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(テーブルに置いておいて、気づいたら〝プレゼントです。いつもありがとうございます〟と言って渡せばいいわよね)
ベンジャミンが何事もなく無事に帰ってきたら、いつものように温かいハーブティーを飲んで、今日買ってきた砂糖菓子を食べながら、話せたらいいなと思っていた時だった。
「え……?」
目の前に白くて小さな光がチラついた。
(なにこれ……?虫、じゃないだろうし)
暫く浮遊していた光をマティルダは目で追っていたが、窓から出て行ってしまう。
いつもベンジャミンがいない時に必ずマティルダの側にいたトニトルスはイグニスを逃がさないように監視中なので、相談もできない。
新種の魔獣かもしれないと考えを巡らせながら、マティルダは光が入ってこないように窓を閉めた。
すると、またどこからか同じ光が入ってくる。
マティルダは初めは光の玉を無視していたが、まるで誘い出すように部屋の中をウロウロしては窓の外に出ていく光を見ながら鬱陶しいと思っていた。
(必要以上に屋敷から出るなってベンジャミン様に言われているけど……なんだか〝こっちに来い〟って、誘われているような気がする)
再び窓を開けて注視してみるが辺りは暗くて何も見えない。
しかし目の前を虫のように飛ぶ光にさすがに苛立ったマティルダは光をパチンと両手で叩いてから捕まえて窓に捨てるというのを繰り返していた。
(もう……!しつこいなぁ)
次第に弱くなっていく光が弱々しく部屋に入ってくる。
もう捕まえるのも面倒になったマティルダは少し硬めのランチョンマットを丸めて窓の外に打ち返していた。
(打てたり、掴めたりするってことはやっぱり虫なのね!)
帰ったらベンジャミンに虫除けを置かないかと提案しようと心に決めて今度こそ窓を閉める。
光はやっと部屋に入ってこなくなったとホッと息を吐き出した瞬間に、屋敷の外にドンッと何かが落ちる音がして、マティルダは肩を揺らした。
「何……?」
扉を開けて身を乗り出すと、焦げ臭い匂いが辺りに漂っている。
暗闇の中、懸命に辺りを見回すといつもベンジャミンと過ごしているお気に入りの花畑が焦げて穴が空いていることに気づいて、側にあったランプ持って慌てて外へと駆け出した。
焼き爛れている花だったものに駆け寄ると、地面が大きく抉れている。
マティルダは黒くなった花びらを掴んだ。
「ひどい……!」
黒コゲになって穴が空いた地面を見てマティルダが口元を押さえていると、複数の足音がこちらに近づいてくる。
顔を上げても、ぼんやりとした影しか見えずランプを前に出す。
そして目の前にいる二人の人物を見て、マティルダは大きく目を見開いた。
「フフッ……みぃつけた」
「こんなところに隠れていたとは。確かにシエナの言った通り、普通では見つけられないな」
シエナとライボルトの唇が大きく歪んでいる。
ホワイトゴールドの髪は無理矢理まとめて草や枝が絡んでいる。
クタクタなワンピースを着ているシエナのピンクの瞳はマティルダを見て怪しげに細まっていた。
隣にいるライボルトは痩せ細り、目の下には深いクマが刻まれている。
金色の髪に緑色のメッシュの髪は乱れていて、以前の面影はない。
二人とも黒いローブを羽織っており、見るからに怪しく思えた。
「やっとあの屋敷から出てきたわ!この家の中には結界のようなものが張り巡らされていていて特定の人物しか通さないのよ」
「……!」
「ここで本当にマティルダが暮らしていたなんて……許せないわ」
「俺たちがこんな目にあっているのに、こんなとこでぬくぬくと暮らしやがって……っ!クソッ」




