。
「うるさいなあ。フェンシング部じゃないんだから口出さないでよ」
「うぐっ」
それはあまりにご尤もな意見なので返答に困る。いくら友達とはいえ部外者が口出す案件じゃないよなあ。
「じゃあ、もう良い?準備しちゃいたいから」
「ああ……、分かった」
結局理由は教えてもらえず、ただ溝口の時間を奪ったに過ぎなかったのだ。溝口は荷物を持って教室から出ていってしまった。そして俺は机から動けなくなった。
「峻君、大丈夫ですか?」
「あっ、竹之内さん」
ボケっとしていたら竹之内さんがすぐ隣に来て心配そうに俺を見つめていた。いかん、竹之内さんに心配をかけさせてしまったな。
「立ち聞きするべきではないと思ったのですが、少し話が聞こえてしまいました」
そうか、じゃあもう竹之内さんに隠す理由もなくなった訳だ。
「そうなんだ。昼休みにその件で話がしたくて二人きりにして欲しかったんだ」
「まあ、溝口さんが私達に伝えていないことを勝手に教えてはいけませんものね」
竹之内さんは納得しているようだ。こうなったら竹之内さんにも伝えるか。
「ああ、最初は溝口の部活仲間から俺に理由を探って欲しいと言われたんだ。それで昼休みに溝口を連れ出したら部長さんが俺達の話を聞いちゃってね。それで部長さんも同じく理由を探るのと場合によっては止めてほしいって依頼をね」
「何でそんな事を頼まれるんです?」
「……、何か俺の事を溝口の彼氏か何かだと勘違いしているみたいで」
「ふ〜ん、そうですか」
竹之内さんはスンと表情が抜け落ちた。え、いきなり怖いんだけど。
「いや、溝口の隣にいることが多いからじゃないか?実際席が隣だから話しているだけなのにな」
「溝口さんの事をそう思っているのですか?」
竹之内さんは真剣な顔で俺に問いかける。
「い、いや勿論今は大事な友達だと思ってるさ。ただ隣にいることが多いのはそういう理由ってなだけで」
「すみません。少し意地悪を言ってしまいましたね」
竹之内さんは口を抑えて笑っている。う〜ん、笑い方もお上品。
「分かりました。では私からも伺ってみましょう」
「え、良いの?」
「ええ、私がその事を知っているのは教室で聞こえてしまったからという理由で溝口さんに聞けばいいだけですよね」
なるほど、俺に迷惑をかけないようについ聞いてしまった体にしてしまうのか。竹之内さんは俺にまで気を使って優しいな。
「ありがとう。竹之内さんは本当に優しいね」
「そ、それでもし上手く行きましたら私の頼みを聞いてくれませんか?」
竹之内さんの頼み?俺に頼むような事なんてあるか?俺が出来る事は竹之内さんは余裕で出来るだろうに。
「あの、成功した暁には私の頭を撫でてくれませんか?」
「はい?」
竹之内さんは一体何を言っているのだろう。俺が頭を撫でてもセクハラにしかならないんだけど。
「そ、それくらい良いではないですか」
「え、ああ、全然いいけどさ。逆に竹之内さんが嫌がるんじゃないかって」
俺がポカーンとしているのを見て竹之内さんが顔を真赤にして主張する。
「自分が嫌がる事を頼むわけないじゃないですか!!」
「そりゃそうだけどさ」
俺が頭を撫でてお礼になんてならないだろうに。そういうのってイケメンが女の子にするからご褒美になるだけで俺がやっても菌が頭につくだけだよ。
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