入学式
入学式の日がやって来た。
魔法学院の入学式で新入生挨拶をしたのは、なんとクラリスだった。
堂々とスピーチするクラリスを見て、誇らしさで胸が一杯になる。
でも、ちょっと緊張しているのかな・・?
あ、噛んじゃった、と思ったら、
「いやだ、ちゃんと話すことも出来ないの?」
「それにあの髪の色・・・下品な色よね」
「あれで王太子の婚約者とか・・・あり得ない」
「なんでアレが新入生代表になったのかしら?」
というヒソヒソ声が聞こえてきた。
ムカッときて言い返そうとしたら、別な方角から鈴を転がすような声が聞こえてきた。
「貴方たち、入学式で人の悪口なんてお止めなさい。品性を疑われるわ」
そちらを見ると、金髪碧眼の完璧な美少女が意地悪令嬢達を睨みつけていた。
意地悪令嬢達は気まずそうに咳払いしながら
「別に・・・そんな」
「悪口っていうほどのことじゃ・・・」
と言いながら目を逸らす。
ちゃんと注意をしてくれる人がいて良かったなと思っていると、その令嬢とバッチリ目が合った。
「はじめまして。私はジゼル。ロジェ伯爵の娘です」
と手を差し出されたので
「はじめまして。私はスザンヌ。でも、みんなスズと呼ぶの。だからスズと呼んで下さい」
と手を握る。
女性の挨拶で握手なんて珍しいな、と思っていたら、ジゼルがはにかむように微笑んだ。
おお、美少女の笑顔。可愛い!
「スズ。私もジゼルと呼んでね。お友達になれたら嬉しいわ」
早速友達が出来た!やった!と心の中でガッツポーズを取った。
と・・・気が付いたらクラリスのスピーチは終わっていた。ごめん、クラリス。
入学式の後教室に行くと、パトリック、ジェレミー、セルジュ、クラリスが全員揃っていた。
「やった!みんな同じクラスなの?」
クラリスと手を取り合って、ピョンピョン飛び跳ねながら喜んだ。
このメンバーで一緒に学院生活を送れるなんて!もう楽しい予感しかしない!
男性陣も照れくさそうに笑っている。
すると背後から
「スズ!あなたもこのクラスなの?嬉しい!」
という声が聞こえた。
先程のジゼルが笑顔で立っていたので、私は早速みんなに彼女を紹介した。
「ジゼル、こちらはパトリック、ジェレミー、セルジュとクラリスよ」
「皆様、初めまして。ジゼルと言います。お会いできて嬉しいですわ」
と見事なカーテシーを見せた。
パトリック達は如才なく挨拶を返したが、クラリスの顔は若干強張っていて、言葉が出てこないようだ。
クラリスが極度の人見知りなのは分かっているので、
「クラリスは少し恥ずかしがり屋さんなの。でも、とっても優しくていい子なのよ」
と付け加えた。
ジゼルは笑顔で
「ふぅん、そうなんですか。それなのに人前でのスピーチは堂々と出来るんですね」
と言う。
クラリスが少しビクッとした。
「それは少し違うんじゃないかな?人見知りでもここはしっかりしなくちゃっていう場面だとスイッチを入れられるのよ」
と私が言うと、ジゼルが申し訳なさそうに
「ごめんなさい・・・そんな悪気はなかったんです・・・許して下さい」
と俯いた。
え?!私、そんなきつい言い方したかな?
パトリックが
「スズははっきり物を言うが悪気はないんだ。そんなに謝る必要はないよ」
と口を挟む。
「あ、ありがとうございます。お優しいんですのね・・・」
とウルウルの瞳で上目遣いに見つめられたパトリックは
「いや・・そんな・・・ことないけど」
と照れている。
どこがどうと指摘できないけど、何となく一連のやり取りにモヤモヤしつつ私は席に着くことにした。
クラリスは小さな声で「スズ、ごめんね」と囁く。
「クラリスは何も悪いことしてないよ。私の言い方がきついんだよね。気をつけるよ」
と笑顔で返した。
私がクラリスの隣を陣取ると、パトリックが反対側の私の隣、ジェレミーが私の前、セルジュが私の後ろに座った。
他の生徒も次々と席に着く。ジゼルはパトリックの隣に座った。
ジゼルは
「スズとクラリス様は仲が宜しいんですね?」
とパトリックに話しかけている。
「ああ、俺達五人はずっと一緒の仲間なんだ!」
とパトリックが大声で言うと
「へぇぇ、そうなんですか・・・」
と釈然としない様子でジゼルが呟く。
しばらく待つと担任の先生が乱暴に教室の扉を開けて入ってきた。
その先生の顔を見て、私達は驚愕のあまり絶句した。
・・・担任の先生はフランソワだった!




