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結界の危機


どれくらい時間が経っただろう?


バタバタと足音と人の声がした。


私は必死で「みゃ~!」「み~!」と訴えるが、まだ声が上手く出ない。


お父さま達が私を探して駆け付けてくれたんだ。


・・・私は猫になっちゃったけど・・・。


叱られるかな、と不安を覚える。


お父さまとお母さまとフランソワがその場に現れた。


地面に打ち捨てられた私のドレスを見てお母さまが悲痛な叫び声をあげる。


私のドレスに取りすがりながら「スズ!スズ!」と叫んで号泣している。


お母さまがこんなに取り乱すのを初めて見た。


お父さまは怒りで顔が真っ赤だ。


フランソワは・・・?と見ると、完全に表情が消えていた。


蒼い瞳の奥に真っ黒い闇が潜んでいるようで、ゾクッとする。


冷たい氷の刃のようだ。こんなフランソワも今まで見たことがない。


その時、何か大きなものがピシッと崩れる感覚があった。


お父さまが慌てて


「オデット!お前の魔力が結界に届いていない!」


と叫ぶ。


お母さまが泣きながら、必死で呼吸を整えている。しばらくして、再び魔力を供給し始めたようだ。


それでも、お母さまの顔は絶望に歪み、とめどなく涙が頬を伝う。


すると、お母さまが目に見えない誰かと話を始めた。


「神龍を?ここに?」と話している。


お父さまがお母さまに声を掛ける。


「ぷくが何か言っているのか?」


「うん。微かにだけど神龍の気配を感じるんだって。神龍を呼び出したら何か事情が分かるんじゃないかって」


「呼び出せるか?」


「多分。やってみる」


と言って、お母さまは魔法陣を描き出した。


お母さまが描く魔法陣は優美で私は見惚れてしまった。


地面に描かれた魔法陣が光を帯びて、術式が浮かび上がる。


強い光の筒が立ち上り、その中から少しずつ白い影が姿を現した。


現れた荘厳な神龍は優しい眼差しでお母さまを見つめている。


涙を拭って神龍に丁寧に挨拶をするお母さま。


「久しいな。娘よ。我が子は壮健か?」


何かに耳を傾けていた神龍が満足気に頷いた。


「あの、私の娘が・・・!消えてしまって!ドレスだけが残っていたんです。スズに何かあったら私は・・・私は・・・」


とお母さまが再び泣き出した。


「腹立たしい。我の鱗を呪いに使ったか」


と神龍が呟く。


「・・・呪い!?やっぱりスズは呪いに掛けられてしまったのですか?」


お母さまが涙声で叫ぶ。


「ああ。だが、お前の娘はそこにいる」


と神龍が言ったので、私は必死に声を出した。


「みゃ~、みゅ~」だけだけどさ。


驚く程の素早さでフランソワが私に駆け寄った。


大切そうに私を抱き上げる。


手のひらに私を乗せてフランソワは私の眼を覗き込んだ。


・・・ち、近い!近すぎです!


美しすぎる顔貌を間近に見て、私の心拍数は急上昇した。


恥ずかしくて目を合わせられない。


フランソワが優しく「スズ?」と声を掛ける。


もしかしなくても、そんなに甘い声で名前を呼ばれるのは初めてだ。


益々心臓がドキドキする。


ちらっと顔を上げてフランソワを見ると


「スズだな?」


と訊かれたので、コクリと頷いた。


それを見ていたお父さまとお母さまが、私を奪い取ってぎゅっと抱きしめる。


ぐぇ・・・いや、普通に苦しいから。


フランソワが慌てて「スズを潰すな!」と怒鳴る。


お父さまとお母さまは恥ずかしそうに私を離すと、そっと地面に私を降ろした。


まだ体が上手く動かせない。


私の動きを見てフランソワが再び私を掌に載せた。


「スズに神経毒が使われている。骨も折れている。重症だ」


と言うとお父さまとお母さまの目が険しくなった。


フランソワの目も剣呑に光っている。


「・・・卑怯な」


とお父さまが拳を握り締めて呟いた。


フランソワがそっと私を撫でながら治癒魔法をかける。


ああ、気持ちいい。


やっぱり猫って撫でられると気持ちいいんだな、と実感。


フランソワの瞳がとても甘くて優しい。


動物に対する方が優しい目をするんだな。


私このままずっと猫でもいいかも・・と考えてしまった自分が怖い。


お母さまは心配そうに


「大丈夫?スズ?痛いところはない?」


と訊く。


私は必死で何が起こったかを説明した。


勿論「みゃ~、みゅ~」だけだけどさ。


神龍は私の言葉を理解できるらしいが、丁寧に通訳してくれる気はないらしい。


でも、ぷくが通訳してくれているようで、お母さまには事情が伝わった。びっくりだ。


お母さまはお父さまとフランソワにも情報を伝える。


フランソワはあまりの衝撃に立っているのも辛いようだった。


「・・・セルジュが?」


とふらついているので、私は慌てて


「セルジュが裏切ったわけじゃなくて、彼は操られているだけなの。それに、まだ奴らはセルジュを利用するつもりでいるの。魔王の剣で彼を切るつもりなのよ!」


と説明する。


お母さまを通じてそれがフランソワに伝わる。


「奴らはどこに・・・?」と悔しそうに呻くお父さま。


馬車の行先ね。


私はあの時セルジュはわざと馬車の車輪にペイントボールをぶつけたんだと気が付いた。


ペイントボールのことを説明すると、フランソワが早速追跡しようとしたが、神龍がそれを止めた。


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