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クリスマスがやって来た。


その日、私はクリスマス休暇を過ごす準備をして、セドリックが迎えに来るのを朝早くから待っていた。


今回同行するのはジルベールだけだ。


荷物も必要最低限にした。


ソワソワと伯爵邸の玄関口でうろついていたら、馬車でセドリックが現れた。朝早くから爽やかな笑顔だ。


最初は国境近くまで魔法で転移して、その後馬車でモレル大公国に向かう予定だという。


家族に別れを告げた後、転移魔法の使用が許可された場所まで馬車で移動し、その後魔法で国境付近に転移する。


転移した先では別な大きな馬車と御者が待っていてくれた。


セドリックが私の手を取り馬車に乗るのを手伝ってくれる。三人が馬車に落ち着くとゆっくり馬車が動きだした。


モレル大公国への旅は順調だった。


セドリックによると、まずモレル大公国にあるシモン家の屋敷に滞在する予定だという。


そこで一泊した後で、皆で港に向かい船に乗るそうだ。


私達が住むこの大陸は『神龍の加護を受けるユレイシア大陸』と呼ばれ、そこには三つの国が存在する。


リシャール王国は、ユレイシア大陸の中心にある。その周囲をドーナツのように二つの国が取り囲んでいるのだ。


その二国がモレル大公国とジラール王国であり、両国ともリシャール王国とは友好同盟関係を築いている。モレル大公家もジラール王家もリシャール王家とは近しい血縁関係にある。


リシャールが内陸にあるのに対して、両国は海に面していて港があり外国との交易が盛んだ。


両国ともリシャール王国を盟主と仰ぎ、この大陸ではリシャールが国防の要となっている。


リシャール王家は魔力が強い家系として知られており、代々大陸に結界を張って大陸を侵略から守ってきた。


ユレイシア大陸は大陸としては最も規模が小さく、だからこそ大陸全体に強固な結界を張ることが可能だったという。


更に現在大陸を守る結界は神龍の神子が特別に張ったものなので、それを破るのは絶対に不可能だと言われている。


タム皇国はモレル大公国側の海を越えた大陸にあり、好戦的な軍事国家だ。昔から資源も豊富で土地も肥沃なユレイシア大陸への侵略を目論んでいる。


ただ、この20-30年は比較的友好的な外交政策を取っており、リシャール王国も油断はしないまでも穏健な外交路線で落ち着いている。


バチストの妹アンジェリックがタム皇国の第二皇子と婚姻したのもその表れであろう。


カツコツという蹄の音と、馬車の心地よい揺れを感じながら、そんなことを考えていると、モレル大公国との国境が近づいて来た。


あ、この辺りはヤンお祖父さまの住む療養所がある近くだ、と見覚えのある周辺の景色に目を向ける。


窓の外の景色を見ているだけでも物珍しくて楽しい。


ジルベールとセドリックは黙って目を閉じている。眠っているのかな?


私はこの周辺までしか来たことがない。


ここから先は初めて見る景色だと今から心がワクワクする。


道路の石畳が土に代わり、馬車の揺れも次第に激しくなってくる。


と、国境を越える関所が見えた。武装した兵士が数人で道路を塞いでいる。


セドリックが外に出て、許可証を見せると兵士らは笑顔で馬車を通してくれた。


初めての外国!初めてのモレル大公国だ!


リシャール王国は基本的に平地が広がっているが、モレル大公国は土地に起伏が多い。


通り過ぎる小さな町の中心には大抵小高い丘があり、そのてっぺんに教会の尖塔や鐘が見える。


田園地帯では、青々と茂った牧草地に馬や牛が放し飼いにされている。山の斜面のような牧草地にも家畜が放牧されていて、とても興味深い。


見るもの全てが珍しくて私は窓にしがみついていた。


セドリックもジルベールも何か微笑ましいものを見るように私を眺めていたが、私は全然気にならなかった。


その日の夜遅くに辿り着いたシモン家の屋敷は豪華というより素朴で温かみのあるもので、シモン家の家風を反映したものなのかなと感じた。


セドパパとセドママの人柄が現れていてホッとする。


私達が馬車を降りると、セドリックの家族全員が出迎えてくれた。


セドママが私を思いっ切り抱きしめて


「スズ様、よくいらっしゃいました!」


と歓迎してくれる。


セドパパは強面の大男だが、ニコニコとした笑顔はアライグマみたいでとても可愛い。


セドパパの隣に背の高いイケメンが立っていて、セドリックが


「兄貴のポールだ」


と紹介してくれた。


「噂以上の美しさですね。セドリックがいつもお世話になっています」


と私の手を取って指先に触れない程度に顔を近づける。


「弟が怖いので」


と悪戯っぽく笑うポールはやっぱり見事な赤毛と緑色の瞳だ。


セドリックにそっくり。彼の数年後の姿だね。


そして、その隣で超可愛らしい女の子が一生懸命カーテシーをしてくれている。


私もお返しにカーテシーを返して


「ありがとう。とても綺麗に出来ていて偉いわ」


と言うとツヤツヤのほっぺを上気させて嬉しそうに笑う。


可愛すぎる・・・。


「妹のメラニーだ。あと、弟のダニエル」


とセドリックが紹介してくれる。


ダニエルは恥ずかしがり屋のようだ。セドママのドレスの端を掴んで後ろに隠れている。


顔を少し覗かせた時にニコっと笑いながら


「初めまして、ダニエル。私はスズよ。会えて嬉しいわ」


と挨拶すると、真っ赤になって再びセドママの後ろに隠れてしまう。


セドリックが言い訳するように


「ごめん・・・。人見知りで」


と言うので


「全然問題ないよ。可愛い。滞在中に仲良くなれたら嬉しい」


と返した。


セドリックはホッとしたように笑うと、私のカバンを持って私の部屋に案内してくれる。ジルベールの部屋は隣にしてくれたようだ。


部屋で楽なドレスに着替えると夕食の支度が出来たと侍女が呼びに来てくれた。


私の好物の牛肉の赤ワイン煮が用意されていて、涎が溢れるくらいに湧いてきた。


お腹がぐぅぅぅっと鳴ってしまって、恥ずかしい。


「お腹空いたでしょう?さあ、食べて!」


とセドママに言われ「いただきます!」と手を合わせて、食べ始めた。


牧場の動物たちの話をするとダニエルも興味を持ってくれたみたいで、少しずつ打ち解けてきた。


最後はみんなで大笑いするような和やかな雰囲気になった。


気さくで楽しい家族だな、とセドリックを見ると、バチっとウインクされた。


お腹も満たされ、長旅でクタクタに疲れていた私は、その夜幸せな気持ちでぐっすり眠った。


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