ジルベールの復活
ジルベールの隣にはマーリンとミリーも立っていて、微笑みながら私を見つめていた。
・・・信じられない。
私はジルベールの顔を見て、涙を堪えられなかった。
思いっ切りジルベールに抱きつくと、彼は優しく背中を撫でてくれる。
「・・・う、うう、良かった。ジルベール、無事だったのね・・・。私を庇って・・・。本当にありがとう・・・。ずっと心配していたの・・・」
「スズさま、私もまたお会い出来て嬉しいです。・・・私が目覚めたのはマーリン様のおかげなのですよ」
私は目をパチクリさせてマーリンを見る。
・・・マーリン、大活躍。凄すぎる。
マーリンは照れたように頭を掻いた。
「いや、大したことはしていない。偶然なんだ。俺は先日ミリーと二人で精霊の森を訪ねて行ったんだが・・・」
マーリンがミリーと目を合わせながら言う。うん!仲良さそうだね!
「ジルベールの様子を見せてもらって・・・。彼の傷から、微かに俺達の呪いのポーションと似たような気配がしたんだ。俺は呪いのポーションで使用された神龍の鱗を持っていたから・・。それが材料かもしれないと思って、精霊王に渡したら・・・それが当たっていたんだ。無事にジルベールが目を覚まして良かったよ」
「・・・あ、ありがとう!マーリン。あなたは私達の恩人よ。何と御礼を言っていいか・・・」
と言うとマーリンは照れたように赤くなった。ジルベールもうんうんと頷いている。
「本当にそんなに大したことはしていないんだ。・・・それにしても、奴らはある意味凄いな。通常、一枚の鱗から作れる呪いのポーションは一人分だ。どれだけ頑張ってもせいぜい二人分。俺とスズの分を作った後、欲張って鱗の神力を搾り取って、もう一人分作り始めたが足りなくなったので、精霊の力と混ぜて剣に纏わせたのだろう」
なるほどね・・・。
「だから、解呪もそれほど難しくなかった。無事にジルベールが目を覚まして良かった」
とマーリンは微笑んだ。
精霊の森で、マーリンとミリーは温かく歓迎されたらしい。
「黒髪差別は本当に無くなっていたんだ」
とマーリンは嬉しそうに語った。
「精霊王から、その・・・俺と一緒に暮らしたいと言われて・・・俺は大陸の結界が無事に修復されたら、精霊の森に行こうと思う。・・・その、ミリーと一緒に」
と恥ずかしそうにマーリンが言う。ミリーも一緒に赤くなっている。可愛いなぁ!
「精霊王は王に代々継承されてきた精霊の知識を俺に伝えたいらしい。いずれは俺に精霊王になって欲しいと言うんだ」
というのを聞いて
「それは凄いわ!おめでとう!」
と私は手を叩いた。
「勿論、良い王になるには努力が必要なことは分かっているが、ミリーがずっと支えてくれると言うから・・・」
とミリーを熱く見つめるマーリン。もう、デレデレだな!
「あ、それから、精霊王はスズのことはもう諦めたと言っていたから、安心していい。俺は・・・母、エイダに似ているらしくてな。俺が近くに居る時に他の女のことを考えるだけでも恐ろしいと言っている。勿論、冗談だろうが・・・」
と言われて、安堵の溜息をついた。良かったわ!
「そして、俺が筆頭魔術師を辞めた後は、ダミアンが筆頭魔術師で、オデットが首席魔術師になる予定だ。スズもいずれ宮廷魔術師を目指したらどうだ?」
と勧められて
「そうだね。将来のこともそろそろ考えないとな・・・でも、私は・・・」
と呟いた。
本当は冒険者になりたいんだけど、この年になってそんな夢を語るのは恥ずかしいかしら・・・。
「・・・それよりスズ、もうすぐ褒章式が始まるぞ」
と言われて、我に返る。
「マーリンは本当に出席しないの?私達より活躍した功労者なのに?」
「・・・俺は華やかな場は苦手だから。目立ちたくないから、スズたちに頼んだよ」
と笑うマーリンにはミリーが幸せそうに寄り添っていて、私まで嬉しい気持ちになった。
「分かった!二人とも幸せにね!」
と伝えて、ジルベールと一緒に褒章式に会場に向かう。
「こうやって一緒に歩くのも久しぶりだね!」
「私もまたスズ様の護衛が出来て光栄です」
とジルベールが微笑む。
本当に良かった。みんなびっくりするだろうな。驚いた顔が楽しみだ、と華やかな褒章式の会場に足を踏み入れた。
艶のある濃紺のタキシードを着たフランソワがすぐに私を見つけてくれる。
ピシッと決まったタキシード姿のフランソワはとてもカッコいい。短い髪にも良く似合っているな、と見惚れてしまった。
フランソワは愛おしくて堪らないという表情で私を見つめると
「スズ。どこに行っていたんだ。心配したんだぞ」
と私の頬をそっと撫でる。
そして、私のすぐ後ろにいたジルベールに気がつくと
「ジルベール!目を覚ましたのか?!」
と感動の再会と相成った。
お父さま達は勿論、パトリックやクラリス達もジルベールが無事に戻って来たことを喜んでくれた。
褒章式には、お祖父さま、お祖母さま、お父さま、お母さま、ジェラールとウィリアムまで全員集結していて、みんなで私の晴れ姿を見に来てくれたみたい。
荘厳な褒章式が終了した後、私はお父さま達と伯爵邸へ帰るし、フランソワは公爵邸に戻る。
なかなかフランソワと二人きりになる機会がないな、と少しがっかりしていたら、フランソワも寂しそうな顔で私を見ていた。
『またね』と口パクで言いながら手を振ると、彼も口パクで何かを言いながら手を振ってくれた。
多分・・・『愛してる』って言ったんだと思う。頬が赤らむのが分かる。
不機嫌そうにそんな私達を見ていたお父さまを、お母さまが「まあまあ」と宥めていた。




