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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
6章 猫はいつでも風まかせ

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30.農家のダンジョン

 聞いていた通り、マレビトダンジョンの入り口は洞窟だった。さすがに街壁の外にある。ちょっとぽこりと大きな岩があって、そこから地下へ降りていくタイプ。いかにもなオブジェクトっぽくて面白い。

 入り口にはルイネアで白ラコラ農家仲間でもあるアルミハクさんが待っていてくれていた。


「猫さんー! お久しぶり!」

「アルミハクさんお久しぶりにゃん~!」


 挨拶をしたあとは、ルイの手綱を取って中へ案内してくれる。ぐいぐい来ますな。

 洞窟だと思ったけど、ダンジョンだけあって中は明るい。どんどん明るくなっていく細い道を進む。


「明るいにゃんね」

「マレビトダンジョンの設定で明るさは調節できるんだよ。うちは作物育ててるなら、光量は最大にしてる。もうちょっと先行くと、外の日光と同じくらいになるかな」

「すごいにゃん~」


 区画ごとに細かく設定できるらしく、実験のためにいろいろやってみたけど、今はほとんどが一定の光量になっているそうだ。


「猫さんに見せたいのはトレント部屋だよ。聞いていた通り、トレントと白ラコラが仲良しで楽しみなんだ」

「あ、そうだ。『マンドラコラの種』が育つには、『トレントの落葉』が必要みたいにゃんよ」

「にゃん!? また新情報を!?」

「マンドラコラがいる、学園の温室のトレントに聞いたからたぶん間違いないと思うにゃん」

「えっ、トレントとお話ししてる……?」

「正確にいうと話したのは猫じゃなくて従魔のトレントにゃんね」

「従魔と話せるのも普通じゃないのよ」


 たしかに『魔物の心』は秘密の書庫で手に入れるレアスキルですな。


「吹き出しが出たりするだけだから、後は勘にゃん」

「勘かぁ……」


 かくかくしかじかにゃん、と『トレントの落葉』について話す。アルミハクさんは目を輝かせていた。


「魔力のある土はトレントとダンジョンでなんとかなってるから、うちでも育ちそうだって話してたんだ。隠しアイテムがキーになってたとはね」

「育つのが待ち遠しいにゃんね~」

「ね~」


 猫の畑より「魔力のある土」の条件を満たしているから、きっと猫より早くマンドラコラが出てくることだろう。

 もらった種は何マンドラコラかわからないから、楽しみだ。


「ここがうちのトレント部屋だよ。メープルトレントが出るんだ」

「飼育してるにゃ?」

「ううん、『牧畜』でも『使役』でもない、野生のトレント。ダンジョンマスターとその客は攻撃されないって設定だよ」

「そんなのがあるにゃんね」


 案内してもらったのは森を模したような区画で、明るいこともあって外と大差ない。マレビトダンジョンはマイルームと同じようなシステムで出来ていて、壁紙が設定できるんだって。ここも『森の壁紙』なので、森に見えるというわけ。


「壁紙は購入するにゃ?」

「DPで購入だね。壁紙揃えるのに結構、かかっちゃった」

「大変にゃん~」


 ちなみに通常で『洞窟の壁紙』なので、壁紙を変更すると『洞窟の壁紙』がアイテムとして手に入るらしい。これはマイルームの家具屋では扱っていないアイテムなので、高値で売れたそうな。


「洞窟部屋も、苔とか日陰栽培のために一部残してるよ」

「いろいろやってるにゃん」

「人数が多いだけあって、いろいろなことやってるね」


 神官農家の集まりなので自前でどんどこDP稼いできては注ぎ込む、節操のない育ち方をしているそうだ。区画を各自ひとりで増やして、ひとりで育成してるので、他所の区画で何をしているのか、全部把握してるのはノーカさんくらいだろうって。管理者は大変そうだなあ。


「いや俺も全部は把握してませんよ」

「ノーカさんお久しぶりにゃ」

「お久しぶりです」


 噂をすれば影。ちょうどトレント部屋まで来てくれたノーカさんと合流。


「にゃん? 猫に見せたいものって、ノーカさんもトレントだったにゃん?」

「俺はトレントというか、アイテムがあったのでお任せしようかと思ってたんですよ」

「アイテムにゃん?」

「はい、『岩蜜』っていうんですけど」

「にゃあ、猫、そのアイテムを求めてホーリーファームへ来たにゃんよ!」

「それはちょうどよかったですね?」

「助かるにゃん~!」


 『岩蜜』、元々はメープルトレントのレアドロップなんだそうだ。砕けば『メープルシュガー』、溶かせば『メープルシロップ』になる。しかしレアなのに加工先がノーマルアイテムに戻るだけという、ちょっと微妙なアイテムなのだとか。


「元々、トレントを傷つけては回復させてを繰り返して倒すと『樹脂塊』が取れるっていう話があるんです」

「にゃあ」


 パイントレントなら『松脂』が取れるし、その他のトレントでも、香料の材料になる樹脂が取れたりするらしい。しかしまだまだ検証の進んでいないドロップ方法であり、単純にレアドロップだったのか、それともデバフドロップの一種だったのかは明らかじゃないそう。

 ノーカさんたちは『メープルシロップ』を得るために樹皮を傷つけて採取していたため、トレントに『ヒール』をかけることが多かった。すると『メープルシロップ』の代わりに『岩蜜』が取れるようになってきたんだって。

 『岩蜜』を見せてもらうと、予想よりはるかに大きかった。なんと直径30cmくらいある。


「こ、これが生きてるメープルトレントから採れるにゃん!?」

「びっくりしますよね」


 いやほんとびっくりなサイズ感!

 傷つけっぱなしで『ヒール』しないというのも、ヒーラーたるもの据わりが悪いし、かといって『岩蜜』は使うのにひと手間かかって面倒だし、と悩んでいたところ、ホーリーファームの販売所で買い取ってくれることに気づいたそう。売り先が学園都市だということで、『料理』でも『調薬』でも微妙なら、もしかして『錬金術』では? と猫を思い出してくれたらしい。ありがたいことである。


「たぶん『調薬』のレシピで、『ボムキャンディ』ていうのがあるにゃん。それの材料だって言われて来たにゃんよ~」

「『ボムキャンディ』、蟻退治用の置き罠のやつですね」

「そうにゃん! だから買えるならありがたいにゃん~」

「ダンジョン倉庫に貯まってますんで、持っていってくれたらいいですよ」

「作ったらお裾分けするにゃんね~」

「ありがとうございます」


 ノーカさんから『岩蜜』を50個もらった。お、重いなこれ! そして50個は多い!


「こんなにもらっちゃっていいにゃ?」

「トレントというか、魔物をダンジョンに出す最小単位が50なんですよね」


 50体のメープルトレントがいるので、1日か2日で50個くらい取れるのだという。こうなってくるとダンジョンって、産業だなあ!

 ちなみにホーリーファームの外にある森にもメープルトレントはいて、そこからも稀に『岩蜜』は取れていたそう。やはり幻のレアアイテムを安定供給出来るようになったタイプか。


「相性だよねえ」


 トレントを撫でつつ、アルミハクさんが言う。

 たしかに、マレビトダンジョンで作物を育てようという発想は農家ならではだし、そこで樹木に『ヒール』をかけようとするのは神官だし、トレントと農家神官の相性がよかったんだろうね。

 レアドロップをお安く簡単に手に入れられたとあって、猫としてはホクホクである。


「ノーカ、猫さんがトレントに『タイムパス』かけると農業用アイテム出るって」

「お、早速やってみますか」


 ノーカさんがメープルトレントに『タイムパス』を掛けると、甘い匂いのする落ち葉が大量に得られた。

 マンドラコラの個体は多くないからとそれも少し分けてくれた。これはまたあとでマンドラコラにかけてあげようっと。お布団が充実していく。


 トレント部屋以外のダンジョン区画も見学。彼らのマレビトダンジョンは完全に農業用なので、どこもかしこも植物が生い茂っていて植物園みたいだ。

 温室のように温度を変更できたり、光の具合を調節できたり、壁紙で環境を整えたりと、出来ることが多くて飽きないんだって。

 それにしても、ダンジョンなのに平和な空間である。

 マレビトダンジョンスレで見た内容だと、宝箱を設置したり、BOSSやmobを設置して独占的に倒せたり、といろいろな攻略法が試されていたので、面白い。


「やろうと思えば攻略用のダンジョンを作ったりというのも出来るんでしょうけど、今のところは皆興味なさそうですね」

「私たちだけじゃ攻略難しいし、あんまり他に人を入れたくないしね」


 ホーリーファームのマレビトダンジョンは、農家神官の農業試験場として機能していて、それで満足なんだとか。

 ぐるっと回るだけでも大変な広さがあって、さすが攻略組のDP注ぎ込んでるダンジョンではあった。いろいろやりたいように出来るのが、面白いのかもね。


 猫もいつかはダンジョンを手に入れるつもりでいたけど、こういうの見ちゃうとあんまりいい使い途思いつかなくてちょっと尻込みしちゃう。たぶんソロダンジョンだし、それじゃあまり育てられないだろう。

 マレビトダンジョンを手に入れることはあきらめて、方々でDPばらまいてしまう方が案外いいかもしれない。

 いや、そもそも手に入れる目処が立ってるわけでもないので、すべては取らぬ狸の皮算用なのだけども!




 ホーリーファームのマレビトダンジョンにはまたお邪魔することをお約束して、『リターン』で学園都市に戻ってきた。

 早速、『ボムキャンディ』の屋台へ。


「おおっ、無事に『岩蜜』を手にいれてきてくれたんだね。運がいい!」

「にゃあ、レアアイテムとは聞いてなかったにゃんよ~」

「ハハハ、言ってなかったっけ? でも、大事なレシピを分けるのだから、そのくらいは求めてもいいだろう?」


 それはたしかに。

 まあ猫はレアではなく手に入ったので、いいんだけどね!

 求められたのは『岩蜜』1個なので全然余裕だ。ノーカさんたちに感謝である。


「この堅さ、色艶、まさに『岩蜜』。持ってきてくれてありがとう! お礼に『ボムキャンディ』の基本を教えてあげよう」


 そういって屋台の店主は『ボムキャンディ』を作り始める。


 ……あれ、『白砂糖』を別に用意してる?

 飴自体は普通に作るのか。


「ここで入れるのが『魔法玉』だ!」

「にゃん!?」


 意外すぎる材料が出てきたな!?


評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。


今日12/15は我が友人鈴埜さんの『精霊樹の落とし子と飾り紐』1巻の発売日。各書店にて発売中です!

https://book1.adouzi.eu.org/n8303io/

更に記念番外編も更新されてます。

よろしくお願いしまーす!

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― 新着の感想 ―
数日前に読み始めてぶっ通しで読んでしまいましたにゃん 面白くてするする読めて時間が溶けますにゃん
このメープルな落ち葉でシュガーラコラになったりするのだろうか。
更新ありがとうございますにゃあん まさかの魔法玉!調薬と錬金術もちのネコちゃんだから教えてもらえるレシピですにゃあ ノーカさんたち農業神官組が農業組合みたいになってますにゃ(いや、スレの時からそう…
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