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ベンジャミンによると、トニトルスは度々どこかにいなくなってしまう仲間を探しているらしく、こうして帰ってきては再び出かけてを繰り返しているらしい。
(鳥って、迷子になるのかしら……)
そしてベンジャミンがガルボルグ公爵邸にいない時は、度々マティルダの様子を見るように頼まれていたようで、初対面でトニトルスに『お人好しのどんくさい女』と言われてしまったのは記憶に新しい。
トニトルスとの会話は頭の中に声が響いている不思議な感覚だった。
しかしそれも一カ月も経てば慣れてしまう。
なかなかに辛口ではあるが、実は口が悪いだけの恥ずかしがり屋で、いつもマティルダを心配してくれる優しい鳥なのである。
初めは嫌われているかと思うくらい、頭を嘴で突かれまくっていた。
このままでは頭が禿げてしまいそうだと思っていた頃、トニトルスのご飯をあげてみたらどう?とベンジャミンに提案されて、あげてみるとトニトルスの態度が少し柔らかくなった。
そのご飯というのは『電気』であり、マティルダの使える雷魔法が主食になり得るというのだから驚きだった。
しかしそのお陰でトニトルスとは随分と仲良くなった気がしていた。
『ベンジャミンが〝僕がいない間に守ってほしい〟なんていうから、どんなか弱い女かと思ったら、こんなに強くてたくましい子を守る必要なんてないのにね』
「ベンジャミン様、少し過保護よね」
『あんたって、ある意味大物よね……』
「???」
『これだけされたら普通、助けてとか言いそうなものだし、アタシだってアンタが嫌がっていたら、さすがに止めようと思っていたけど……必要なさそうよね』
「どういうこと?」
『窮屈じゃないの?こんな生活』
「それはそうだけど……でもベンジャミン様にこれだけのことしてもらって、心配もかけたくないじゃない?」
『あー……はいはい。これ以上は耐えられないと思ったらちゃんとアタシに言いなさいよ』
「……?わかったわ!」
『そろそろちょうだい。お腹ペコペコなのよ』
マティルダは右手に思いきり力を込めバチバチと電気を出してトニトルスに与える。
最初はトニトルスに電撃を与えることに戸惑いはあったが、今はパワー全開だ。
毎日、城で魔力を放出していくことに慣れすぎていて、溜めっぱなしでいることにウズウズしていた。
トニトルスはそれを解消してくれるのとベンジャミンがいない間に話し相手になってくれる。
「ふぅ……スッキリした」
『アンタいつこの魔力量を身につけたのよ?普通の人間じゃないわよ』
「ベンジャミン様に色々と教わったからかしら」
『それだけじゃないわよ。毎日、何かしらの鍛錬をし続けないと無理よ。アンタただのお貴族様の令嬢でしょう?』
「えぇ、そうだけど。特に変わったことはしていないわ」
『おかしいわねぇ……』
トニトルスは羽をパタパタさせながら答えた。
マティルダは体を伸ばしながら気合いを入れていた。
「さて、今日も頑張りましょう!」
料理を終えて、部屋の掃除が終わり、部屋の真ん中にある柔らかいソファーに寝転びながら一息ついていた。
ベンジャミンと過ごすのも楽しいが、こうして一人でまったりとするのもやはり良い。
のんびりしていると、いつの間にか居眠りしていたようだ。
頭を撫でられるような感覚にマティルダはゆっくりと目を開いた。
「あれ……?ベンジャミン、様」
「ただいま、マティルダ」
ベンジャミンは黒いウサギの仮面をとって、いつものシャツにパンツというラフな格好に着替えている。
目の前でパープルグレイの髪がサラリと流れた。




