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臨時講師 オデット


楽しい休暇はあっという間に終わり、忙しい学院での生活が再び始まった。


セドリックやお祖父さま達に別れを告げて、馬車に乗り込んだ。


別れ際にセドリックから


「またクリスマスにな!」


と言われて


「楽しみにしているね!」


と答えた。


セドリック一家とのクリスマス休暇は私にとって楽しみな年中行事だからね。


お父さまは苦々しい顔をしていたけど、フランソワやお母さまに窘められて最終的には笑顔で見送ってくれた。


学院に戻ると再び忙しい毎日が始まり、光の速さで時間が過ぎていく。



気が付いたらもう12月に入っていた。


もうすぐクリスマスだ。


楽しみだな、なんて呑気に過ごしていた私は、セルジュの特別講師としてお母さまが魔法学院に来ると聞き驚いた。


「一日だけね。光属性について教えられる教師がいないからって、オデット様が来て下さるんだ」


何でもないことのようにセルジュは言う。


「僕は普通の魔法の授業もサボっているから別に必要ないんだけど、学院長は一応約束した以上は何かしないと、と思ったんじゃない?」


ああ、そういえば属性テストの後に学院長がそんなこと言っていたな、と微かに思い出す。


でも、お母さまが学院に講師としてくるなんて・・・うーん、複雑な心境だわ。


お母さまはとにかく目立つ。


その美貌もそうだけど、何か輝くオーラというか華があるんだよね。


なので、その日学院に登場した時から、お母さまは男女関係なく生徒の注目の的だった。


学院長が「こんな機会は滅多にないから」と午前中に一般生徒に対しても魔法の模擬授業を行うことになり、相手役として私が舞台上に引っ張り上げられた。


魔法を使ったデモンストレーションを行うということで、私を実験台にして土、風、水、火、光のそれぞれの属性の魔法の効率的な使い方を分かり易く説明していくお母さま。


大勢の生徒の前でも怯むことなく、堂々と解説するお母さまは凄いな、と娘として誇らしく思う。


お母さまに向ける生徒たちの視線にも明らかな尊敬の念が感じられる。


最後に闇属性の魔法について説明するお母さま。


「・・・そのように闇属性の魔法は人の精神や感情に直接影響します。人の悪意を増幅する力もあれば、悪意を緩和することも出来ます。当然悪意の増幅は禁忌とされますが、悪意の緩和に関しては鬱病や心的外傷の治療に使用されることもあります。魔法のやり方をこれからお見せしますね。スズ、ちょっとこちらに来て」


と呼ばれて、近づこうとすると


「その子の心には悪意なんか無いから、実演にも何にもならないわよ!」


と言う不躾な大声が生徒の間から上がった。


誰だろう?と見るとジゼルが立ち上がって、お母さまを睨みつけている。


見学していた学院長が慌てて


「君!オデット様になんという失礼な口の聞き方を!」


とジゼルを叱りつける。


お母さまは学院長を穏やかに止めて


「どういうこと?スズだと実演にならないと言うのなら、どうしたらいいと思う?」


とジゼルに優しく問いかけた。


ジゼルは驚いたようだが


「ふん!あんたなんか悪役令嬢のくせに偉そうに!」


とお母さまに向かって指を指した。


学院長の隣で見学していたフランソワのこめかみに青筋が立っているのが見えた。


・・・あれは・・・怒ってるな。


お母さまはニッコリ笑って


「ああ、あなたがジゼルさんね。分かったわ。スズだとダメだと言うのなら、あなたが舞台に上がって実演の手伝いをして下さる?」


と有無を言わせぬお願いをした。さすがお母さまだ。


ジゼルは


「・・・え?な、なんで私が・・・」


とぶつぶつ言っていたが、仕方なく舞台に上がってきた。


お母さまは


「ゲームの筋書きを信じすぎると幸せにはなれないわよ」


と周囲に聞こえないような小さな声で囁きながら、彼女の背中に手を当てた。


お母さまが魔力を送っているのが分かる。


すると彼女の全身が強い黒い光に包まれた。


黒い光が彼女を縛る蔓のように彼女の体に絡みつく。


ジゼルが苦しそうに「・・うぅ」と呻き声をあげた瞬間に、お母さまの手から強烈な光が発生して、黒い光の蔓が一気に消滅した。


ジゼルは茫然とお母さまを見つめる。


「相当強い悪意を育てていたようね。気をつけなさい。さあ、席に戻っていいわ」


と他の生徒に聞こえないようにお母さまが小さく声を掛けると、ジゼルは軽く会釈をして自分の席に戻る。


釈然としない・・・という表情のジゼルは、周囲のクラスメートからの質問に言葉少なに答えている。


学院長の


「それでは以上でオデット先生の模擬魔法の公開レッスンを終わります。一流の宮廷魔術師でいらっしゃる先生の指導を受けられるのは大変幸運なことですよ。それでは拍手で感謝の意を表して下さい」


という音頭と共に講堂が大きな拍手で包まれた。


お母さまと私は一緒に頭を下げて退場する。


今日はお母さまが特別にお弁当を作って来てくれたので、フランソワとセルジュも一緒にフランソワの準備室で食べることになっている。


セルジュとの個人レッスンは午後の予定だ。


準備室の前まで来ると、お母さまは


「ちょっと用事を思い出したから先に行っていて」


とどこかに走り去った。


どうしたんだろう・・・とその後ろ姿を見送っていたら、


「どうしたの?」


とセルジュに声を掛けられた。


「・・・いや、あの・・お母さまがね、突然用事があるってどこかに行っちゃって・・・」


と言うと


「あそこにいるよ」


とセルジュが指さした先には、中庭でジゼルと向かい合うお母さまが居た。


「な、なにやってんのかしら!?」


さっきの騒ぎもあったし、お母さまは大丈夫だろうか?と心配になる。


「スズってホントに顔に出るよね。オデット様のことが心配なんだよね?大丈夫。任せといて」


と窓を開けた。


そこには一羽の鳩がとまっていたいた。


セルジュが鳩を見ると、鳩が頷いた・・・ような気がした。


目と目で通じ合ってる・・・!?


パッと飛び立つ鳩。


お母さまの背後に着地すると、ぐるっぽーと無害な鳩のふりをしながらさりげなく二人に近づく。


やるな・・・あの鳩。


感心しながら見ているとお母さま達の話は終わったようで、ジゼルは立ち去りお母さまもこちらに戻って来る。


「とりあえず鳩の報告は後で受けることにするよ」


というセルジュの言葉に頷いて、まずはお母さまの絶品お弁当を堪能することにした。


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