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セドリックとの別離


その後、ジャックからセドリックが目を覚ましたと伝えられた。


「二人だけで話したいだろう。行って来いよ」


とフランソワから言われて、セドリックがいる船室に向かう。


案内してくれるジャックは面白そうに


「あのフランソワという男は・・・お前の何なんだ?」


と聞いてくる。


私は無愛想に


「私の母の義理の弟です」


と答える。


「義理・・・ね」


とニヤニヤしながら私を見るジャックを睨みつけると


「いや、悪い。怒らせるつもりはないんだ。ただ、フランソワは死にそうなほどお前のことを心配していてな。お前は奴の恋人か何かかと思ったんだ」


という返事が戻って来た。


・・・こ、恋人!?は、初めて間違えられた。ようやく、親子から抜け出せた?


顔を紅潮させながら内心喜んでいると、ぶふぉっとジャックが噴き出した。


ゲラゲラ笑っている。何がそんなに可笑しいんだ!?


「いや、お前は・・・いいな。よっぽど大切に純粋培養で育てられたんだな。人を疑うということを知らんのか?こんなに感情が顔に出る娘は初めてだ」


やっぱりバカにされている気がする、とむくれていたら、セドリックの船室に辿り着いた。


私が船室に入ると


「ごゆっくり」


とニヤニヤ笑いのジャックがドアを閉めて出て行った。


セドリックは船室のベッドで身を起こしていた。


手当はされているが、全身傷だらけで、顔も膨れ上がっている。


精悍な顔立ちは見る影もない。


私が慌てて治癒魔法をかけようとすると


「いや、止めてくれ。俺はスズに治癒魔法を掛けてもらう価値のない人間だから」


と拒絶された。


なんで!?


私の顔を見て、セドリックは苦笑した。


「ごめん・・・。俺はスズの言葉を信じなかった。スズが何の根拠もなく人を疑う訳ないって知ってたはずなのに・・・。ミレーユが俺達を裏切ったんだ。俺達の航路だけでなく、ジャック達との通信内容も敵に漏らしていた。船の結界まで解いて・・・」


セドリックは悔しそうに壁を拳で叩く。ドンという鈍い音がする。


拳も痛そうだ・・・。


「・・・ねぇ、お願い治癒魔法を使わせてくれない?ミレーユのことは当然だよ。だって、セドリックの大切な幼馴染なんでしょ?疑われたら腹が立つのは当たり前じゃない?」


「スズ・・・。夕べは襲われて大変だったんだろう?海にまで落ちたって聞いた。大切なスズをそんな目に遭わせて・・・。しかも、ミレーユはお前を誘拐させようと企んでいたんだ。俺のせいでスズを危険な目に遭わせた・・・。どうやってお詫びしたらいいか・・・」


「結果、無事だったんだからいいじゃない?私は気にしてないよ」


と言うとセドリックの両目からボロボロと涙が零れ落ちた。


「・・・っ、俺は!・・・もうお前を好きでいる資格がない!」


私は突然のセドリックの台詞にも涙にも驚いて声が出なかった。


「それに・・・お前はまだフランソワが好きなんだろ・・・?すぐに分かるよ」


「・・・うん。しつこいかな?」


「いや、フランソワが羨ましいよ・・・スズみたいな子に好かれるなんてさ」


「・・・フランソワはそう思ってくれないけどね」


「俺から言わせるとあいつは大バカだな。・・・結局、6年経っても俺はスズの気持ちを惹きつけることが出来なかった・・・」


「・・・ごめん」


私は何と言っていいか分からず俯いた。


「いいよ。謝るのは俺の方だから。危険な目に遭わせてごめん。スズが無事で本当に良かった。俺はさ、いつかスズを振り向かせたいとか、大それたことはもう考えないけど、スズのためなら出来ることは何でもする。困ったことがあったら絶対に俺を頼ってくれ」


と言われて「ありがとう」と言うしか出来なかった。



その後、フランソワの船室に戻ると


「どうした?大丈夫か?何かあったのか?」


と矢継ぎ早に質問された。


「・・・何でもないよ」


と言うと


「お前の元気がないと心配なんだ。喧嘩したのか?酷いことを言われたりしたのか?・・・あいつめ・・・スズにこんな顔させるなんて・・・っ」


と悔しそうに言い募る。


ああ、心配性の叔父バカなんだな・・・と思うと、どっと疲れが出た。


今は何も考えたくない。


「本当に大丈夫。喧嘩もしてないし、酷いことも言われてないよ。二人のことだからフランソワに口を出されたくない」


と私にしては素気なく言ってしまった。


すると傷ついた顔をしたフランソワが


「そう・・・だな。恋人同士のことに口を挟むなんて無粋だった。すまない・・・」


と肩を落とす。


罪悪感がチクチクするけど、フランソワには私とセドリックが付き合っていると思っていて貰わないといけない。


沈黙が気まずかったが、何を言っていいのか分からない。


するとドアがノックされ、ジャックが入ってきた。


「ようやく援護の船が到着した。タム皇国の近衛騎士団も乗っている。船中のルドルフ一派は全員捕えられるだろう。皇太子とも連絡が取れた。玉璽を早急に届けることが最優先だ。この船は今からタム皇国に向かう。その後必ず安全に全員をモレル大公国の港まで届けるからしばらく辛抱して欲しい」


と言われ、フランソワは「分かった。感謝する」とジャックに手を差し出した。


ジャックがフランソワの手を取り、固く握手をする。


「お前達、なんか気まずい雰囲気だな。何かあったのか?」


遠慮ないジャックの台詞に


「私が少し疲れちゃって・・・。タム皇国に着くまで仮眠させて貰っていいかな?」


と答えると「勿論」と言って別な船室に案内された。


部屋を出る前に、フランソワには笑顔で「おやすみ」と言った。


彼も笑顔で「おやすみ。ゆっくり休め」と返してくれる。


でも、その笑顔の影で彼が何を考えているのかは全く分からなかった。


案内してもらった船室の固いベッドに横になるとあっという間に睡魔に襲われる。


・・・ああ、本当に疲れた、と私は数秒で眠りに落ちていた。


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