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24/24

24 終わり良ければ総て良し、って本当かよ

 実際、ずかしがるどころではなく、先ほどのハングライダーが三輪車だったのかと思うほどの急加速で、本当に振り落とされそうな爆走ばくそうだった。

「そ、そんなに急がなくても、いいだろう!」

「だって、日が暮れる前に戻りたいでしょう?」

 リフト乗り場のあるアゴラに着いた時には、足がガクガクだった。

「ふーっ、やっと着いたのか」

「さあ、荒川さんたちがお待ちかねよ。ちょっとエアバイクを母船に戻してくるから、先に行っててちょうだい」

「あ、ああ」

 おれはフラつく足で、ヨロヨロとリフト乗り場を目指した。

 リフトの横で待っていたのは荒川氏だけでなく、髭男ひげおとこともう一人、見知らぬ白衣の男だった。白衣の男は医者のようで、ちょうど荒川氏に注射をしているところだった。

「……さあ、荒川さん。緩和剤かんわざいを打ちましたので、じきにしびれは取れますよ」

「それはありがたい。正直、入院を覚悟しておりましたよ」

 医者にれいを言いながら、荒川氏はすぐにおれに気付いたようだ。

「おお、中野くん、無事じゃったか。説明の途中で飛んで行ってしまったので、どうしたものかと思っておるところへ、この人たちが来てくれたんじゃ」

「良かったです。おれも、まあ、ちょっと乱暴な運転でしたが、暗くなる前に助けてもらいましたよ。あっ、そうだ、すみません。実は、パラシュートを使ったんですが……」

「ああ、羽根のことなら心配いらんよ。すでにオランチュラたちが発見し、ここに運んで来る途中じゃと伝声器で連絡があった」

「安心しました。それで、黒田さんもご無事ですか?」

「先に治療を終え、パーティー会場に行っとるよ」

 そこへ女が戻って来た。

 と、驚いたことに、髭男が女に向かって敬礼したのである。

「小柳捜査官そうさかん、ご報告いたします! 海賊船を拿捕だほし、一味すべてを逮捕たいほいたしました! なお、民間人の治療のため、柘植つげ医務官いむかんにもご同行いただきました!」

 捜査官とか医務官とか、いったい何の話だろう。

「ご苦労さま、岸川警部補けいぶほ。こちらも彼のおかげで、無事に原住民を保護できたわ」

 たまらず、おれは質問をぶつけた。

「ちょっと待ってくれ。あんたたちは、いったい何者なんだ?」

 女はニコリと笑った。

「もう言ってもいいわね。惑星連合警察機構スターポールギャラクシーメンよ。潜入せんにゅう捜査中で身分を明かせなかったの。わたしたちはずっとあの『パパ・ロビンソン』こと村上忠次郎をマークしていたのよ。彼だけを逮捕するのなら、話は簡単だったけど、仲間を一網打尽いちもうだじんにするため泳がせる必要があったの。結果として、あなたたちに迷惑がかかってしまって、本当にごめんなさいね」

「そうだったのか」

 女は何か思い出したように、クスリと笑った。

「最初は、あなたのことを海賊の仲間じゃないかと疑っていたのよ」

「え、おれを?」

「ええ。わざとオーバーに臆病おくびょうなフリをしているのかと思ったわ」

 こらえ切れないように、アハハと笑い出してしまった。ヒドイ女だ。

 その時、髭男が女に声をかけた。

「小柳捜査官、民間人の治療が終わったとのことですので、今から帰艦きかんいたしますが」

「先に行ってちょうだい。わたしはご挨拶あいさつしたい方がいるから、フェアウェルパーティーに顔を出してから戻ります。後の処理は頼んだわよ」


 ホテルグリーンシャトーの大広間にはツアーのメンバーだけでなく、なぜかドラード人たちも大勢集まっていた。

 入口近くに立っていた黒田夫人が、戸惑っているおれにそのワケを教えてくれた。

「モフモフさんの婚約の話を聞いて、せっかくだからみんなでお祝いしようということになったのよ。みんな賛成してくれたんだけど、あなたはどう?」

「もちろん大賛成です。あ、それから、ご友人をお連れしましたよ」

「えっ、誰かしら? あらまあ、荒川くんじゃない。何年ぶりかしらね」

 荒川氏は鼻だけでなく、顔中真っ赤になった。

「最後に同窓会で会ってから、もう二十年になるかのう」

「ふふふ、相変あいかわらずおジイさん口調くちょうなのね」

 そこへ黒田氏もやって来た。

「ふん。今はもう、本当にじいさんだよ」

 三人が笑っているところへ、黒レザーの女、いや、スターポールの小柳捜査官が来た。

「ご歓談中かんだんちゅうに失礼いたします。黒田絹代きぬよ先生でいらっしゃいますね?」

「あらあら。どうしたの。もう、先生と呼ばれるような堅苦かたくるしい身分ではないけれど」

「スターポール捜査一等官、小柳元子もとこと申します。わたくしの直属ちょくぞくの上司である山下長官から常々ご高名こうめいうかがっておりました。潜入捜査中で身分を明かせず、大変失礼いたしました。お会いできて光栄です」

「まあ、あなた山下くんの部下なのね。彼は元気にしてるかしら?」

「はい。今でも陣頭指揮じんとうしきっております」

 それを聞いて、黒田夫人はうれしそうに微笑ほほえんだ。

「彼らしいわ。よろしく伝えてね」

「はい。本部に戻りましたら、先生は相変わらずお美しかったと伝えます。帰艦の時間が迫っておりますので、これにて失礼します」

 小柳捜査官が足早に立ち去ると、黒田夫人の教え子たちの話題で、かつての同級生三人の会話が大いにはずんだ。

 楽しそうに話す三人から少し離れ、おれは料理を見て回った。もちろん、ドングリを主体にしたものだが、今回は野菜や果物もかなり使っているようだ。

「少し味見してみませんか?」

 振り向くと、リボンのドラード人がいた。その声に聞き覚えがある。

「もしかして、きみは……」

「はい、今朝ほど中野さまにしかられた者です」

「そうか。それはすまなかった」

 おれが素直に頭を下げると、そのドラード人は小さな手を振った。

「いえいえ、もう気になさらないでください。それより、姉に素敵すてきなプレゼントをいただき、本当にありがとうございました。申し遅れましたが、モフモフの妹のメイメイと申します」

「へえ、そうだったのか」

 なるほど。それで普段冷静なモフモフが、あの時、妙に感情的になっていたのか。

「でも、パーティーが始まる前に味見しちゃっていいのかい?」

「シェフ特製の、あ、いえ、わたくしの婚約者が心を込めて作りました。どうぞ食べてみてください」

 おれは手近のカナッペを食べてみた。

「うん、うまいよ」

「ありがとうございます」

 うれしそうに笑っているメイメイに、ちょっとイジワルな質問をしてみた。

「ねえ、今より豊かな暮らしができるようになったら、きみはどんなものが欲しい?」

 メイメイは一瞬キョトンとしていたが、すぐに笑顔になった。

「わたくしたちは今でも充分豊かですよ。ドングリは豊富にありますし、気候はいつもおだやかです。着るものの心配をしなくても、保温と防水にすぐれた体毛たいもうに恵まれています。そして、何よりも、やさしい家族や仲間たちがいます」

 自信たっぷりにそう答えられ、ちょっと苦笑したところで、ポンと肩をたたかれた。荒川氏だった。

「わしらは所詮しょせん、楽園から追放されたアダムとイヴの子孫じゃよ。ただし、本当にゴールドラッシュが訪れた時、この楽園がどうなってしまうのか、それだけが気がかりじゃのう」

「そうですね」

「わしは生涯を独身で通したから、森の精霊と同じく、マムスターたちをわが子同様に思っておる。わしにできる限りのことはしてやりたいんじゃよ」

 気が付くと、黒田夫妻も近くに来ていた。

「ふん。子供というのは決して親の思い通りにはならんものさ。今にして思えば、息子はこの親父おやじに何かをさとらせようと今回の旅行をプレゼントしたのだろうが、こっちだってそうそう思い通りになんか、なってやらんぞ」

 黒田氏のおかしな宣言に、夫人が笑い出した。

「あらあら、相変わらず意地いじりね。親子でよく似てること。でも、そのおかげで荒川さんに会えて良かったじゃない。こうなったら、何とか三人で力を合わせ、モフモフさんたちが幸せに暮らせるように協力してあげましょうよ」

「ふん、まあな」

「そうじゃな」

 おれは三人の邪魔じゃまをしないよう、そっとテーブルの方に行きかけたが、ふと、思いついて自分のリュックを開け、あるものを取り出してメイメイのところに戻った。

「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

「え、何でしょう?」

 おれの頼みを聞いて、メイメイは楽しそうに笑った。

「わかりました。仲間にも協力してもらいます」

 やがてパーティーが始まり、サプライズでケーキ入刀にゅうとうなどもあって大いに盛り上がった。

 パーティーの最後、お礼の挨拶あいさつをするモフモフとイサクに向かって、おれの合図でメイメイたち数名から盛大に紙吹雪かみふぶきが浴びせられた。

 いつの間にかおれの横に立っていた黒田夫人が、ちょっと心配そうな顔でおれにたずねた。

「あれは大事な書類じゃなかったの?」

「いえ、いいんです。異星間比較文明論いせいかんひかくぶんめいろんのレポートの下書きですが、全部書き直すことにしたので」

「あら、どんなことを書くのかしら」

「内容はまだこれからです。でも、タイトルだけは、もう決まりました」

「まあ、何というの?」

「ちょっと長いんですけど、『福引で宇宙旅行が当たったのはいいけど、おかげでヒドイ目にあった』ですよ」(了)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。いずれ続編を書きたいと思っておりますので、その時には、またよろしくお願いします。

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