戦
宣戦布告をしてから実際に攻めて来るまで二日程度あるというので、私達はその間迎撃準備に勤しんだ。
フランソワ率いる私達のチームは、モレル大公国の東側に配備された。
諜報によるとタム皇国の主戦力はモレル大公国の西側と中心にある港を狙って来るらしい。
西側は大きな商業地区で経済の中心である上に、軍への重要な補給路になっている。また、港湾は重要な軍事施設でもあるから当然の判断だ。
東側はビーチが広がっているが背後は高い崖であり、非常に上陸しにくい地形になっている。なので皇国の船が攻めてきたとしてもほんの数隻程度だろうという報告なので、私達は比較的安全な場所に配備されたのだ。
フランソワの指示で、私達は崖の上に陣を布いた。ここなら敵の船の動きが一目瞭然で分かるし、攻撃もされにくい。私達は魔法を使って迎撃し、敵の上陸を防ぐのが主な任務となる。
私達は既に作戦の打ち合わせをしたし、それ以外は特段やることもない。ベンチに座っておやつを食べながら敵の襲来を待っていた。
しばらくすると魔法を使った拡声器で、敵の襲来を知らせる警告音が辺り一帯に鳴り響いた。
私達は予定通りの配置で敵を待ち構える。
予想通り、東側の沿岸に近づいて来る船は4~5隻で、船上では武装した兵士たちが矢をつがえて打つ準備をしている。
私はジェレミーと一緒に浜の砂を使い、高い壁を作った。
私もジェレミーも昔より魔力が増えて、技術も上がっている。ずずずという音と共に10メートル程度の高さの壁が沿岸一帯に現れた。
敵の兵士たちがどよめいて、慌てている様子が見える。
それでも近づいてきた船から兵士たちが矢を打つが、壁に当たって矢は弾かれるだけだ。
今度は大砲を持ち出して打ってきたが、壁はびくともしない。
ジゼルが火の魔法で、炎を纏った弾丸を敵の船のマストやエンジン部に打ち込むと敵は益々混乱した。
フランソワとパトリックが海水の流れを変えて、敵の船を遠くへ追いやり、クラリスの風がそれを後押しする。
敵船はそのまま遠くに消えていった。
やった!と私達がハイタッチをして喜んでいると、フランソワが眉間に皺を寄せて
「・・・おかしいな。あっけなさすぎる」
と呟いている。
心配性だな、なんて呑気に考えていた私は、クラリスの悲鳴で我に返った。
クラリスの指さす方向に視線を遣ると、そこには数百・・・下手すると千近い船がこちらに向かって来るのが見えた。奥の方に巨大な司令船も見える。
え・・・?
私は自分の目が信じられなかった。
フランソワは舌打ちして
「くっ、どう見たってこれが主戦力じゃねーか!諜報は何やってんだ!」
と怒鳴りながら私達に指示を出し、狼煙を上げて援軍を求める合図をした。
私とジェレミーはもう一度砂で壁を作り、そこに魔力を流す。
フランソワとパトリックは海水を持ち上げて、思いっきり敵の戦艦に浴びせかける。幾つかの船が転覆し、周囲の船が海に投げ出された兵士の救出を行っている。
ジゼルも炎の弾丸を打ち込み多くの船のエンジンを止め、クラリスも強い風を送り何隻もの船が横倒しになっている。
しかし、敵の数が多すぎる。どれだけ倒しても次から次へと船が現れ、何十発も大砲の弾を私達の壁に打ち込んだ。
最初は持ちこたえたが連続して打ち込まれると壁の一部に穴が開いた。
船がその穴目掛けて突進する。壁に開いた穴に突っ込んだ船から兵士たちがゾロゾロと上陸を始めた。
・・・しまった!
上陸を始めた兵士をクラリスが風で吹っ飛ばした。
私も土で穴を塞ぐようにして邪魔をするが、如何せん数が多すぎる。
そして、更に大砲の弾が撃ち込まれ私がいくら魔力を送っても、壁に限界が来るのが分かった。
・・・どうしよう!?
敵の兵士はロープを使い、崖をよじ登り始めている。
クラリスが慌てて兵士を風で吹っ飛ばし、パトリックとフランソワも上から水をぶちまけて上陸を阻止している。
しかし、これだけの人数を私達だけで食い止めるのは不可能だ・・・。
援軍が来てくれないと、ここから上陸されてしまう。
次から次へと現れる船と兵士たちに絶望的な思いをしていた時
「スズ、良く頑張ったな・・・もう大丈夫だ」
という聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこにはマーリンが立っていた。
マーリンが片手で薙ぎ払うような仕草をすると、崖を上っていた兵士が全員風で海に吹き飛ばされた。
その後、土魔法で私達が作ったものより遥かに高い壁を建てる。
敵の船の大砲でもびくともしない。
・・・すごい!これが筆頭魔術師の実力なんだ・・・と感動する。
マーリンは私の視線を受けて、照れくさそうに微笑む。
フランソワは私たちを見てちょっと不機嫌そうだが、大人らしくマーリンにきちんと御礼を言って握手をした。
「しかし、敵船の数が多すぎる。援軍はまだ来ないのか?」
とフランソワが言うと
「援軍の到着にはまだ時間がかかる。完全に敵の戦略を読み間違えたな・・・。と言うよりこちらの軍事戦略を敵に流した裏切者がいる」
というマーリンの言葉にクラリスがビクッとした。
その時、空から数本の光の筒が降りてきた。
あ・・・これは・・・と思っていたら、案の定精霊王とその側近たちだった。
「スズ!」と嬉しそうに私に近づく精霊王の前に、フランソワが立ちはだかる。
精霊王のこめかみに怒りの青筋が浮き出たが
「・・・まあいい。今は緊急事態だ。戦に関しては、リシャール国王と事前に盟約を結んでいたからな。狼煙が見えたのでやって来たんだ」
と身を引いた。
しかし、不機嫌そうな様子は隠そうともせず
「この大陸が危機に晒されているということは、精霊の森も危機に晒されているということだ。全く身の程知らずな愚か者め・・・」
と呟きながら、天に向かって手をかざす。
するとたちまち真っ黒い雨雲が集まってきて、辺りが薄暗くなる。
ゴロゴロ・・・という不吉な音がして、天空から鋭い光の矢が敵の戦艦に鋭く突き刺さった。
嵐も同時に呼んだらしく、大雨の中荒れた海のせいで戦艦同士がぶつかりあって、大変な混乱が巻き起こっているのが手に取るように分かる。
私達がいる場所は快晴なので、精霊王の力は凄まじいという感想しか出て来ない。
更に何発もの雷が戦艦を襲い、船が沈んでいく。周囲の船が投げ出された兵士らを収容しているので、まだ残っている船は兵士で満杯になる。とても、戦どころではない。もう戦闘意欲もなさそうだ。
ダメ押しにもう何発かの雷の矢を受けた後、敵の司令船から白い旗が差し出された。




