第42話 御剣先輩との約束
「と、とにかく部長に言われても意思は変わりませんから……」
溝口はそう言うと立ち上がって走り出してしまった。え、あいつ逃げた?
「ちょ、ちょっと待てよ、溝口」
「君、少し良いか? 」
溝口を追いかけようとしたところ、部長さんから話しかけられる。え、俺?
「俺に何か用ですか?」
「君、溝口の彼氏か?」
「違います!!」
俺は慌てて不定する。何故みんなそんな勘違いするんだ。男女二人きりでベンチで飯食べてた俺達が悪いのか?
「まあ、いい。君からも溝口が部活を辞めるのを止めてくれないだろうか?」
「俺がですか?」
正直、俺が溝口を止める理由が頼まれてるからでしか無い。流石に競技を辞めるのだったら勿体無いと思うんだろうけど別の場所でやるって言ってるしな。
「先程も言ったようにアイツの才能は本物だ。私とは比べ物にならん」
「そ、そうなんですか」
確か、この人ってフェンシング部の中でも最強、全国トップレベルとかなんとか溝口が話していた気がしたのにそんな人と比べても溝口の才能は比べ物にならないなんて本当なのだろうか。
「今は二年の年の差で私が勝っているだけにすぎん。アイツはいずれ日の丸を背負ってオリンピックに出るはずだ」
溝口ってそんなに凄い逸材なのか。なるほど、その才能を留めておきたいというのは至極当然なのかもしれない。だからこそ関わりの無い俺にまで頼っているのだ。
「でもアイツ自身が部活を辞めるって選択肢を取るなら止める理由が無いですよ。競技は続けるって言ってましたし」
「辞める理由が私達にあるのなら改善するつもりだ。しかし今は辞める理由すら分からない。それでは納得出来ない」
まあ、辞める正当な理由は教えて欲しいというのはそれは間違っていないと思う。それを隠したまま辞めるのは溝口の誠意が無いように見える。
「分かりました。アイツから辞めたい理由を聞いてきますよ。その理由によっては説得してみます」
「ああ、ありがとう。何かあったら私に連絡して欲しい」
「分かりました。あ、そういえば名前聞いてなかったですね」
「そうだったな。私は御剣優菜だ。よろしく」
「俺は戸松峻って言います」
そして御剣先輩はスマホをこちらに差し出してきた。メッセージアプリが開かれているので連絡先を登録しろという事かと理解して登録を済ませメッセージを送る。先輩も俺の連絡先を入れてくれたみたいだ。
「じゃあ、お互いに何かあれば連絡を取り合おう」
「分かりました」
こうして俺の数少ない連絡先に三年生の先輩が追加されたのだった。そして俺達は解散して教室へ戻った。すると竹之内さんがすぐさま俺の元へ走ってきた。
「あ、あの溝口さんが一人で帰ってきたので驚いて。何かあったのですか?」
「いや、まあ、特に無いよ」
アイツが御剣先輩から逃げただけで俺は何でもないしな。竹之内さんは何故か驚いている。
「私はてっきり溝口さんは戸松君の事を……」
「え、溝口が俺のことをなに?」
竹之内さんが一番気になる所で切ってしまったせいで話が見えてこない。竹之内さんはうーんと頭を悩ませているようだ。
「ではお二人は付き合った訳では無いんですよね?」
「ごめん。何の話?」
「え?」
「え?」
竹之内さんは困惑しているのか思い切り首を傾げ、俺もそれにつられて傾げる。このやり取りさっきもやったな。
「全然別の話をお二人はされたと」
「いや、全く話が見えてこないけど」
先ほどまで沈んでいた竹之内さんはぱあっと笑顔になった。
「そうなんですね。良かったです」
「なにがあ!?」
結局、溝口の辞めたい理由は聞けなかったし良くないです。そして竹之内さんは言いたいことを言ってルンルンで自分の席に戻っていった。俺はよくわからないまま自分の席に着く。すると隣に机に突っ伏して寝ている溝口がいた。
「お前、御剣先輩から逃げて平気なのかよ」
「やばいよ〜、って何。御剣先輩呼びになってんの」
溝口はバッと起き上がり俺を睨む。別にフェンシング部じゃなくても先輩呼びして良いだろ。実際先輩なんだし。
「まあ、ちょっと話したからな」
「何勝手に話してんのよ」
いや、何で勝手に話しちゃいけないんだよ。わざわざ溝口の許可を取らなきゃならんのか。
「何の話って、まあ私の話か……」
まあ、そりゃ溝口の話じゃなきゃ俺達が話をすることなんてあり得ないし。溝口はチラチラっと俺の事を睨んでくる。
「ふ〜ん。御剣先輩はなんて?」
「それは言えないな」
まあ、さっきのやり取りからして話した内容なんて大体分かるだろ。
「ふ〜ん、怪しい」
いや、全然分かってねえな。こりゃ。でも俺はこいつから部活を辞める理由くらいは聞かせてもらわなきゃならん。俺は本気で溝口に向き合うときが来たのかもしれん。
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