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19 いったいどんだけあるんだよ

「いや、オランチュラであることは間違いないんじゃが、うーん、何と言ったらよいのかのう」

 再び、森の精霊が答えた。

《われらから説明しよう……》


 ……われらが肉体を改造してから、すでに一万年以上が過ぎた。われらの寿命は数百年とはいえ、すでに十数世代目となる。

 ところが、進化のコースをじ曲げてしまったむくいなのか、世代を重ねるごとにハッキリと退化のきざしが現れて来たのだ。知能のレベルは低下する一方で、もはや単体では簡単な日常会話をすることさえ覚束おぼつかない。

 こうして話しているのは、言わば、われらの集合意識なのだ。

 当然のことながら、高度な知識や技術も失われて久しい。先ほどからの話だが、元素転換機げんそてんかんきさえあれば簡単に解決できただろう……


《……が、残念ながら今のわれらにその力はないのだ》

 荒川氏も吐息交といきまじりにうなずいている。

「わしも遺跡を調べてみたが、機械も文書も何も残っておらなんだ。今となってはもう、金を元の元素に戻す方法はないんじゃよ」

 黒田氏が皮肉な笑みを浮かべた。

「ふん。せっかくあるお宝をむざむざと反故ほごにすることはあるまい。上手に使ってやればいいではないか」

「それも考えてみたさ。じゃが、あまりに急激な変化は望ましくない。マムスターたちには、もう少し時間が必要じゃ。黒田よ、おまえは地球政府の科学技術局にいたことがあるじゃろう。後輩たちから何か聞いておらんか。『アルキメデスの壁』が越えられるのは、いつ頃の予想かね?」

 黒田氏は肩をすくめた。

「科学技術局にいたのはもう随分昔の話さ。事業を始める前にめたからな。だが、うわさは聞いているよ。まあ、おそらく、あと二三年だろうな」

 荒川氏が天をあおいだ。

「うーむ。早いのう」

 森の精霊も黙り込んでしまった。

 重苦しい沈黙を破ったのは、意外にも黒田氏だった。

「方法はひとつだな」

「ほう。どんな方法じゃね」

 わらにもすがるようにを乗り出す荒川氏に、黒田氏は苦笑しつつ説明した。

「窓口を一本にしぼるのさ。とりあえず、すべての金を国有化する。その上で輸出を一社に独占させる。独占させて輸出量を抑制よくせいするのだ。なあに、大量の金がいきなり市場にあふれることなど、どの惑星だって歓迎しないはずだ。今の手持ちの金が暴落するだけだからな。それでも長期的には金の価格は下がるだろうが、下がることによって、今まで金を使えなかった分野にもどしどし使えるようになれば、経済的な波及はきゅう効果も期待できるだろう」

「なるほど。しかし、わしらの思惑おもわくどおりに動いてくれる会社があるじゃろうか?」

 黒田氏はニヤリと笑った。

「ふん。あるわけがない。これから作るのさ」

「何じゃと?」

 疑わしそうな表情の荒川氏に、黒田氏は笑いながら手を振った。

「おっと、誤解せんでくれよ。今更いまさらこの歳でもうけようなどと思ってはおらん。普通に商売していいなら、黒田星商にやらせるさ。目的は輸出量を一定のレベルに制限することだから、小さな会社でいい。スタッフは黒田星商から信用できる人間を何人か出向しゅっこうさせよう。代表は、わがはいでもおまえでもいいが、まあ、わがはいの方が業界的には知名度があるだろう。経営が軌道にさえ乗れば、後はこの惑星の住民にまかせるさ。だが、早急に独占契約だけはしておいた方がいい。その線でドラード政府を説得してみてくれ。その後の問題は、宇宙海賊などの非合法組織への防犯対策だが、それはまた別に考えればいい」

 宇宙海賊と聞いて、おれは、ふと、黒レザーの女と髭男の顔が頭に浮かんだ。いや、まさか。

 一方、黒田氏の意見をしばらく考えていた荒川氏は、悩ましげに頷いた。

「ふーむ。それしかあるまいの。森の精霊はどう思うかね?」

《われらは黒子くろこ。判断はマムスターたちに任せる。ところで、地球からの客人たちに一つお願いがある。われらの正体をマムスターたちには話さないで欲しい。はるかな過去とはいえ、彼らを食用にしていたことを知られたくない。今では、彼らこそわれらの子孫なのだ》

 おれが頷くのを確かめてから、黒田氏が答えた。

「ああ、約束するよ。しかし、これぞまさに、恐れ入谷いりや鬼子母神きしもじん(=元は人間の子供をらう鬼女きじょだったが、釈迦しゃかさとされ子供の守護神となったという)だな」


 おれは、あまりの急展開に呆然ぼうぜんとしていたが、ホテルに戻るため御座所を出てから、荒川氏に尋ねてみた。

金塚きんづかって、この惑星にいくつぐらいあるんですか?」

 が、荒川氏は意外な返事をした。

「ほう。きみはまだ事態の本質がわかっておらんようじゃな。わしが作業用に使っている強化プラスチック製の肥後守ひごのかみを貸してやるから、その辺を掘ってみなさい」

「はあ」

 おれは小さな折りたたみナイフのようなものを渡された。

 軽い。一見、幼児用のオモチャのように見えるが、刃先はさきは鋭い。下手に触ると指を切りそうだ。

 よくわからぬまま、それで地面を掘ってみた。十センチも掘らないうちに、カツンと手応えがあり、キラキラした輝きが見えた。

 ギョッとしているおれに、荒川氏が説明してくれた。

「この惑星の巨木はみな樹齢数千年、中には一万年を越えるものもある。そのほとんどは中心部が空洞になっており、そこを埋めているのは、実は、大部分金なのじゃ。金塚として見えているのは、氷山の一角にすぎん」

「な、何ですって」

 おれは腰を抜かしそうになった。見渡すかぎりの鬱蒼うっそうとした森の巨木は、中にギッシリ黄金が詰まっているというのだ。まさに天文学的な量である。

「その肥後守はきみにあげよう。プラスチック製じゃが結構丈夫なものじゃよ。さて、先ほどの話じゃが、わしも黒田の案しかないと思う。この森の金が一気に輸出されたりしたら、金には路傍ろぼうの石ほどの価値もなくなってしまう。ドラードの森が動けば、バーナムの森(=シェークスピアの戯曲ぎきょく『マクベス』に出てくる森。この森が動くと王国がほろぶという)どころの騒ぎではない。様々な惑星の経済に大混乱を巻き起こすことになる。じゃが、一社独占に対する反発も当然起こるじゃろうな」

「ふん。それは絹代に相談するさ。今の星連には元塾生が何人かいたはずだ。星連から、各惑星の政府に圧力をかけてもらおう」

「おお、そうか。かつての『黒田絹代政経塾』じゃな。それでは、わしが絹代さんに直接お願いしよう。久しぶりに学園のマドンナにお会いしたいしのう」

 うーむ、黒田夫人も只者ただものではなかったのか。

「ふん。今は元気だけが取りの婆さんに過ぎん。まあ、フェアウェルパーティーをやるらしいから、おまえも来るがいいさ」

「ほう。するとホテルグリーンシャトーじゃな。ならば近道があるぞ。わしの後をついて来てくれ」

 イヤな予感がする。そして、その予感はすぐに的中した。

「まだ実験段階じゃが、風車の力で動かすリフトを作ってみた。乗り降りに多少コツが要るが、乗っている間は何もしなくていい。楽チンじゃぞ」

 それはスキー場などにあるリフトをしたものだが、きわめて貧弱ひんじゃくなつくりに見える。

「見かけはイマイチじゃが、丈夫に作ってある。まったく心配はいらんよ」

 心配ないとわれても、コワイものはコワイのだ。

 リフトをささえる支柱の強度を確認しながら、黒田氏はリフトが通って行くコースを見下ろした。

「ふん。だが、こいつは中野くんには、ちと荷が重いかもしれんな」

 今日はとことん厄日やくびらしい。おれがためらっているのを見て、荒川氏の方から声をかけられた。

「もしかして、きみは高所恐怖症かね。わしといっしょじゃな」

「ええっ、だって空を飛んでいたじゃないですか」

 驚いて聞き返すと、荒川氏はニコリと笑った。

「いやいや、わしはとても臆病おくびょうな人間じゃよ。まあ、だからこそ今まで大きなケガをせずにいられた、とも言えるがね。そもそも、臆病であるということは、想像力が豊かであるということの裏返しなんじゃ。危険を想像できるからこそ怖いんじゃよ。おそらく、『臆病』というのは人類が生き残る上で大事な能力じゃったと思うよ。しかし、中野くん、人間にはもっと偉大な能力がある。それは何じゃと思う?」

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