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そっと、うしろを見てごらん

 人間は、自分が好きな世界に居続けたいらしい。


 初対面の人が入り混じる場面では、自己紹介が行われる。「私は、〇〇が好きで、〇〇について一緒にお話ができたら嬉しいです」という紹介がよくなされる。実際、それで会話が弾んでいる光景を何度も見たことがある。同じアーティストが好きだったり、同じアニメが好きだったり、出身地が同じであったり、と。共通点というのは、なぜだか人間の関係を良好にするらしい。


 僕も会話の話題として共通点を持ち出すことはある。しかし、同じものが好きだからといって、そこで親近感が湧くことはない。ここで、どうやら世間からは、ずれるらしい。たとえ相手と同じ出身地であることを知っても、それを知る以前よりも親近感が湧くことはない。ローカルな話が通じるなぁ、と思う程度だ。


 もし会話相手と同じジャンルの本が好き、同じアーティストが好き(僕は特別、好きなアーティストを決めていない)だとすると、僕はむしろ残念に感じる。なぜなら、自分が知っている世界を相手も知っているからだ。「相手もその世界を知っているなら、わざわざ話はしなくてもいいか」と諦めに近い感覚を抱く。だから、共通の話題に口に出さなくなる。


 これは一般的ではないようだ。多くの人の場合は、共通点が見つかると、お互いが共有している点を言葉にしたくなる。「〇〇(アーティスト名)って、〜なとこがいいよね」「△△(著者名)の・・・という本は、面白いよね」など、そういう会話を通して、お互いの類似点を把握し仲間だと認識する(僕の想像です)。念のために書きますが、僕はそういうこと自体が悪いとは思わない。ただ、それ自体が不思議な現象だなぁ、と感じるのだ。


 むしろ僕は、知らない世界を知っている人がいると興味が湧いてくる。自分が知らないジャンルの本、自分が聞かない音楽、自分が知らない世界について知っている人がいると、その人に近づこうと思う。「〜と思わない?」という共感する会話ではなく、「〜って知ってる?」という会話の方を好む。言い方を変えれば、一つの世界で楽しむのではなく、複数の世界を同時に楽しみたいといえる。簡単にいえば「飽き性」である。


 一つの世界にいたくなく、安住嫌いな飽き性にもメリットがある。それは、寛容性だ。仮に相手が自分の好まない会話をしていたとしても(たとえば、自分が嫌いなアーティストや本のジャンル)、僕が受け入れることができる。なぜなら、自分が嫌いと思っている世界も、意外な発見があるのではないかと考えているからだ。しかし、僕の周囲でしばしば見受けられるのは、一つの世界にこだわる人は、その世界の外に対して嫌悪感を示す。特に、その世界が自分の嫌いな世界だとすれば、「もうあなたとは、うまくいきませんね」と言いたげな態度を出す。あるいは、「自分の考え、感覚と違うのでお断り」といった拒絶を行う。


 僕は、そのような態度をとらないよう心がけている。というのは、一つの世界に居続けることに、僕は疎ましさを感じるのだ。その態度に、どこか「見ぬふり」をしている自分を見つけてしまう。手で目を塞ぎ、大声をあげて外の世界から隔離している自分がいる。それは、「私は幸せ」と言った時の排除性に似ている。その幸せを感じた時、何かが隠蔽されている。そこに世界で困っている人はいない。僕は「見ぬふり」をしているから、幸せを感じる。


 「それって生きにくいでしょ?」って言われそうだが、僕は自分の世界だけを見て安心している自分を見るほうが嫌だ。そちらの方が僕にとっては「生きにくい」。だから、時折うしろを見てみる。そこで火事が起きていても救い出せないかもしれない。だけど、無視はしたくない。僕が見つけたところで何になるのかと聞かれると、「僕だけではどうにもなりませんねぇ」と言うしかない。それでも、自分の目や耳を塞ぐことはしたくない。知らないよりも知っていた方がいい。僕にとって、そっちの方がずっと生きやすい。

 

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