11:第二の殺人
「おい、いつまで寝てるつもりだ。そろそろ起きろ」
頭にこんこんと何か固いものが当たる。
声に応じて目を開けると、目の前に刀の鞘が見えた。
どうやら鞘の先端で頭を小突いて起こしたらしい。
意外と痛かったので、次からは普通に揺り起こしてもらえると助かるなと思いつつ、軽く挨拶を返す。
「おはようございます。今何時ですか?」
「正確な時刻は知らん。だがもうここに来てから三日目の朝だ。腹が減ったからもう少し食料をもらいに行ってこい。ついでに女王たちが魔法陣作成をさぼっているようなら早くやるよう急かしてこい」
「ええ、それぐらい自分でやれば……」
「俺が行ったら無用な争いが起きるだろ。場合によってはその場で殺し合いが始まりかねない。分かったらグズグズしてないでさっさと行け」
「はあ、分かりましたよ」
眠い目をこすりつつ、寝袋からはい出る。
仮にハジメさんの発言が嘘で今が深夜だったらどうしよう。もしかしてエルフさんを殺した犯人と間違われて、殺されちゃったりしないだろうか?
ぼんやりそんなことを考えつつ、扉を開けてリビングへ。
今が朝なのかどうかはともかく、リビングには女王様とピクシーの二人がいた。
取り敢えず女王様に魔法陣作成を急かすなんて無理難題をしなくて済んだことにほっとしつつ、膝をついて挨拶を行う――つもりが、ピクシーの甲高い声によって遮られた。
「また現れたわね! 昨日はあれ以降大人しくしてるから、ようやく自分の迷惑さに気づいて自粛してるかと思ったのに。一日経ったらもう全部忘れたのかしら!」
やっぱり一日経ってたのか。こんなことで一々ハジメさんを疑うなんて僕も気が立っているようだ。
さて――
「安心してください。僕もピクシーさんの顔を見たくてリビングに来たわけじゃないですから。ハジメさんが昨日貰った分の食料を全て食べてしまったので、新しく貰いに行こうとしただけです。そうじゃなかったら僕も口うるさいだけのちびっこ妖精なんて見たくありませんし」
「は、はあ! この私のことをちびっこ妖精ですって! 妖精界で知らぬものはないとされる美貌と気高さを兼ね備えた私に対して、よくそんな無礼な発言ができるわね! これだから学も教養もない下民は嫌いなのよ」
「いやいや、そんな学も教養もない下民とこれだけ楽しく会話が弾むんですから、ピクシーさんも僕たちと同レベルだと思いますよ。自信持ってください」
「な、この私があんたみたいな低俗な人間と同レベルなわけないでしょ! そもそも自信持ってくださいってどういう意味よ! あんたなんかと一緒にされたら――って何私のことスルーして歩き出してんのよ!」
段々ピクシーと会話するのも楽しくなってきたけど、彼女に付き合ってるといつになっても話が終わらない。楽しみは後に取っておいて、先に用事を済ませてしまおう。
僕の周りを飛び回って抗議を続けるピクシーを連れて、トロルさんがいる右部屋の前に。「失礼します」
一声かけて扉を開けて部屋へと入る。
が、部屋へ一歩足を踏み入れたところで、僕の動きは固定された。
予想していた光景とは全く違うもの。
トロルさんの死体?
いや、違う。
体中が青紫色に変色した、トロルさんよりもずっと小柄な人間が、苦悶の表情を浮かべてベッドに仰向けに倒れていた。
「誰だ、あれ……」
呆然と、僕は呟く。さっきまでやかましく叫んでいたピクシーも、僕の隣で呆気に取られて黙っている。
「どう、なされたのですか?」
こちらの異常事態に気づいたのか、ピクシーが静かになったのを不思議に思ったのか、女王様が気遣わしげな声と共に歩み寄ってくる。
来てはいけない。そう言うべきだと分かっていても、何が起こっているのか全く理解できていない頭は、その言葉を発させてくれない。
何も言えずに黙っていると、ついに女王様が隣に並び、中を覗き込んでしまった。「ひぐっ」と、女王様の口から声が漏れ出る。
そして次の瞬間、「トロル!」と叫びながら謎の死体に駆け寄っていった。
トロル? 頭の中で?マークが飛び交う。
あの青紫色に変色した死体がトロルさん? いや、そんなわけはない。そこにある死体なんかよりも、トロルさんははるかに大きかった。
「APTS4869……」
いつの間にか僕の肩に止まっていたピクシーが、震える声で呟いた。
「それって一体――」
「なんか叫び声みたいなのが聞こえた気がするんだがどうした――ってこの匂い、まさか!」
左部屋の扉が開き、ウルフさんが顔を出す。そして、すぐに異臭を嗅ぎ取ったのか、僕らのもとまで全力で走ってきた。
ベッドの上にある死体を直視した途端、ウルフは苛立つように頭を掻きむしりながら言った。
「おいおい冗談だろ。エルフに続いてトロルまで殺されただと。しかもこの毒って『シャーロック』じゃねぇか」
「シャーロック?」
またよく分からない名前が出てきた。それより、ウルフさんまであの死体をトロルさんだと言うのか。どこからどう見たってトロルさんよりも小さいのに。
霧がかかったようなぼんやりとした思考の中、堪え切れず疑問が口をついて出た。
「あの死体ってトロルさんなんですか? 違いますよね? トロルさんは巨人だしあんなに小さいわけないんだから」
「APTS4869――通称『シャーロック』と言われる毒薬は、飲んだ対象の体を小さくする効果が付与されている」
いつの間にやってきたのか、いつも以上に鋭い目をしたホークさんが答えた。
「とはいえ俺にはあの症状からそれだと推測したに過ぎないが。やはりシャーロックが原因か、ウルフ」
「間違いねぇ。この匂いはシャーロックだよ。くそ! よりによってトロルをこの薬で殺すなんて……」
「トロルさんが死んだ……」
ようやく現実へと頭が追いついてくる。
あそこにある死体はトロルさん。こんなところで自殺する理由なんて何もないから、彼もまた殺された。どんな武器で攻撃しようとも傷一つつかない彼は、毒殺された。
「僕、ハジメさんを呼んできますね」
この場から一度離れたくて、僕は返答も聞かずに体を反転させる。しかし、肩を掴まれ、すぐさま部屋へと押し込まれた。
「侍なら俺が呼んでくる。お前はこの部屋で待ってろ」
「いや、僕が……」
呼び止める間もなく扉は閉まり、僕は再びトロルさんの死体と直面させられた。
昨日までの逞しく強靭な肉体は見る影もなく、まるでしなびた野菜のように全身が小さく萎んでいる。肌の色も血色のいい肌色だったのが、今では明らかに生を感じさせない青紫色。
正直、これがトロルさんだなんて今でも信じられない。しかし、死体の顔を見てみると確かにトロルさんの面影が残っていた。
この死体がトロルさんであると完全に判定が下ったからか、急激に吐き気が催される。
やっぱり一度部屋の外に出ようと振り返った途端、扉が開きハジメさんとホークさんがやってきた。二人が部屋の中に入ると、すぐさま扉が閉められる。どうにも外に出る機会を逃した気分になり、僕は道を譲るようにして部屋の隅に寄った。
「成る程。確かに死体があるな。しかしこの大きさはどういう事だ? こいつは俺達とここまで逃げて来たあの巨人の死体であってるのか」
まるで空気を読まない、飄々とした調子でハジメさんが尋ねる。
「信じたくないが、間違いねぇよ。こいつの匂いはトロルと同じものだし、顔だってトロルと同じなんだ。それにこの部屋に漂ってる匂いの中に『シャーロック』っていう毒薬と同じ匂いがしてやがる。もう否定のしようがねえよ」
それに答えるウルフさんの声はとても悔し気だ。
だがそれも当然だろう。たった二晩で、二人もの盟友を失うことになったのだから。
「シャーロックか。名前だけは聞いたことがあるな。飲めばほぼ確実に死ぬとされる即効性の毒薬。さらに飲んだ対象は副作用として体が小さくなるとか。その毒を盛られたのなら、確かにこの大きさなのも納得か」
…………。
しばらくの間、誰も言葉を発さない沈黙の時間が訪れる。
誰もが、何を話していいのか、何を話すべきなのか迷っているのだ。それもそのはず、今回の事件は、最有力候補の容疑者であるハジメさんにはほぼ不可能な犯罪なのだから。
結局、沈黙を真っ先に破ったのはハジメさんだった。
「誰一人として俺を糾弾しに来ないということは、おそらく分かってはいるんだろうな。巨人トロルを殺した殺人者は、俺ではなくお前らの中の誰かだという事実を」
女王様と護衛団の皆は、その言葉を噛み締めるように手のひらを強く握りしめるだけで、誰も反論しようとしない。それを見たハジメさんは、そのまま話を続けた。
「トロルを含めてお前らは皆、俺のことを少なからず疑っていたはずだ。だからもし俺がお前らの部屋を訪ねようとも、そこで警戒することなく歓迎するなんてことは起こりえなかった。さらに言うなら、俺がお前らに何か渡そうとしても、それを受け取りましてや食べる・飲むなんて絶対にしなかったはずだ。つまり、俺がトロルに『シャーロック』を呑ませることは不可能であり、犯人ではないことを示している」
そう。この犯行はトロルさんが気を許している相手にしか行えない殺害方法。部外者である僕やハジメさんでは成立させることが困難な方法。
「……さて、このまま沈黙されてても困るんだがな。エルフが死んだ時と同様、俺たちのやることに変わりはない。一刻も早く転移魔法陣を完成させ、ワノ国へ移動する。それだけだ」
そう言ってハジメさんは部屋を出ようとする。
「ちょっと待ってください」
その背中に対し、僕は立ち止まるよう呼び掛けた。
「僕はハジメさんの事を疑っているわけじゃありませんが、今回の犯行はハジメさんでも可能だと思うんです」
周りにいる人たちが驚いて僕を見つめる。ハジメさんも歩みを止めて、僕の方を振り返った。
「唐突にどうした。俺がどうやって巨人を毒殺させることができると?」
「トロルさんが持ってきたリュックの中に、元から毒入りの食べ物や飲み物を忍び込ませておけばいいんですよ。トロルさんのリュックは巨大ですし、何か一つくらいものを入れておくくらいなら容易にできると思います」
「だとしたら、俺の目的はなんだ。ここにいる奴らを無差別に殺そうとしていたとでも言いたいのか? 仮にそうだったとして、もしその毒入りの食料だか飲み物だかを狼君が見つけてたらどうする。奴の鼻ならすぐ気づいただろうし、その時点で俺に疑いがかかり、ワノ国へ女王様を連れていくことも難しくなっただろう。わざわざそんな危険を冒してまで毒物を入れて置くメリットはなんだ?」
流れるような反論。やはりハジメさんはかなり頭がいい。でも、今この場でその反論はあまり意味がないけど。
「メリットなんて知りませんよ。でも、ハジメさんにもトロルさんを毒殺する方法がある、ということは知っておいた方がいいことですよね。そもそも動機を気にしたらここにいる全員に、エルフさんとトロルさんを殺す理由なんてないはずなんですから」
「ふん、大した屁理屈だ。まあ俺が疑わしいと思うのなら疑っていればいい。それで後々後悔することになるのはお前自身だからな」
そう言い捨てると、今度こそハジメさんは扉を開け、玄関部屋へと戻っていった。
ハジメさんがいなくなっても、すぐに動き出そうとする人は誰もいなかった。今僕がハジメさん犯人説を打ち立てたとはいえ、今回の事件に関しては女王様や護衛団の中に犯人がいる可能性の方が高い。
仲間を信じたい気持ちもあるんだろうけど、二人も殺されたとなるとそうも言ってられない。このままハジメさんが犯人だと考えて生活していると、転移魔法陣が完成する前に自分も殺されてしまうかもしれないのだから。
と、この状況でもぎりぎり許されるだろう話題を思いつき、僕は口を開いた。
「ところでピクシーさん、あとどれくらいで転移魔法陣は完成するんですか? この館に来てから今日で三日目なわけですし、そろそろ完成したりは?」
「……明後日の夜には完成するわ。もしエルフがいたなら明日には完成してたでしょうけど……」
「そ、それに関してはお役に立てませんけど、宜しくお願いします」
しまった、余計場を暗くさせてしまうとは。というか、トロルさんの死体がある中で明るく振る舞うなんて無理な話か。まずは死体をどうするかについて話し合わないと。
再度僕はピクシーさんに言った。
「確かエルフさんの死体はピクシーさんの影の中に保管したんですよね。トロルさんもこのままベッドに放置しておくのは可哀そうですし、一旦影の中に入れたらどうでしょうか?」
口では何も答えないながらもピクシーは死体のそばへと寄って行った。そして、トロルさんの死体の真下に一平方メートル位の丸い影を作り出した。すると、底なし沼に飲まれるようにして、死体が影の中にずぶずぶと沈んでいく。
もし生きたままこの影の中に飲み込まれたら怖いなと思いつつ、ボーっとその様子を眺める。沈み始めてからおよそ十秒後、死体は完全に影の中に埋没。それと同時に巨大な丸い影も縮小し、ピクシーの足元へと帰って行った。
「………………」
そして再びの沈黙。
と、ホークさんが突然、
「俺は部屋に戻る」
と言い、羽をはためかせて浮かびながら左部屋に戻り始めた。それに釣られるようにして、「では私も転移魔法陣の作成に――」、「じゃあ俺も部屋に――」とそれぞれ立ち去って行った。
残されたのは僕とピクシーの二人。
トロルの死にショックを受けているのか、それとも護衛団の中に犯人がいるかもしれないことにショックを受けたのか、いつものやかましさは鳴りを潜めじっと黙っている。
ここはそっとしておいた方がいいかなと思い、僕も部屋を出ようとする。
「あんたは気楽でいいわよね」
大きなため息とともに、独り言というには大きすぎる呟きが聞こえた。
どうやら気遣いは不要だったらしい。まさかこの状況で喧嘩を売ってくるとは。
僕はあえて振り返らず、彼女に背を向けたまま言った。
「全然全く気楽じゃないんですけどね。皆さんと違って、僕には最初から信頼できる相手が一人もいなかったわけですし」
「何よ。ようやく条件が同じになったとでも言いたいわけ? 仲間二人が殺されて傷心の女性に言う言葉じゃないわね」
「ピクシーさんの事を気遣っていられるほど強い人間ではないので。次は自分が殺されるんじゃないかと不安で一杯なんです。この中では僕が一番弱いでしょうからね」
「なに余計な心配してんのよ。あんたが一番弱いのは事実でしょうけど、殺される心配なんてしなくていいんじゃない。だってあんたを殺したってそれこそ何の利益もないんだから」
「……言われてみれば、それもそうか」
「そうよ。あんたは殺されないわ」
うん? なぜか僕が励まされてる?
いやいや、これは僕を貶すついでみたいなものだろう。まさか慰めようとしているわけがない。それに僕を殺しても利益はないけど、同時に不利益はないわけだし、やっぱり殺されない理由にはならないだろ。
まあここでそれをほじくり返すほどダメ人間ではない。それより、せっかく会話が続いているのだから、今のうちにいくつか疑問を聞いてしまおう。
「せっかくだからいくつか質問してもいい?」
「嫌よ」
「シャーロックっていう毒薬なんだけど、あれってそんなに有名な毒なの? 確かピクシーもあの死体を見てすぐにその名前を呼んだよね。正式名称の方だったけど」
「嫌って言ったのに……。しかも私のことを呼び捨てにするとか何様のつもりよ。あんた絶対後で後悔することになるわよ」
「後でがあることを期待してるよ。それでどうなの?」
ピクシーはもう一度大きくため息をつく。さっきよりも近くから聞こえたのは気のせいだろうか。彼女とは真逆の方向を向いているから分からない。
「有名と言えば有名よ。あんたみたいな下っ端兵士は知らないかもしれないけど、うちの国は種族によって死刑のされ方が異なるのよ」
「死刑……。なんか一気に話変わった気がするんだけど。それと平民代表の僕でもそれぐらいのことは知ってるよ。各種族ごとに弱点となるものが違うから、それにあった死刑の方法を取ってるんでしょ。トロルさんみたいに体の頑丈な巨人なんかは毒殺だったよね」
「そうよ、下民の癖に意外と知ってるじゃない。まあ、そこで巨人に使われる毒薬として用いられているのがシャーロックよ。巨人族でもほぼ例外なく殺害できるうえに、彼らの自慢である肉体を朽ちらせる。ただ殺すだけじゃなく尊厳も奪えるってことで、好んで使われてるのよ」
「それは生々しくて嫌な話だね……。でもそっか、ようやくウルフさんの呟きの意味が分かったよ。本来罪人を殺すはずの毒薬でトロルさんが殺されてて怒ってたのか」
何ともやるせない話だ。トロルさんを殺した犯人がもし彼ら護衛団の中にいるのなら、その人はどんな気持ちで毒薬を盛ったのか。長い年月一緒にいればそれだけいろんな思いが募るだろうとは言え、罪人を殺すのと同じ方法を取るなんて。僕にも優しく接してくれたトロルさんだったけど、裏ではかなりやばいことでもしてたのだろうか。あれ、そう言えばエルフさんの殺され方も――。
「それじゃ、私も魔法陣の作成に戻るわね」
いつの間にか僕の真横にまで来ていたピクシーが、横目で僕を睨め付けながら飛んでいく。僕は反射的に彼女の足を掴むと、「ちょっと待って」と声をかけた。
「あんたレディの足を無断でつかむとか頭いかれてんじゃないの! さっさとその手を放しなさい!」
ぱっと手を放して謝りつつ、「まだ聞きたいことがあったから、つい」と言い訳する。そして、彼女の口から文句の嵐が飛び出る前に質問を加えた。
「今回はエルフさんの時と違って、匂いについて誰も言及しなかったけどあれでよかったの? 犯人は毒薬入りの何かをこの部屋に持ってきただろうから、前回と違って匂いを残さずに殺人を犯すって難しいと思うんだよ。だから匂いから犯人を絞り込んだり――」
「昨日はこの部屋を全員が尋ねたわ。あの侍以外ね。だから全員の匂いがこの部屋に存在したはず。だから犯人を絞る手掛かりにはならないわ。以上。さよなら」
僕の反応を見ることもなく、翅をパタつかせて部屋から出て行く。どうやら足を掴まれたのが相当気に障ったらしい。目に見えるくらいの不機嫌オーラを放っていた。さすがの僕もあれでは話し続けるのを躊躇ってしまう。
「でもなー」
どうせ僕がこの部屋を出たらまた彼女と対面することになるのだ。彼女がそれを分かっていればいいが、果たしてどうか?
と、不意に当初の目的を思い出した。
そもそも僕はトロルさんから食料と水を分けてもらいに来たのだった。ちらりと無造作に置き捨てられたリュックへと視線を向ける。
あの中を探り、食料を確保すべきかどうかしばらく迷う。が、結局諦めることにした。毒殺された死体を見たばかりだし、ここで食料を取っていくのは墓荒らしみたいであまり気分が良くない。
だいたい昨日僕がもらった分はまだ(ほんの少し)残っているのである。あれには毒は入っていないのだし、あと二日間程度はそれだけで我慢しよう。
そう決心し、結局何も取らずに部屋の外へ。
広間へ出た途端、ピクシーからの罵声が飛んできた。
理不尽。




