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戦の後始末


私達が戦ったタム皇国の船団は、本当に皇国の主力艦隊だったらしい。


人的被害こそ少なかったものの、ほぼ全ての戦艦が壊滅状態になりタム皇国海軍はリシャール連合軍に対し、白旗を掲げた。


即ちタム皇国が敗戦したということだ。


しかも、友好条約を一方的に破棄しての攻撃だったことから、国際的な非難は全てタム皇国が被ることになった。


アラン国王はジラール国王やモレル大公と共に、戦後の講和会議に臨んだ。


タム皇国は皇帝とユーリ皇太子が代表として出席したが、戦勝国側から『皇帝の退位』と莫大な賠償金を求められ、皇帝が激高するという一場面もあったという。


しかし、結果は明らかだ。国際的な圧力やタム皇国人民からの非難の声も高く、イーゴリ皇帝は最終的に退位を受け入れ、ユーリ皇太子の即位が決まった。人々は歓喜に沸いたという。


皇帝はルドルフ第二皇子ととも無謀な戦争を引き起こした責任を取り、遠隔地の離宮に生涯幽閉されることに決まった。


現公爵であるバチスト・ルソーとルドルフ第二皇子妃であるアンジェリックは敵に軍事機密情報を漏らした罪に問われている。


彼らの情報漏洩のため、一番手薄だったモレル大公国東側に主戦力が当てられることになったのだ。下手すると亡国につながる重大な犯罪だ。国家反逆罪に準じる罪に問われることになる。


アンジェリックは正式にタム皇国からリシャール王国に送還されることとなり、兄妹は裁判を経て、いずれは懲役刑を受けることになるだろう。


ルソー公爵家は廃爵の可能性も論議されたが、結局クラリスの弟が公爵位を継ぎ、クラリスが後継人となることで落ち着いた。


クラリスのことが心配だったが、彼女は思っていたよりも元気そうで「今までの自分達の行動を省みるいい機会だわ」と言っていた。


ユーリ新皇帝は民からの税である国庫から多額の賠償金を拠出するのを嫌い、自らの私財を投げ打って賠償金の一部に充てた。


主戦派だった皇族・貴族たちは敗戦の責任を取り、全員廃爵。財産は没収され賠償金に充てられた。


穏健派貴族の中にもユーリ皇帝に倣い、私財を賠償金に充てる動きが見られたという。


ユーリ皇帝は「今後タム皇国を大きく改革していく予定だが、その前に民の生活を改善することが急務であり、そのために経済発展が欠かせない。もう一度友好条約を結び、交易関係を促進したい」と希望した。


彼の提案はこちらも望むものだったので、貿易促進策について互いの貿易担当大臣が会談を行い、今後より活発な交流が促進されるだろう。


徐々に国交も正常化していくことが予想され、戦争で不安が大きかった人々の気持ちも落ち着きを取り戻した。


そして、戦いから数ヶ月後、私達チーム・フランソワは王宮で褒章されることになった。


フランソワは真剣に嫌がっていたが、真の功労者であるマーリンと精霊王が褒章を断り、私達まで辞退すると国王の面目が潰れるとか何とか説得されたのだ。


褒章式に合わせて国際貿易展示会も開催する予定だそうだ。各国の貿易担当大臣や商会も出席し、多くの人々が集まる機会に展示会でそれぞれの国の特産品を紹介するのだという。


海外の特産品(特に食べ物)が勢ぞろいする機会なんてそうそうある訳じゃない。


私達はそれも楽しみで、褒章式前に多くの人たちに混じって各国の食べ物の試食に群がっていた。


その時、ジゼルの歓声が聞こえた。


どうしたんだろう・・・と近づいてみると


ジゼルがタム皇国の展示ブースの前で跪いていた。


慌てて駆け寄って


「だ、大丈夫?どうしたの?」


と顔を覗き込むと、片手で口元を覆いながら、ぷるぷると震える指で展示ブース前に置かれたテーブルを指し示す。


そこには三角と楕円の中間形に近い真っ黒な物体が並べてあった。


『ライスボール』という表示を見て、ジゼルは祈るように手を組み、目を潤ませている。


「・・・お、おにぎりがこんなところに・・・夢にまで見た・・・」


その時爽やかな声がして


「良かったらお一ついかがですか?」


と言う方向を見ると、なんとそこにはユーリ皇太子・・・じゃなかった、ユーリ皇帝が立っていた。


きちんとした礼服に可愛らしいフリルのエプロンを着用している。


「・・・こ、皇帝陛下・・・」


と私がカーテシーをすると、ジゼルも慌てて立ち上がって礼をする。


「いいや、今日私は国の特産物を売るセールスマンのつもりで来ているんだ。無礼講で頼むよ。良かったら、このライスボールを試食してくれないか?見た目でみんな近づいてもくれないんだ。皇国の特産品である米を売りたいんだけどね・・・」


というとジゼルが目を爛々とさせて


「是非!是非試食させて下さい。海苔も特産品なんですか?中には何か入っているんでしょうか?」


と積極的に話し出す。


「ああ、シーウィードのことかい?そうなんだ。タム皇国は海産物が豊富でね。ユレイシア大陸では食べないような魚も調理して食べることが多いよ。ライスボールの中にはサーモンの塩焼きを入れているんだ。こちらではサーモンも食べると聞いたから・・・」


という皇帝の返事に、ジゼルがうぉぉぉぉぉという地を這うような咆哮を放った。


彼女のキャラ設定は初登場時から確実に変わってきている。食べ物の力は強い。


「是非!是非私に試食させて下さい」


というジゼルの目の奥には炎が燃えている。


「・・・・美味しい~~~」


と泣きながらライスボールを食べるジゼルは注目の的だった。


私も一つ頂いて食べたが、やはり美味しい。中の塩気の効いたサーモンとも良く合うし、このモチッとしたお米は絶対に売れそうなのになぁ。調理法が広まれば、きっと人気が出るだろうと思いながら、もぐもぐと食する。


それを見ていた周囲の人たちも興味を持ち始めたようだ。


どんどん人が集まって来て、皇帝直々に特産品の説明をしている。


・・・多分誰も皇帝だと思ってないだろうな、とエプロン姿のユーリ皇帝を見ながら思った。


皇帝はジゼルに三つ目のおにぎりを渡している。


「試食分が足りなくなりませんか?」


と尋ねると


「いやぁ、彼女があまりに美味しそうに食べてくれるんで、嬉しくて・・・」


と照れくさそうに答える皇帝。


「・・・あ、ありがとうございます!本当に信じられないくらい美味しいです。夢にまで見た味です!」


と涙ながらに御礼を言うジゼル。そして、じっと見つめ合う二人。


ん?


と思ったけど、私はタム皇国の他の特産品を見て回ることにした。


フランソワも褒章式には当然出席するが、国王陛下に呼ばれて今はお父さまやお母さま達と共に会議中らしい。


その時


「スズ!」


と声を掛けられて、振り向くとセドリックが立っていた。


そっか、当然シモン商会もこの展示会には絡んでるよね。


米をタム皇国から仕入れるように後でお願いしてみよう。


お母さまが詳しそうだから、売れそうな料理を作ってマーケットで売り出してもいいかもしれない。


頭の中で算盤をはじいているとセドリックがクスクス笑う。


「・・・お前、本当に考えてることが分かり易いよな。ところで、俺はお前を呼んで来いって言われたんだ。ちょっとついて来てくれる?」


と言われたので、ジゼルに一言声を掛けると親鳥について歩く雛鳥のようにセドリックの後についていった。


別室に案内されてドアを開けると、そこにはジルベールが立っていて


「スズさま、お久しぶりです」


と跪いた。


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