エピローグ
*スズ視点です。
私とフランソワは結婚後、二人で旅に出ることに決めた。
ポーションマスターの腕があれば仕事には困らないし、各地で冒険者ギルドに登録すれば二人で働きながら生活できるだろうという。
フランソワと私は最小限の荷物でモレル大公国の港から船に乗り込んだ。
家族や友人たちは港まで見送りに来てくれて、ちょっと泣きそうになってしまったけど、生きていればまた会える。未来の再会を約束して笑顔でお別れした。
出発の前に、マーリンとミリーの結婚式に出席した。精霊と人間が一緒に喜びを祝福する素敵な式だった。二人ともとても幸せそうで、私は何度ももらい泣きしてしまった。
精霊王は満足気に「孫の顔が見られるのが楽しみだ」と頷いていた。気が早いな!
パトリックは私たちのように卒業後すぐクラリスと結婚したかったらしいが、王族、しかも王太子の結婚となると準備も大変らしく「なんでこんなに時間がかかるんだ!」とブツブツ不満を溢していた。
ジェレミーはそんなパトリックを宥めながら、二人の幸せな姿を見て嬉しそうだ。
ジゼルはなんとタム皇国のユーリ皇帝と文通を始めたらしい。お米とその調理法について有意義な意見交換をしていると熱く語るジゼルをみて、
ちょっと・・・恋の予感がするかしら?
などと考える。
そして、ジゼル情報でナターリヤ姫とジャックの婚約が決まったと聞き、とても驚いた。
タム皇国では身分や血筋ではなく、実力主義で人材を登用する制度改革に力を入れている。
ジャックは試験を受けて見事官僚として合格し、めきめきと頭角を現して、あっという間に宰相の座に昇りつめた。
ほんとに?そんな短期間で?と思うけど、前宰相を始め多くの貴族が戦の責任を取って去った今、皇宮は真剣な人材不足に陥っているらしい。
ジャックには海外の商会との伝手が多くあり、貿易や経済的な施策が大当たりしたそうだ。
タム皇国始まって以来の平民出身の宰相ジャック・スパロウとして彼の人気は国民の間で最高潮に高まっているという。
海賊の二つ名を使って大丈夫なのかなぁと若干の不安を覚えたが、ジャックの名前は海賊というより、弱い者の味方である義賊として知られていたらしいし、あのジャックのことだ。手抜かりはないだろう。
私たちが乗る船はセドリックの船で、彼にも可愛い料理人の恋人がいる。料理人として一緒に乗船しているのでいつも彼女の手料理が食べられて嬉しいと、にやけきった顔で惚気ていた。
みんな幸せそうで、私も嬉しい。
そして、私も幸せだ・・・と甲板の船端に手をかけながら、隣にいるフランソワを見つめる。
フランソワは蕩けそうな表情で私の顎に指をかけ、ちゅっと軽く口付けをした。
軽い口付けだったのに、唇の柔らかい感触で・・・なんか色々思い出してしまい、顔がカーっと熱くなる。
「出航した後、二人でずっと船室に籠っていてもいいんだけどな」
と悪戯っぽく微笑むフランソワの言葉に益々体が熱くなった。
その時、船の汽笛が大きく鳴った。
プォ~~ン、プォ~~ンという音がして、三本のマストの帆が一斉に張られる。
強い風が帆を一杯に膨らませて、船がゆっくりと動き出す。
「これからは二人の冒険だな。スズ」
フランソワの言葉に大きく頷いた。
「うん。私の我儘を聞いてくれてありがとう」
「いや、俺も・・・こっちの方が性に合ってる。自由だしな!」
というフランソワの開けっぴろげな笑顔が可愛くて、彼の胸に顔を埋める。
私を力強く抱きしめたフランソワが
「愛してる。スズ。ずっと一緒だ」
と耳元で囁いた。
私たちの前には果てしない大海原が広がっている。
これで完結になります!読んで下さった皆様、誤字脱字報告をして下さった皆様、感想を下さった皆様、ブクマ・評価下さった皆様、本当にありがとうございました。
*深雪な様の描いて下さったとっても美しいイラストを挿絵にさせて頂きました。本当にありがとうございます!




