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飛び領地邸の仮面夫婦  作者: 市境前12アール
第六章 商取引
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2.マム騒動(1)

「……念の為聞くけど。マムさん、実はちょくちょく壁を超えてるなんてことは無いよね」


 マムが神父様の教会に()()したという神父様からの手紙に、全員が無言になった後。エフィムの冗談めかした質問に、一瞬だけプリィと目を合わせる。その視線を受けて、小さく首を傾げるプリィ。それを見て、一つため息をついてから、エフィムの質問に答える。


「そうね。交易屋じゃあるまいし、あの人がわざわざ壁を超えるなんてことはないはずだけど……」


 自分で言うのもなんだけど、歯切れのわるい返事に、再び訪れる無音。何ていうか、「もしかしたら」と思ってしまうような雰囲気がマムにはあるし、エフィムたちもそう感じているのだろう。


……と、黙っていてもしょうがないと思ったのか、スヴェトラーナが話題を変える。


「具体的に、手紙には何て書かれてるのかしら?」

「……えっと、デュチリ・ダチャのマムを名乗る人が突然教会を訪ねてきて『つい先日ここを訪れたミラナって()の知り合いなんだけど、少しの間このあたりを見て回りたいから、泊めてくれないかね』と頼まれたらしい。で、その人が本当にミラナの知り合いなのかもわからないから、確認の意味を含めて一度連絡してほしいと、そんな感じかな」


 スヴェトラーナの質問に少し考えてから、手紙に書かれた内容を要約して話すエフィム。彼が言うには、神父様が所属している「神の教会」は旅人信仰で、その一環として旅人を格安で泊めている。だから、帝国に滞在するために泊めてほしいというマムの申し出は決しておかしいものではないらしい。


「とはいえ、そのことをマムが知ってたかどうかはわからないけど」

「……多分、知ってたんじゃないかしら」


 街の人はそんなこと知らないよねと言うエフィムに、マムの外国文化好きのことを話す。マムは色んなところに情報網を持っているし、外国のことが書かれた書物も数多く所有している。だから、マムなら知っていてもおかしくないと。


 その私の説明を聞いて、ひとつ納得したようにスヴェトラーナが反応する。


「あの建築様式や使用人服のデザインの元はそこですか。こことも帝国とも違う意匠なのは不思議でしたが、なんとなくわかりましたわ」


 不思議に思っていた疑問がひとつ解消したとばかりに頷くスヴェトラーナ。そんな彼女を横目に、エフィムが尋ねてくる。


「ちなみに、ミラナは神父様のこと、マムに伝えた?」

「ええ。手紙で少しだけ。――確か、『デヴィニ・キリシュラッドという駅で降りて、馬車に乗ってフェディリーノ神父の教会に行って精霊と契約した』と、そんな感じのことを書いたはずよ」


 マムが神父様に興味を持つなんて思わなかったから、本当に少ししか書いていないと、エフィムやスヴェトラーナに説明をする。その説明に、どうしてそれだけで壁を超えて会いに行こうと思うのかしらと頭を抑えてつぶやくスヴェトラーナ。そんな彼女を横目に、エフィムが言う。


「……まあ、とにかく駅まで行って、通信機で神父様と一度話しをしようと思うけど。どうする?」


 エフィムの言葉に、私とスヴェトラーナが、当たり前のように頷きを返した。


  ◇


 ちなみに。神父様の教会で宿泊できるのなら、なんでこの前帝国に行った時に教会に泊まらなかったのか、エフィムに聞いてみた。……神父様の教会に着いた頃はもう夜も遅かったし、そこからミシチェンコフ家に行くよりは教会に泊まる方が自然に感じたから。


 でも、エフィムの言葉を聞いて、なんとなく納得する。


「まあ、教会に泊まっても良かったんだけどね。ただ、あそこに泊まると神父様の説法を聞かなきゃいけなくてね。しかも真面目に」


……そうね、確かに()()神父様の説法を真面目に聞くのは少し苦痛かもしれない気がすると、そんなことを思った。


  ◇


 そうして、通信機を使って神父様と話をするために、駅へと出発する。メンバーはエフィム、スヴェトラーナ、私、プリィの四人。移動手段は馬。……スヴェトラーナがどこかに行く時は馬車で行くことが多いから今回も馬車かも知れないとちらりと思ったんだけど、そんなことは無かった。


 そうして、またもやプリィに手綱を預けた状態で、駅への道を歩く馬に揺られる。


「確かに、馬に乗れれば便利なのは確かですわね。でも、皆が馬に乗れる訳ではありませんわ。私も、軍属だから覚えただけですわよ」

「そうそう。だから、そんなに気にしなくてもいいよ。それに、急いで話をする必要があると言っても、一刻一秒を争っている訳じゃないからね。のんびり行けばいいさ」


 そんなスヴェトラーナとエフィムの言葉。現に、軍と縁の無い人間、例えば侍女のホーミスさんは馬に乗れないらしい。……そうね、言ってることはわかる。フォローしてくれてることも。でも、そうじゃないのよ。そう思いつつ、話題を変えるべく、エフィムに話しかける。


「……それよりも。マムがグロウ・ゴラッドから『壁を超えて』教会に行ったことは伏せるのね」

「そう。マムは僕の知り合いの外国人で、たまたま帝国に来て、その途中に神父様の教会に立ち寄った。でも、神父様はマムのことを知らない。だから、本当にその人が僕の知り合いかどうかを確認するために手紙を出したと、そんな筋書き」


 マムを「エフィムの知り合いの外国人」という設定で神父様たちと口裏をあわせようという、ちょっとした小芝居。駅にある通信機は帝国軍に盗聴されているかも知れないから「壁超え」のことは伏せようという、神父様の提案なんだけど……


「まあ、実のところ、問題は無いと思うんだけどね」


 そもそもエフィムの本来の任務は、壁の外の交易屋と取引をして珍しい品物を手に入れること。だから、エフィムが壁超えした辺境の民と話をするのは別におかしいことじゃない。だから、仮にマムの壁超えのことが問題になったとしても、エフィムの権限でどうにでもできるらしい。


 そのことは、もちろん神父様も知っているはずなんだけど……


「まったく、どうしてこんな神父様の娯楽に……」

「でも、確かにそういうのがすごく好きそうな人でしたね」


 どうして神父様の遊びに付き合わないといけないのかと不機嫌そうなスヴェトラーナに、どちらかというとその遊びを楽しんでそうなプリィの言葉。エフィムもどちらかというと楽しんでる感じかしら。


「でも、さすがにマムも神父様がどんな人間かまでは知るはずないわね。驚いたかも」

「……神父様がどんな人か、手紙に書かなかったのですか?」

「ええ。神父様に興味を持つとは思わなかったので」


 ふと思ったことを口にすると、横からスヴェトラーナの声。……こんなことになるとは思っていないし、神父様がこの先商売に関わるとも思っていなかったから、神父様の性格は一切伝えなかったと答えると、「あの性格を書かずにいられるなんて……」と、よくわからない驚き方をする。


……えっと、私たちとマムは文通してるのではなく仕事の一環として情報のやり取りをしているのだからあたり前だと思うんだけど、彼女の常識は違うのかしらと、そんなことをチラリと思う。


 と、そんなことを話しながら、馬に揺られながら、駅への道を進む。


  ◇


 そうして、駅について。いつものように扉を開けて階段を上って、駅員さんに挨拶がわりに敬礼をして、通信室へと入る。


――ここは帝国、盗み聞きされてる、マムは帝国の人間と、頭の中で反芻をする。


 その間に、エフィムが通信機を操作をする。全員に聞こえるよう受話器のスピーカー音量を大きくしてから接続、交換手とやり取りをして。やがて、神父様の教会、デュ・センティエスィプリ教会へとつながって……


「オウ、ミスタエィフィム。オマチしてマシタ! ……コノ人、チョト、フザケすぎオモイマス。ココ来て、アナタたち知り合い名乗って、なんて言った、オモイマス? 『ちょっと通りかかったついでに寄ってみた』とかヌカすデスヨ! 帝国人デモナイヒト、ドウシテ、ココ、通りかかるデスカ!」

「そいつはちょっとした言葉のアヤだね。そんな細かいこと気にしてると笑われるよ」

「アタリマエのこと言って、ワラワレル、アリエヘンデス。テイウカ、ワライを取りにキテル、そっちやでチャイマスカ?」

「失礼な。ウチはいつだって真面目だよ」


 スピーカーから、二人の騒々しい会話が流れ出てきた。

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