第2話 溝口の凄さとクラスメイトの怖さ
ハンバーガーショップでの出来事から次の日、足取り軽くルンルンと上機嫌で登校する。
「あ〜、昨日は良いことしたなあ」
あの出来事の後は、電車で地元まで帰ってきた。そして駅前のコンビニに立ち寄って肉まんを買って食べて帰った。学校から地元まで四十分程電車に乗るので空腹に耐えるのは厳しかったが名誉の勲章である。クラスのお姫様を手助けたのだから、自己肯定感が上がるというものだ。
教室に着いて自分の席へ向かう途中で横の席の溝口が机に突っ伏してるのが見えた。フェンシング部はどうやら朝練もあるらしくこっ酷くしごかれた後なのだろう。
「おはよう。溝口。朝練か?大変だな」
「あ、戸松〜、おはよ〜」
溝口はまだ疲れているのだろう、顔だけ上げてこちらを見つめる。朝から部活を頑張っているなんて自分には出来ない凄いことだ。そういう努力しているところは溝口を尊敬している。口には出さない、調子に乗りそうだし。
「聞いてよ〜。先輩超強くてボッコボコにされた〜」
「そりゃ、入ったばっかの新入生じゃ厳しいだろ」
しかもフェンシング部は確か、全国に行く程の強豪らしい。校舎にフェンシング部全国出場と書いた横断幕があったから知っている。
「う〜、やっぱりレギュラーは凄いよ。それ以外の先輩には勝てるんだけど」
「ん?ちょっと待て。他の先輩には勝てるのか?」
レギュラーに勝てないというのは分かる。だがその他の部員だってレギュラーじゃなくても全国に出るような学校だ。他の先輩たちだって相当強いはずだ。それに入学したばかりの溝口が勝つって本当なのだろうか。
「え、うん。私経験者だし。結構強いんだよ」
「結構強いってどれくらい?」
「全中個人三位」
「はい?」
え、こいつ中学生の時、全国三位なの?とんでもない怪物じゃないか。俺、そんな相手にタメ口聞いてたのか……。今までかな〜り失礼なことを言っていたので途端に恐ろしくなってきた。身体中から嫌な汗が出ているのは気の所為ではないだろう。
「あの……」
「うん?」
「今まで生意気言ってすいませんでしたああああああ」
俺は必死に頭を下げる。何が価値観が近いだ。とんでもない相手に親近感を覚えていただなんて恥ずかしすぎて穴に潜りたい。中学の時とはいえ、日本で三番目に凄い実力者相手に俺は軽々く接していた。
「え?ちょっと何々!?」
「そんな凄いお方だなんてつゆ知らず、今までタメ口とか生意気な事言ってましたよね」
「いや、卑屈になりすぎでしょ!!」
溝口は俺の肩を掴んで元の戸松に戻れ〜とぶんぶん前後に振る。あんまり上半身を揺らさないでくれ。気分が悪くなる。とそんなやり取りを一分程したらお互い、冷静さを取り戻した。
「すまん、驚きすぎて卑屈になっていた」
「いや、本当だよ。余計疲れた」
朝練の後に俺の奇行に付き合わされて溝口はヘトヘトになって机に突っ伏している。これは本当に申し訳ないことをした。
「いや、本当に悪かったよ」
「まあ、良いよ。でもさっきみたいなのもう無しね」
卑屈にならずに今まで通り接して欲しいという事か。まあ、同級生に気を使われたら気持ちが悪いよな。
「いや、でも本当にお前凄いんだな。見直したよ」
「もういいって。結局、全国一位には無れなかったんだし」
溝口は拗ねてそっぽを向いてしまう。全国一位には無れなかったか……。当然だけど、全国一位を狙ってたんだろう。だから自分に満足していない。心の中で本当にカッコいいなと思った。これ以上言うと喧嘩になりそうだから言わないでおくが。
「分かった。もうこの話はこれでおしまい。それでいいだろ」
「うん……」
機嫌が戻ってきたのかこちらに顔だけ向ける。こういう所、こいつ可愛いのが癪なんだよな。竹之内さんが可憐なお姫様タイプと言えば、こいつは明るいアイドルみたいな女子だ。これを口にしたら滅茶苦茶調子に乗るだろうなと思う。とそんなやり取りをしていたら教室がわっと賑やかになる。理由は見ずとも分かる。
「美帆様、おはようございます!!」
「竹之内様、おはようございます。」
竹之内さんが登校してきたのだ。毎日、クラスが賑やかになるからすぐ分かる。ていうか仮にも同級生相手に様付けってどうなってるんだ。俺と溝口は毎朝、その様子を見てうえ〜と毒づきながら眺めている。それでこの話をそこで終わる事が多いのだが、今日はそれだけでは終わらなかった。
竹之内さんがこちらへ向かって歩いてくる。うん?こっちの席に誰かいるのだろうか。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「へ」
まさかの俺に挨拶をしてきた。これ、昨日のハンバーガーショップの事だというのはすぐ分かった。だが問題はそれを皆の前でやったことだ。
「え、あいつ誰だ?」
「うちのお姫様と何話してんだよ」
「美帆様が男と会話を……。私は気絶します。後は任せました」
クラス中から怨嗟の声が響く。やばいやばいやばい。てか最後、誰か気絶したぞ。そっちを心配しろ。俺は助けを求めようと隣の溝口の顔を見ると驚きのあまりかびっくりした顔をしたまま固まっている。ちょっと面白いな。写真に撮って後で見せてやるか……、じゃない!!どうすんだ。慌てて竹之内さんの方を向く。
「お、おはようございます」
「はい、ちょっとお話よろしいですか?」
え、ここで話をするの?俺は周囲を目だけで見回すとクラスメイトの鬼のような顔がこちらに向けられている事が分かる。竹之内さんはちょうど背になっているから分からないのだろうが向かい合っている俺からは丸見えだ。まあ、睨んでいる相手、俺だろうしね。
「い、いや〜、また後で良いかな?」
「ああ、すみません。忙しかったですよね」
俺が断った瞬間、周囲の圧力が更に上がる。いや、お前らどうせ続けて話したら話したで不機嫌になるだろ!!とは言えないのでずっと苦笑いしている。竹之内は諦めて自分の席に戻っていった。その瞬間、クラスメイト達の顔は優しい笑顔に戻った。いや、怖いわ!!
「ね、ねえ、戸松」
「おっ、溝口復活したか」
「アンタ達、何かあったの?」
まずはこいつから説明しないといけないのか……とため息をついた。
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