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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
2章 金欠猫には旅をさせよ~魅惑の海旅編~

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39.アトノ島の不思議な漁

 ペチカちゃんも『木工』は持っていなかった。しかし『壊れた投網とあみ』は『裁縫』で修復可能なアイテムであるらしく、玉網たもあみにするのは無理でも、そのまま投網にして使えないかと考えたらしい。


「私には力不足でも、ピピちゃんなら引けるんじゃないかと思いまして!」


 ペチカちゃんの足元ではマッスルミミットのピピちゃんが後ろ足で立ち上がり、素晴らしい胸筋を見せつけている。

 …ピピちゃん、もうミミットというよりミニカンガルーにしか見えないんだよな…。何気にほぼ二足歩行で跳ねるんだよこの子。普通のミミットは四つ足で跳ねるのに。

 たしかにピピちゃんなら投網漁も出来る気がしてきたにゃん…?



 船は無事、何事もなくアトノ島に到着した。まだまだ日は高く、夜までには時間がありそう。

 ぞろぞろと船から降りる乗客の中に、プレイヤーの姿はない。ポーツの船着き場には他プレイヤーの姿があったから、船の中からすでにインスタンスに別れていたのかも。マイルームには帰れたから、まだダンジョンな訳ではないようだが。

 フラグを踏んですでにイベントが動いてるとか? いや、離れ小島のサイズが小さいから、そういうものなのか。


 島の中にきたらもう魚が空を飛んでるのかと思ったけど、そういうわけでもないようだ。暗くなってから始まるのかな。

 ペチカちゃんは『壊れた投網』の修繕をするというので、猫は島の中をブラブラすることにした。船の中では呼べなかったルイも呼んで、いざ散策!


 といってもアトノ島は本当に小さな島で、すぐに一周出来てしまった。

 件の祠もとても小さなものだ。

 遠巻きに見ていると漁師さんたちがお参りしていく。作法は普通に神像巡礼と変わらないようだ。どうやら祠には神さまが祀られているらしい。みんな参ってるのだし、邪神系ということはないはず。

 漁師さんたちに紛れてささっとお参り、お祈りアクション。

 ぽわぽわぽわぽわ、と光った。どうやら全員、ルイとレト、それにロニまで含めて加護がもらえたらしい。

 ……『ひとえつぎの神』とな??


 首を傾げたが、『召喚獣・召喚妖精・従魔・精霊・製作物・家畜との絆値はんちにボーナス(微)』だったのでありがたい加護だった。

 やっぱり精霊ともなんらかの絆値があるんだなあ。住処の居心地とはまた別なんだろうなあ…。資料をくれ。ギルドはどこにあるんだ。ハーレム野郎はさっさと口を割ってほしい。

 猫? 猫はちゃんと準備が整ったら開示する用意があるもの。丸投げしたのでティアラさんたち硝子連合がやってくれるんだけどね!

 さて、ペチカちゃんにもお参りを勧めておこうっと。


 『マジックセンス』をかけつつ、採取したりしている内に、空はだんだんと色を変え始めた。空が広いといろいろな色が混じって見える。ぽっと現れる真ん丸の青い月。

 おっと、月が出てきた。今回は『ムーンキャッチ』を地面に並べるわけにはいかないので、奥の手(?)として、レトとルイのスカーフをそれぞれ『ムーンキャッチ』のアクセサリーに変更した。

 あとは…ルイは荷鞍とツールバッグか。ツールバッグにはそれほど入ってなかったので、荷鞍に積み込み直す。うん、大丈夫そう。これでもう1個アクセサリーを着けておけるな。ペンダントと、チャーム。チャームは鞍に着けた。

 レトはポーションポケットとがま口ポシェット…うーん、はい。両方使うから外せないな。レトもペンダントだ。なんかすごく喜んでるのでちょっと罪悪感。

 従魔や召喚獣の専用アクセサリー以外は装備者のサイズに合わせて変化するので、レトがしているペンダントは猫にとっては豆粒サイズだ。

 これで『ムーンキャッチ』は3つ表に出せることになる。ロニをマイルームにしまって…というのも考えたけど、精霊がいるとどうなるのかも気になるので、このままいくことに。



 アトノ島は平坦で、離れ小島にしては珍しく山っぽいものがない。祠を中心に鎮守の森っぽいものがあるので、さすがに全方位の水平線が見渡せるなんてことはないが、それにしたって開放感のある風景だ。270度くらいパノラマオーシャンビュー。

 アトノ島は元々この世界にはなく、ときおり蜃気楼のように現れる幽世かくりよの島だったが、異界の扉が開いたことでこの世界にもちゃっかり島が現れたとか、なんとか。ファンタジー不思議地学、国造り神話みたいだな。

 だからか、鎮守の森の木々は大陸では見たことがない謎の木ばかりだ。白樺に似た白い木々で、グネグネと分かれた枝に、柳のような枝葉が重たく垂れ下がり、黄色や白の花が咲いている。花はかなり高いところで咲いているからか、特に匂いはない。本でも見たことがない木だ。幽世の木ってことなのだろうか?

 『伐採』…とちょっと頭を過ったけど、さすがに鎮守の森をるような罰当たりな真似はできない。

 祠に集まり始めていた漁師さんにこの木は何かと聞いてみると「夜になったらわかる」と意味深に微笑まれた。


「初めて来たんだけど、『トッピー』を捕まえたらどこに入れるとか、決まりはあるにゃん?」

「捕まえたらひとまずバケツか魚籠に入れて、後で集めて祠に捧げるよ。くれぐれも持ち帰ろうとはしてくれるなよ!」

「わかってるにゃん~、猫だって海蛇に食べられたくはないにゃん」

「×××さまだって食べたくはないだろうよ!」


 漁師はワハハと笑っていた。聞き取れないところがあったのは神の御名ってやつだろうか。


 神の祝福を得ると、その神の保護下に入ったとして神の御名を授かる。いつでも神さま直通ライン…というわけではないが、声が届きやすくなるってやつだ。神官になるには神の祝福と御名を得るのが必須だとか。

 そんなわけでこの世界の神はざっくりと、幸運神とか豊穣神みたいに役割(?)で呼ばれている。

 地元民だと神様の名前は口伝とかで知ってるんだろうか、それとも今の漁師は神官だったのか。こっちの世界の海も危険がいっぱいなようだし、神官だとしても不思議はないな。



 あちこちに篝火が焚かれはじめ、火の粉の爆ぜる音がさざ波のに混ざる。

 空が紫から濃ピンク、橙、薄桃、再び紫へと色を変えている内に、ペチカちゃんも投網の修繕を終え、祠を参ってポワポワ光っていた。


 そしてすっかり世界が青く染まり、夜の帳が引かれ始めると、どこからかパシャン、ちゃぽん、と水音がし始める。

 ポーン、と耳鳴りに似た遠い音で、ゆらりと空気が揺れる。その波紋がはっきりと視認できた。ミルククラウンのように、落ちてくる滴、跳ねる水の王冠。


 わあ。

 なんだこれ、魚が空から落ちてくるんだけど!?


 頭上を仰げば青い真ん丸の月。まるでそこから放り込まれてくるみたいに、小さな魚がちゃぽん、パシャンと落とされて泳いでいく、空中を。篝火に反射して、オレンジに輝く銀の腹。

 だいたい3~5mないくらいの高さに波紋が広がる。界が重なって、幽世の海が侵食しているのだろう。溺れたり濡れたりはしないけど、なぜか泡が口から出る不思議。

 トッピーというからトビウオだと思っていたのに、ヒレを伸ばして飛んだりしてないので違うっぽい。というか半透明で空中を泳いでる以外は、普通に海にいる魚のように見える。


 ソーラィ!と掛け声と共に漁師さんたちの投網が打たれ、魚が絡み取られていく。

 あ、もう始まってるのか。ぼんやりしてる場合じゃない。

 猫も玉網たもあみを取り出して、魚目掛けて振る。

 ……入らないだと!?


「タモ振る場所がよくないんだよ、もっと追い込んでから振れ! 森へ誘い込むんだ!」

「わかったにゃん~!」


 地元漁師のアドバイスを受けて、鎮守の森の方へポクポクてってけと移動。

 その間、ペチカちゃん…というかマッスルミミットのピピちゃんは素晴らしいフォームで投網を打ち、漁師から喝采を浴びていた。


 森へ続く道はところどころ篝火が焚かれているので、真っ暗ではない。月光が青く降りてきてからは、ロニの入った『白き月光のブローチ』がぼんやり光る。ルイやレトにつけた『ムーンキャッチ』のアクセサリーもうっすら光ってる?

 それでも足取りに不安がないほど明るいわけではないので、玉網に『光源』をかけて簡易松明にしてみた。ピッカピカよ。


 鎮守の森に入ってみれば、この木がなにかはわかった。

 珊瑚だこれ!

 日が暮れる前には白かった木々には赤の幻影が重なり、ピンク色の珊瑚となって風に、波に揺れている。葉っぱじゃなくて藻?だったようだし、花はもしかしなくてもヒトデのような気がしますね…なんかうねうね蠢いてるし。

 まるで巨大なアクアリウムに紛れ込んだみたいだ。おもしろーい!


 それにしても、ルイはまったく動じずにポクポク歩いてくれるのでありがたい。逆にレトは大興奮でルイの頭から首、私の肩に頭にと暴れまわっている。足して二で割ると……いやいや、これでちょうどいいな。うん。ルイが暴れたら猫ではおさえられないから困る。


 空飛ぶ魚トッピーが珊瑚の間を潜っていくのを待ち構えて玉網を振ると、手応えがあった。


「獲れたにゃ!」


 成果は10匹ほど。これを『ヤノ蔦の魚籠』の中に入れる。…いれていいんだよね?

 ドキドキしてたが、ペチカちゃんからPT会話が入った。


『魚、どうやらインベントリには入らないみたいです。なので私は祠のそばで、漁師さんたちとピピちゃんと一緒に投網漁に励むことにします』


 おや、そういう仕組みか。

 もしなるべく生きたまま返さないといけないとかだと、バケツが必要になるもんね。ペチカちゃんも釣り初心者だろうし持っていなかったのだろう。もちろん猫もバケツは持っていない。

 魚籠を作ってもらえたのは幸運だった。


『わかったにゃん~! 魚籠には入れられるみたいだから、猫はなるべく遠くの魚を獲れるように頑張ってみるにゃん』

『よろしくお願いします! 漁師さんいわく、祠の周囲から魚は流れてくるらしくて、なるべくここで多く捕まえるぞ!て感じみたいですね』


 玉網について教えてくれたような少年漁師とか、LV低め力弱めの漁師は玉網や釣竿漁で、LV高めパワーある漁師は投網って感じなのかね?


 ペチカちゃんは、ピピちゃんのためにパワー系のバフを覚えてるようなので、周囲を支援出来ているようだ。よきかな~。

 近くを通ったらバフかけてくれた。ありがたや。


 ルイの機動力と、レトが魚の群れを教えてくれるのでかなり効率よく漁が出来そうだ。ルイはともかく、レトはどういうことなの??

 しかし実際、レトの指す方へ移動するとうまく行くので、レトがなにかを察知してるのは間違いなさそうなんだよね。

 マルモは斥候タイプっていうし、何かが開花しつつあるのかもしれない。



評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やったねランちゃん これでもっと白ラコラと仲良くなれるよ!
[良い点] 製作物にも絆値が……!ロボットとかゴーレム的な奴を期待してしまいますねー。 巨大アクアリウムの中をウロウロするのも楽しそう。
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] ロニじゃなくてレトが反応するんですね〜
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