後日談 シェリー宅での晩餐会
お久しぶりです。読みに来てくれてありがとうございます。
時系列的には、エピローグからしばらく経ったお話です。
シェリーが結婚する前です。
ガタガタと雨上がりの小道を馬車が進んで行く。今日は、シェリーからフェレーラ侯爵家でのディナーに、アーベルと二人で招待されたのだ。
「アーベル様、雨が上がって良かったですね」
ファビオラは、馬車の窓の外を見ながら、隣に座るアーベルに声をかける。
「ああ、そうだな」
アーベルは、ファビオラ以外には見せない顔で微笑む。ファビオラには、もう当たり前のアーベルの表情だけど彼のこんな柔らかい表情を知る者は少ない。
「私、アーベル様とベルント殿下が同じ年だって知りませんでした」
この事実を知ってから、ずっとアーベル様に聞いてみたいと思っていた。ベルント殿下とアーベルが同じ年で、一緒に学園に通っていた時代があったのかもしれないと思ったら、二人はどんな関係だったのか気になってしまったのだ。
「言ってなかったか? まあ、特に言う必要もなかったしな」
アーベルは、淡々とした声で話すのでベルント殿下のことをどう思っているのか表情から察することはできない。
「あのっ。今日って誘っても大丈夫でしたか?」
ファビオラは、おずおずと気まずそうに訊ねる。良く考えてみたら、婚約者の友人カップルと一緒に食事をするなんて、アーベルにとってみたら迷惑だったかもしれないと不安が過ったのだ。
「そんな顔しなくても、別に嫌いな訳じゃない。お互い、慣れ合うような性格じゃないから必要以上に交流しないだけだ。それに子供の頃は、話し相手として家族ぐるみで交流があったんだ」
「えっ? そうなんですか? ベルント殿下と? 意外です……」
ファビオラは、思ってもいなかった話に大きな声を出してしまう。幼い頃のアーベルとベルント殿下を思い浮かべるが全然想像できない。
「まあ、同じ年の侯爵家の息子だからな、王太子には丁度良かったんだろ」
アーベルは、さほど興味のないようだった。それでもファビオラは、幼い頃から交流があることを知れて少しホッとする。犬猿の仲とかだったらどうしようかと思ったけれど、そうではなさそうだ。
「ファビオラは、学園からの仲なんだろ? フェレーラ令嬢とは」
「そうなんです。学園の二年の時に一緒のクラスになって、仲良くさせていただいて。ちょっとおこがましいのですが……。今では一番のお友達です……。だから、アーベル様にも紹介したくて。一度、第二騎士団の公開練習の時に紹介はしましたが、あの時は一瞬でしたし……。あの……こういうの迷惑だったらごめんなさい」
ファビオラにとっては、好きな人を好きな人に紹介したいだけだったのだけど……。アーベルには、そんなことは関係ないわけで……。
「迷惑なんかじゃない。ファビオラの大切な友人に、紹介されるのは悪くないぞ」
アーベルが、表情を崩して優しく微笑む。その笑顔にファビオラはクラクラしてしまう。さっきまでの不安は吹っ飛んだし、こんなに素敵な人が、自分の婚約者だなんて夢なのかもしれないと改めて思う。
カタンッと馬車がスピードを落として静かに止まった。話に夢中になっていたからか、あっという間にフェレーラ侯爵邸についてしまった。アーベルのエスコートで馬車を降りると、四人でどんなディナーになるのか楽しみになってくる。フェレーラ侯爵家の立派な玄関を眺めながら、胸の鼓動が段々と早くなってくるのを感じていた。
執事の案内で通された食事会の部屋は、少人数での食事には勿体ないくらい広くて贅沢な設えが施されていた。シェリーのお屋敷には、もう何度も来ているけれどこのお部屋は初めてだった。
「本日は、お招きいただきありがとうございます。アーベル様と二人で招待されて嬉しいです」
「フェレーラ嬢、この度はご招待いただき感謝する。お二人とこのような機会を得られ光栄だ」
部屋に通されたファビオラは、シェリーとベルント殿下に挨拶をする。続けて、アーベルも二人に丁寧な挨拶をした。アーベルの畏まった態度を初めて見たファビオラは、彼の貴重な一面を見られて得した気分だ。
「来てくれて嬉しいわ、ファビー。ハーディング様も、どうぞいつも通りで」
シェリーが、ファビオラとアーベルを見てニコリと微笑む。その隣に座っていた、ベルント殿下も口を開いた。
「二人とも来てくれてありがとう。アーベル、シェリーの言う通り普通でいい」
「なら、遠慮なく。ベルントと話すのも久しぶりだな」
アーベル様とベルント殿下の物言いが、突然親しい間柄のような雰囲気になりファビオラは驚く。
「まあ、お二人は親しい間柄だったのですか?」
ファビオラと同じように思ったシェリーも驚いている。
「いや、親しいというか、幼馴染的なやつだ……」
ベルント殿下は、やや気まずそうに眼を彷徨わせながらシェリーの質問に答えている。ファビオラは、いつもと違うベルント殿下の態度になんだかおかしくて口元が緩んでしまう。
「そうなのですか? 知りませんでした」
シェリーが目を輝かせて、ベルント殿下に色々と聞きたそうな顔を向けている。そこで、隅に控えていた執事が「コホンッ」と大きく咳をした。シェリーと執事が何やらアイコンタクトをとると、シェリーがファビオラたちの方に向き直る。
「やだ、ごめんなさい。二人とも席について。今日は、ファビオラの好きな物をたくさん作らせたのよ。まずはディナーにしましょう」
いつもは落ち着きのあるシェリーが、今日は何だかウキウキしているようでとても可愛い。ベルント殿下と二人で並んで座っているシェリーを見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。それに、シェリーから見たファビオラたちもそんな風に映っているのかもと思ったら、ちょっとくすぐったい気持ちになった。
食事が次から次ぎへと運ばれてきて、その内容がシェリーの言ったようにファビオラの好きなものばかりだ。ファビオラは、目を輝かせて会話そっちのけで食べ進めてしまう。ハタと気が付き、食べ進める手を止めて周りを見回すと、ファビオラ以外の三人が微笑ましい顔でこちらを見ていた。
ファビオラは、急に恥ずかしくなってみるみるうちに顔が赤くなる。
「やだっ、一人で食べてて恥ずかしい……」
ファビオラは、フォークとナイフを置いて顔を覆う。それを見たシェリーが、申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんなさい。ファビーが余りにも幸せそうに食べるものだから、ついつい見入ってしまたのよ」
「そうだぞ、気にするな。ただ単に、たくさん食べる令嬢が珍しかっただけだ。良いことだと思うぞ、俺は」
ベルント殿下は、いつものように余計なことを言って悪びれもなくうんうんと頷いている。
「ベルント、それはフォローなのか? 馬鹿にしてないか?」
ファビオラの横に座るアーベルが、ベルント殿下の物言いが面白くなかったのか不機嫌な声で指摘をした。
「なっ、なんでそうなるんだよ? 俺は、素直にたくさん食べることはいいことだって言っているだけだろう」
「お前が言うと、馬鹿にしているように聞こえるんだよ。ファビオラは、幸せそうに食べている姿が可愛いんだから、余計なことを言うな」
ベルント殿下とアーベルが、ファビオラのことで言い合いを初めてしまった。しかも、変な方向に話が向かっていて、横で聞いているファビオラは消えてしまいたくなる。
(ベルント殿下はいつものことだから気にしないけれど、アーベル様は一体二人の前で何を言っているの……恥ずかしすぎる……)
「アッアーベル様、あっあの……」
ファビオラがアタフタしていると、前に座るシェリーから笑いが起こる。
「ふっふふふ。ベルント様もハーディング様も、面白いですわ。ふふふ」
シェリーが、肩を震わせながらとても楽しそうに笑うから、ファビオラは目をパチクリさせる。シェリーがこんなに楽しそうに笑うなんてはじめてだ。
「シェリー、そんな変なことは言ってないと思うんだが……」
ベルント殿下がポツリと気まずげに呟く。
「違うの。ベルント様も、普通に話せる方がいらっしゃったのねって思って。それに、ハーディング様の意外な一面も見れてしまったし。ファビオラが幸せそうで良かった」
そう言ってシェリーが、ニコリと嬉しそうに微笑む。ファビオラは、さっきのアーベルの言葉を思い出して顔の熱が戻ってくる。
「もう、シェリー恥ずかしいよ」
ファビオラが、シェリーの顔を見て冷めやらぬ顔の熱を持て余しながら呟く。
「良いじゃない。わたくし、ハーディング様のことは遠くでお見掛けするくらいだったので、本当にファビーのこと大切にしてくれるのかしら? って、心配だったの……。でも、そんなの余計な心配だったわ。ハーディング様、ファビーのことよろしくお願いしますね」
シェリーが、柔らかな表情を滲ませてアーベルに対して述べた。
「ああ、言われずとも大丈夫だが……。フェレーラ嬢、約束する。ファビオラのことは誰よりも幸せにする」
アーベルが、突然真剣な表情になってシェリーに宣言するものだから、隣で聞いていたファビオラは嬉し過ぎてじわっと目頭が熱くなる。でも、せっかくの楽しい場で泣くなんてとぐっと堪える。そして、今度はファビオラが、ベルント殿下と目を合わせた。
「ベルント殿下、もう言ったかもしれませんが、改めてもう一度。シェリーを悲しませるようなことは、絶対にしないで下さいね。もし何かあったら、シェリーは私が預かりますから! シェリー、何かあったらいつでもうちに来ていいからね!」
「なっ、ファビオラに言われるまでもない! シェリーのことは、絶対に悲しませないと誓う。国で一番幸せにする」
ベルント殿下のはっきりとした宣言が聞けて、ファビオラは凄く安心する。
「嬉しいですわ、ベルント様。ファビーもありがとう。安心して王太子妃になれるわ。何かあったら、本当に頼ってしまうから」
シェリーが、茶目っ気たっぷりにふふふと笑う。
「シェリー……。頼る必要がないようにするから……」
「もちろん、信じていますわ」
二人の掛け合いを聞きながら、アーベル様が真顔で呟く。
「ベルント、迎えに来る時は早い方がいいぞ」
「アーベル! 煩い! そんなことは一生ない!」
ベルント殿下が、ぶっきらぼうに言い切りアーベルをにらんでいる。そんな二人を見て、ファビオラとシェリーは笑い出す。フェレーラ邸の食事室から、終始楽しそうな話声が聞こえる。楽し気な雰囲気が屋敷全体を包み、真っ暗な夜を明るく照らしていた。
この度、「お色気担当の姉と、庇護欲担当の妹に挟まれた私」
ノベル3巻が発売されることになりました。
その発売記念で後日談を書きました。
本日(2026/1/15)発売です。完全書き下しとなっております。
よろしくお願いします。(電子書籍のみの発売です)
下に書籍の表紙を貼っておきます。見てね☆





